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【レポート】授業改善のためのアクションラーニング活用

新学習指導要領では「主体的・対話的で深い学びの実現」の必要性が謳われていますが、その実現に難しさを感じる教員の方々は多いのではないでしょうか。

今回はアクティブラーニング研究の第一人者である小林昭文さんをお尋ねして、アクションラーニングを用いた授業改革をどのように成し遂げたのか、お話を伺いました。

実は小林さんが2007年度に高校物理授業を大幅に変えた時にはまだ「アクティブラーニング」という言葉は日本では使われていませんでした。小林さんは、カウンセリング等を学んだあと、2006年にアクションラーニングを学び、それらを応用して高校物理授業を改善しました。そのあとで「アクティブラーニング」という言葉が広がり、小林さんはいつの間にか「アクティブラーニングの第一人者」「アクティブラーニングの伝道師」などと呼ばれるようになりました。

しかし、小林さんは自分の授業を「アクティブラーニング」と称したことはないそうです。小林さんは自分の活動を「単なる授業改善」と言っています。そして「改善には終わりがない(エドガー・H・シャイン)」と言います。

小林 昭文(こばやし あきふみ)
株式会社AL&AL研究所代表取締役社長。授業改善アドバイザー。

埼玉大学理工学部物理学科卒業。

空手家として活動したが、35歳より埼玉県立高校教諭として教鞭をとる。教科は理科(物理)。教師在職中にコーチングやカウンセリングなどを学び、それらを応用した授業改善を研究し続けている。

2006年にアクションラーニングコーチ資格を取得し、2007年にはそのエッセンスを用いた高校物理の大幅な授業改善に挑戦して成果をあげた。

2013年に定年退職し、2014年から2020年は産業能率大学経営学部教授を務める。
現在はフリーの授業改善アドバイザーとして、学校の継続的な授業改善支援を中心に活動中。『アクティブラーニング入門』シリーズをはじめとする、授業改善に関する著書も多い。

アクションラーニングは授業改善に役立つ手法のひとつ

まず、小林さんとアクションラーニングとの出会いを教えてください。

小林: 以前からずっとカウンセリングやグループダイナミクスを用いた授業改善の研究をしていて、2004年には初の単著を出すなど執筆活動もしていました。

あるとき、臨床心理学者のカール・ロジャースが、「学習者中心教育(Learner-Centered Education)」*を提唱しているのを読み、これは面白そうだと思い生徒中心の授業作りに取り組み始めました。しかし、今まで学んできたカウンセリングやコーチング、構成的グループエンカウントなどの方法は、「知識を得る」とか「問題が解けるようになる」ことには触れていなくて、授業改善にはあまり役立たないかもしれないと思っていました。
2006年頃、たまたまアクションラーニングセッションを体験する機会があってセッション後に「もしかしたらこれは使えるかもしれない」と思い、日本アクションラーニング協会の講座でアクションラーニングを本格的に学び始めました。

小林さんは、なぜ授業改善にアクションラーニングが使えるかもしれないと思ったのでしょう?

小林:いくつか理由はありますが、1つはALコーチはみんなをグイグイ引っ張っていくのではなく、メンバーと対等な立場でグループを進めていくという点です。これは当時の私にはとても新鮮でした。

次にアクションラーニングには、スクリプトというきちっとしたマニュアルがあり、しかもその裏打ちとなる理論立てがされている点です。他の手法では、チームを引っ張っていけるかどうかは、その人の特性に左右されたりしますが、アクションラーニングはスクリプトに則って会議を進めていけば、一定の質が担保されるのが授業改善の視点からは魅力的でした。

アクションラーニングのスクリプトを授業に応用した

アクションラーニングのスクリプトを、どのように応用されたのでしょうか?

