アクションラーニングフォーラム2019@関西 レポート②パネルディスカッション 〜学生ALコーチの切り開く新しい世界〜
アクションラーニングフォーラム2019@関西
第2部 パネルディスカッション 〜学生ALコーチの切り開く新しい世界〜
認定学生ALコーチとは、WIAL(世界アクションラーニング機構)の正規のトレーニングに則り、大学でアクションラーニング(以下、AL)を展開するために養成された学生コーチのことです。認定は大学在学期間限定となりますが、その活動は大学内のプログラムのサポートから、一般企業での組織開発サポートなど、多岐に渡ることが期待されています。現在早稲田大学、立教大学、京都教育大学に加え、金城学院大学、甲南女子大学といった女子大学にも展開が始まっています。今回は3大学の学生ALコーチ養成事例と、学生ALコーチを企業研修に取り入れている事例について、パネルディスカッション形式で伺いました。
モディレーター 日本アクションラーニング協会代表 清宮普美代
パネラー 甲南女子大学 教授 佐伯勇氏
金城学院大学 教授 長谷川元洋氏
京都教育大学キャリアカウンセラー 清水伸剛氏
株式会社ノーリツ 人事部 人財開発グループ 中野浩一氏
■甲南女子大学におけるリーダーシップ科目と学生ALC養成の取り組み
(甲南女子大学 教授 佐伯勇氏)
変化が激しく先の読めない時代には、チームで多様性を活かし納得解を導き出す人材が必要です。甲南女子大学では、このような人材を育成するため、2017年度より全学年共通の初年次選択科目として、「リーダーシップ科目」を西日本の大学で初めて導入しました。現在受講可能な学科全体の9%相当の学生が受講しています。
本科目の特徴は3つあります。1つ目は「全員発揮のリーダーシップ」を開発すること。リーダーシップを「チームの目標達成のために、他のメンバーに与える影響力」と定義し、特定の役職者だけが発揮するものではないことを謳っています。2つ目は「プロジェクト型学習と経験学習の往還」です。プロジェクト型学習ではプロジェクトだけに意識が向きがちですが、目標設定・内省・フィードバック・改善を行う経験学習の時間を作り、両輪を回す構造にしています。3つ目は「LA(学習アシスタント)が授業を進行し、教員はLAを支援すること」です。前年度にリーダーシップ科目を受講済みの上級生がLAとなり、授業運営や学習指導・相談対応を行います。1年生にとってはLAがロールモデルになります。
LAを含む上級生が更に効果的にリーダーシップを発揮するスキルを身につけるため、認定学生ALコーチの養成講座を今年度より開講しました。現時点では8名中2名の学生が認定を受けています。
ALコーチの養成講座で育成されるスキルは、大学での学習にも役立ちます。問いを立てること、他者の考え方との違いを明確にすること、物事を構造的に捉えることなどは、大学の学びにおいて不可欠な要素です。特にゼミなどの演習科目において、これらのスキルが発揮されるような仕掛けを作っていきたいと考えています。
今後は、ノーリツ社への研修など学外の取り組みに学生ALコーチを派遣する予定です。学内でも、京都教育大学のような学生同士での就活に関する課題解決や、部活動・学生の自治会での課題解決にALを活かしていきたいです。主体性を身につけ、多様性を活かす人材を育成したいという思いは大学も企業も同じではないかと思いますが、一組織内だけではなかなか難しいのではないでしょうか。ALを活用して、企業と大学が対等に学べるような場を作っていきたいと思っています。
甲南女子大学 リーダーシップ教育教育プログラムのfbページはこちら→★
■WLI(Women’s Leadership Initiative)の紹介
(金城学院大学 教授 長谷川元洋氏)
私が所属している国際情報学部は、2012年度の創設時よりWLIというリーダーシップ科目を設置しています。スタート当初は手探り状態で問題山積の状態でしたが、立教大学の先生にFD研修で講演をしていただいた際にALを知り、導入に踏み切りました。本学のリーダーシップ科目の特徴は、WLIの科目をAからFの6段階設置し、A,Bは1年生の必修科目として組み込んでいることです。CからFまでは2-3年生の選択科目としています。受講人数はA,Bが200人、C以降も各科目数十名となっており、選択科目を受講している上級生がALコーチとして1年生をサポートしています。私が担当しているWLI-Cは、本年度より認定学生ALコーチを養成する科目とし、そこで学んだことをDからFの発展科目で生かす形式です。
WLI-Dでは実際に、名古屋市の隣にある尾張旭市への提案活動を行なっています。尾張旭市の抱えている課題に対して、質問作りからスタートし、ALセッションの中で実際に質問をし、回答を書き出して分類するといった形でプロジェクトが進行します。今年からWLI-Cで質問会議についてより具体的に取り組んだことで、学生たちの質問力が高まり、多くの、深い質問が出てくるというと効果を感じています。リーダーシップの最小3要素(目標設定、率先垂範、相互支援)について、毎回学生に積極的に伝えていますし、振り返り部分でも考えさせるようにしています。
今年の学生ALコーチの認定セッションを行う中で、本取り組みに興味を持ってくださった地元企業様の抱える課題を取り上げてALセッションを行ったりしています。すでに社内研修への派遣ニーズもいただいていますが、さらに学生ALコーチの活躍の場を広げたいと考えています。
