アクションラーニングフォーラム2019@関西 レポート①-2アクションラーニングによる学校組織開発と教員の教育力向上プログラム
2019年度エクセレントアワード受賞企業事例紹介
アクションラーニングによる学校組織開発と教員の教育力向上プログラム
〜質問会議を活用した授業リフレクション〜
一般財団法人滋慶教育科学研究所 稲岡隆輔氏
変わる専門学校を取り巻く環境と問われる授業の質
ここからは具体的に、教育の質向上の取り組みのひとつとして、授業を行う教員の研修にALセッションを導入している例をお伝えします。私は普段はグループ内の国家試験対策センター長をしており、全国7,500名の学生が国家試験にできるだけ多く合格することをミッションとしています。そのためには普段の授業の質を向上させることが大事だと考えてきました。
専門学校は、高等教育機関の中でも、様々な外部環境・制度が変化しています。2014年に職業実践専門課程の認定が始まったことで、医療・福祉などといった国家資格系領域だけでなく、ミュージシャンやコンピュータプログラマーなどセンスが問われるような分野の専門学校においても、産学連携システムの徹底、情報公開が義務付けられ、それに見合う教育の質が問われる時代になっているのです。
本学園で教壇に立つ約1,200名の教員の多くは、教職課程を学んできているわけではなく、基本的には実務卓越型であり、「その専門職として現場で5年以上の実務経験を持っていること」等が教壇に立つ要件です。したがって、授業のやり方はそれぞれが経験してきた専門学校もしくは職業訓練学校のモデルあるいは我流でしかありません。さらにはグループ内で扱う職種は500に渡るため、教える内容、業界の特徴が皆違います。これをひとまとめにして、「授業とは何か」から教えることは非常にハードルの高いものでした。
またOJTとして公開授業を実施するにも難しさがあります。本来的に授業というのは、授業者と学生との関係で成り立っていますが、公開授業は、その関係性で生じる現象を外から観察し、後から各々が感じた内容を踏まえて振り返るというものです。大抵の場合、参加者は授業者がどんな意図で、何を感じながら授業をやっていたのかも分からぬまま、現象として見てとれる教員のスキル、学生の様子のチェックをしがちです。すると「この授業では使えても、他の授業では展開できない内容だ」「これだけの学生が寝ていた」など、批判的な意見が飛び交うことになるんです。また、授業評価の基準も曖昧なため「自分だったらこうするのに」などと、各々の授業感、成功体験、パターンに依存した評価を受けることになります。これでは授業者は二度とやりたくないと考えますし、参加者は各々に意見を述べるだけで、両者共になんの成長も生まれません。この状況を何とかしたいと考えたときに、ALに出会いました。意見を言わず、評価をせずに、双方が成長できるような振り返りの方法が存在するのかと、目からウロコでした。これは絶対に授業の振り返りの場面で活かせると考えたのです。
OJTの研修とOFF-JTの研修を組み合わせとALによる振り返り
そこで手法として、OFF-JTの研修とOJTの研修を組み合わせ 、初めて教壇に立つ人が自信を持って授業ができるような年間プログラムを考えることにしました。新規の入職者には3月末にOFF-JTとしてスタート研修を行った後、4、5月は学校現場で自分なりに授業をしてもらいます。失敗してもいいので、一度体験してもらうことを大事にするのです。そして6月のフォローアップ研修で初めて、それまでの授業をALセッションで振り返ってもらいます。この経験を糧にさらに授業実践を重ねて、10月から12月にかけてOJTとなる公開授業を行い、その振り返りにもALセッションを導入しています。翌年1月にもう一回省察としてレベルアップ演習を行い、年間に計2回はALセッションを体験してもらっています。 またグループで75校もの学校があるため、各学校で実施できるようにしようと学園内でのコーチ養成プログラムを並行させています。
特に肝となったのは、公開授業後の振り返りにおけるALセッションです。具体的には、まず授業者が質問会議における問題提起者として、自分の授業の中で起きていたこと、感じていたことを振り返ります。例えば「こんな意図を持って授業をしていた」「ここが上手くいかなかった」「もっとこんな風にしたらよかったと思う」ということです。その後、授業を見ていた参加者は、「あの場面でなぜこういう話をしたのですか」と、通常批判や評価をしたくなる事柄を、質問に変えてぶつけていきます。コーチは本来の役割として、時間と手順を管理し、場の雰囲気作りをし、チームの学習を促進する役割を担います。
このセッションに参加してみて感じるのは、授業者も参加者もコーチも、何かしら学びがあるということです。授業者は、その日の授業について自分の言葉にすることで、内省するようになります。例えば「たくさんの学生が手を挙げた中で、なぜあの時に○○くんを当てたのか」というような質問が出てくることもあります。そうしたとき、授業者は初めて自身の行動の意識化ができるのです。一方、参加者側の学びは、他のメンバーも全く同じ授業を見学しているにも関わらず、見ているポイント、質問の方向性が全く違うということです。そこで自分の授業の捉え方、学生を見る力に気付かされます。このプログラムを導入して6年ほどになりますが、公開授業後のアンケート見ると、大半の教員が公開授業が自分のためになったということを体感しています。これがこの数年間の大きな成果です。
プログラム開発から学んだことは、多くの研修が『教える-習う』型のOFF-JTで成り立っていますが、ここに『学ぶ(主体的行動)―育む(支援的に行動)』というOJTの仕掛けを入れていくことが効果アップにつながるということです。また、いかにALセッション参加者の多様性を確保できるか、ということも重要であると感じます。公開授業への導入が上手くいった要因は、質問会議を用いた振り返りのALセッションにおいて、参加者に多様性があることだと考えています。本学園では、500職種にわたる領域の違う教員がそもそも存在し、研修の一環として位置付けたことで、全く違う視点で相互に授業を見ることができるという、学習を促進する条件が成り立っているのです。
一方で、学園の教員育成の考え方を理解していない外部の講師等が公開授業に参加した場合は、ALセッションの前提が崩れ、授業者に対して一方的に批評批判がぶつけられることもあります。こうした状況を改善するには、セッションを行うコーチの力量が問われると思いますので、学園内コーチの養成にさらに力を入れていきたいと考えています。
最後に、ALセッションを用いた本プログラムが本当に教育の質向上に繋がったかを評価するためには、「学生が国家試験にどのくらい合格したか」「学生が就きたかった職業にどのくらい就けたか」「授業アンケートでよい成果が返ってきたのか」といった、具体的な数字との相関が必要だと思っています。現在はプログラムが定着し、教員が授業の質を高められている感覚に喜びを感じられるようになってきた段階です。今後はこの取組みを、本当に教育の質を図る数字と結び付けられるようにしていきたいと思います。
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日付 | 名称 | 参加区分 |
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2019/12/7 | アクションラーニングフォーラム2019@関西 |