■京都教育大学でのアクションラーニングの取り組み
(京都教育大学キャリアカウンセラー/バランシィエ 清水伸剛氏)
京都教育大学では、リーダーシップ科目としてではなく、就職活動している学生に対してALを導入しています。本学は基本的に教員を養成するための単科大学で、一般企業や公務員試験受験など、教員にならない道を選択する学生は少ないです。ですが、ここ数年で就職希望の学生が少しずつ増えてきており、学内での認知度向上によって私1人ではキャリア支援が行き渡らなくなってきました。そこで2015年12月より就活生同士が主体的に活動できる場作りを目指して、AL導入を始めました。
具体的な導入の目的は3つあります。1つ目はALを通じ、就活生全般にサポートが行き渡ること。2つ目は、就活を終えた先輩や就活同期との繋がりづくりです。弊校内では、就職活動をする学生がどうしてもマイナーになるため、ともするとレールから外れた人と扱われ、孤立がちです。他大学と異なり情報は自分で集めるか、私に相談しにくるしかありません。そこで先輩のノウハウを知ってもらったり、縦や横のつながりを作ってもらうことを狙っています。3つ目は集団発言トレーニングです。就職活動のグループディスカッションなどで生かされる力を培います。
3回生の一般企業への就職希望者や4回生の公務員志望者がメンバーとなり、ALコーチトレーニングを受けた4回生の内定者がセッションを行います。またALコーチはノーリツ社の研修にも参加させていただいています。
目に見える効果としては、まず就活でのグループディスカッションの通過率がUPしていることが挙げられます。また先輩との繋がりができ、就活の体験やノウハウが後輩へつながっています。そしてテーマが就活という直近の課題なので、実際に自分で行動計画を立てて実践し、振り返り学習するというサイクルを回せるようになってきています。
■NoritzのAL導入事例
(株式会社ノーリツ 人事部 人材開発グループ 中野浩一氏)
株式会社ノーリツは、主に風呂給湯器の製造販売を担うメーカーで、3,000名ほど国内に社員がおります。私は人材開発のための研修担当として、2015年から社員向け能力開発セミナーのために、学生ALコーチを派遣していただく取り組みを始めました。直接のきっかけは2014年に私が認定シニアコーチの研修に行った際、リーダーシッププログラムの中でALを展開している立教大学と出会ったことです。ノーリツでは2013年から管理者向けに部下育成研修として、また一般社員向けのリーダーシップ能力開発セミナーにALセミナーを導入していました。しかし、なかなかALの効果や活用場面がイメージしにくいという課題を抱えていました。より楽しく効果的にALを理解してもらうために、認定学生ALコーチに来ていただくことにしました。現在まで立教大学や京都教育大学、早稲田大学の学生に来ていただいています。
実際に導入して特に効果を感じるのは、ベテランの管理者が、自分の娘くらいの年齢の学生に素朴に質問されてとても刺激を受けているという点です。学生ALコーチに来ていただく前の質問会議では、普段指示命令ばかりをしている管理者がALコーチ役で場を進めたところでなかなか上手く発言を引き出せませんでした。しかし学生コーチの進行を体験し、ファシリテーション能力に感銘を受ける人が多く、普段、部下をコントロールしがちな気持ちからALのルールに従って、意識して質問しようという気持ちになる人が多くいます。親子ほどの年の差の学生から様々な質問されることで、本質的な気づきが得られることも多いです。
研修は3日間のプログラムで行なっています。1日目はALを知ってもらい、2日目にコーチの体験をします。その後現場でセッションを展開してもらい、1ヶ月後ほど経ってから3日目として振り返りを踏まえ、学習を促すコーチスキルをさらに研鑽してもらうという流れです。研修の際にはお互いをニックネームで呼び合うといったルールも取り入れ、フラットに楽しくやれる環境を作るようにしています。最近は、管理者や一般社員に加え内定者なども参加し、更に多様なメンバーで研修を行えるように進化しています。
■Q&A
ノーリツの中野さんにお伺いします。50(歳)近い管理者クラスの人が、娘ほどの年齢の学生の質問によって変化しているのはすごいことだと思いますが、どうして変化できたと思いますか。
中野さん(ノーリツ):まずはALセッションのルールに基づいて展開したことが大きいと思っています。あとはニックネームでお互い呼び合うことも、雰囲気を柔らかくする上で効果的でした。学生コーチからの素朴な質問内容の効果もありますが、そもそも20歳ほどの学生が(おじさんを相手に)臆せず場を進行したり介入したりという、ファシリテーションの力そのものに刺激を受けているようでした。
– 全くノーリツ社のことを知らない学生は、具体的にどんな質問をするのですか。
中野さん(ノーリツ):色々ありますが、例えば、管理者が「この商品のシェアを3%上げたい」と発言した時に「そもそも3パーセントって何台くらいなんですか?」という素朴な質問されていたことが印象的です。管理者はその時初めて「あ、100台くらいかな…」と具体的に考え、実は若手社員にもより噛み砕いて説明しないと伝わっていないのかもしれない、という気づきを得られたようでした。
– 社内全体の雰囲気がフラットになったなど、変化は感じられましたか。
中野さん(ノーリツ):研修当日は気づきも多いものの、職場で定期的に展開している部署は正直ごくわずかで、そこが今後の課題です。ただ、一定時間こういう研修機会を持つこと自体は効果があると思っています。
– 京都教育大学の清水さんにご質問です。就活生に対してのAL導入で、実際はどのように学生を集めているのでしょうか。開催頻度はどのくらいですか。
清水さん(京都教育大学):就活生に対しては、 ALと言っても何をやるのか伝わらないので「就活のグループディスカッションに活かせる場」「就職相談会」と打ち出しています。これによって参加者が増えました。一般的に質問会議の質問の仕方のルールは「自分の意見を言わないためにある」と捉えられているようですが、学生に対しては僕は逆の効果もあると思っています。本学の学生は集団討論の中で自分の意見を言うことが苦手な傾向にあります。でも質問という形式であれば、外部から評価が入る可能性が意見よりも低くなって、発言しやすくなります。すると発言が増え、回数を重ねることで経験値を増やし、やがて集団の中で発言ができるサイクルになるのではと思うのです。前期では月に1回、後期は月2回を、他のプログラムとの組み合わせで実施しています。
– 職場内で質問会議を実践してみたいのですが、すでに知っている人同士でやるためのアドバイスはありますか。
稲岡さん(滋慶学園):始めからテーブルだけを囲んで身構えるとなかなかできないと思います。なので、会議の場の真ん中にお菓子を置くなど本当にちょっとした工夫をすると、意外に雰囲気がよくなって進行しやすくなりますね。あとは「問題を解決しよう」と思って集まらないことです。問題解決しようとすると、普通の会議と同じになってしまいますので「一緒に成長しよう」という心算で入る方が、今まではうまくいきました。
– 質問のようで、詰問になってしまうことはあると思いますが、質問する側が大事にすべきことは何でしょうか。
清水さん(京都教育大学):自分の意見を一旦脇に置いて、その人のことを知りたいという角度で質問することでしょうか。「why」という疑問詞を使わず「what」(何がそんなにやりたいと思ったの?など)にするとトーンが和らぎます。
長谷川さん(金城学院大学): 学生にはいつも、オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンを区別しようと言っています。クローズドな質問を繰り返すと詰問のようになりがちだからです。また、質問をしているうちに他人の問題を考えているようで自分の問題を考えていることも多いため、共感的な態度で質問会議に臨むということを伝えます。
清宮:質問会議の場合は、グループ内の質問をコーチが整えることが肝になります。自分の思考パターンでジャッジしてしまったときに、質問ではなく詰問になってしまうと思うんですね。自分の思考を保留して、相手の思考パターンに寄り添う質問ができるかがポイントです。
– 質問会議は1対多数で行うと思いますが、1対1でも生かせる点はありますか。
清宮:1対1のスキルでも生かせる点はあると思います。ALでやることでよりいい点は、グループでやるからこそ自分も見ている人も気づくということです。グループ内での質問の質が向上すると効果が高まる。促せる内省効果、気づきがあるところが、質問会議のいいところですね。
大学の先生方に対してお聞きしたいのですが、学生の能力開発という観点で見ると、学生ALコーチの養成によって、肌感では学生の能力開発はどれくらいできていると思いますか。
長谷川さん(金城学院大学):僕の体感値では毎週1回、5週程度に渡って取り組むと慣れてくる感じがします。メンバーであっても他人の質問から刺激を受けて、質問の効果を実感できてきている気がします。
佐伯さん(甲南女子大学):学生によりますが、メンバーに対する観察力、質問の質の評価、質問によるフォローアップと共有のスキルなどは、短期間でもある程度開発されているように感じます。特に、ノーリツ社さんや、他大学学生との合同セッションなど、多様性のあるメンバーでのセッションに参加した学生の方が成長が速いようです。学内の学生メンバーだけだと、型を覚えることに意識が向きがちなので、今後さらに育成方法を工夫したいと思います。
清宮:学生さんにもお伺いしてみましょう。ALトレーニングをやっていて感じる効果はありますか。
学生A:他大の学生と質問会議をやってみて、会話にどの程度入り込んだらいいのか、俯瞰してみたらいいのかの調整具合が大事で、型に当てはめないことの重要性が学びになりました。自分の大学で後輩とセッションをしているときに、自分が正解と思うことを与えたくなっても、皆が課題を発見するまでの道のりを質問を通じてフォローアップできるようになったことも大きな学びです。
学生B: 日常生活で、例えば友人の恋愛相談に対し、これまでは「こうすればいいじゃん」と方法論ばかり言っていることに気がつきました。今は「じゃああなたはどうしたいの?」と自分の意見を押し付けず、問題を解決する方法を促せるようになったのが一番よかったことです。
日付 | 名称 | 参加区分 |
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2019/12/7 | アクションラーニングフォーラム2019@関西 |