小林: 2007年、当時勤務していた高校の物理授業に、アクションラーニングの手法を取り入れて、授業を大幅に変えました。新しいやり方は、授業のゴールを「全員で満点を取ろう」と設定し、生徒はチームで問題に取り組む方法です。授業の流れは以下の画像の通りです。

まず授業の最初に、『態度目標』として「しゃべる、質問する、説明する、動く、チームで協力する、チームに貢献する」と定めました。これはアクションラーニングではセッションの最初のルール宣言からの応用です。スクリプトのルールがそう簡単に変わらないように、この『態度目標』は1度も変えていません。
伝統的に良しとされていた授業態度は、黙ってじっとしていることでしたが、新しい授業で「どういう風に学びましょう」という肝心の部分は言われてこなかったんです。訓練されていない子たちに「どういう風に学びたいか?」を議論させても、あまり意味はないので、そこはルールとして、教師から生徒に提示する必要があると思います。

授業ごとの(学習)内容目標の提示は、アクションラーニングセッションの問題提示と対応します。例えば「今日は熱平衡について学びます。説明の後にこの問題を解けるようになりましょう」といった具合です。内容目標を簡潔に説明し、その概要を簡単に説明して、「問題演習(=グループワーク)」に移ってからは、ALコーチのように介入していきます。全チームを回って生徒の様子やプロセスを見ながら、「チームは上手くいっていますか?」「協力できていますか?」などと質問をするんです。このように態度目標に関連した質問だけをしていき、確認テスト、相互採点などの後に、最後は改めて全体の振り返りをします。

アクションラーニングを用いた授業改善の効果

ここでの小林さんの役割は、学習を促進させることですね。

小林:まさにそうですね。セッションにおけるALコーチと同じ役割です。本質的には、その分野の基礎知識と論理的に考える力を身につけさせれば、どんな問題が出ても80~90点を維持することはできる。教師側にはそういう発想が必要だと思っています。

私は物理の授業の中で、何かを覚えるというトレーニングや、公式や専門用語を覚えたかを問うテストは1度もやっていませんが、生徒たちは必要な用語や公式は、問題を解いたり、みんなでワイワイやっていくうちに自然に覚えていました。

授業改善では、どのような効果があったのでしょうか?

小林:この授業を繰り返しているうちに、生徒たちがグループ内でプロセスの視点を持ち始めて、生徒同士で「協力し合えているか?」を考え始めるようになりました。次第に「あっちのグループに行って聞いてみようか?」などという声も上がってきて、それはアクションラーニングでは起こりえない良い出来事でしたね。

その結果、このスタイルの授業にしてから6年間で、物理を選択する生徒が3倍に増え、センター試験での偏差値も6.5上昇しました。加えて、授業進度も大幅に向上したことで、授業中に受験対策の時間を取れるようになったり、成績上昇に伴って赤点を心配しなくてよくなるなど、数多くの効果が得られました。

学校全体での組織的授業改善にアクションラーニングを活用する

小林さんはご自身の担当する物理の授業改善だけでなく、学校全体での組織的な授業改善にも取り組まれていますよね。

小林:当時勤めていた高校の授業研究委員会の一員として、組織的授業改善に取り組みました。というのも、組織的に授業を変えていった方が、1人1人の授業力も上がり、学校全体としての教育力も上がるからです。

取り組みについては、拙著『アクティブラーニング入門3』*に詳しいのですが、この授業研究委員会での最大の成功は「授業者を傷つけない振り返り会」でした。進め方は以下の画像の通りで、特に「建設的な質問」と「リフレクション」のパートはアクションラーニングセッションと同じ手法を採りました。

「授業者を傷つけない振り返り会」の画期的な部分は、教科を超えてお互いの授業を振り返ることでした。今でも小学校・中学校・高校では教科別の授業研究が多く、「先生が何を教えていたか?何を話していたか?」といった授業のコンテンツが注目されがちなんです。でも「授業全体の流れはどうだったか?生徒たちの様子はどうだったか?」といったプロセスの視点を持って授業を見学すれば、すべての教科を超えて学ぶことができます。それを実現するために、授業見学ワークシートもプロセスを意識したものに改善しました。

「授業者を傷つけない振り返り会」誕生の背景

そもそもなぜ「授業者を傷つけない振り返り会」が生まれたのでしょうか?

小林:あまりニュースにはなっていないですが、今でも研究授業で授業者をやった人が、厳しい評価を受けて傷ついてしまい、翌日から学校に来れなくなったり、うつ病になったり、最悪の場合は自殺してしまったりという事例が繰り返されているんです。そこにあるのは「ダメ出しをいっぱいすれば人間は成長する」という発想なんですが、だからこそ「授業者を傷つけない」というコンセプトが大事なんです。
また質問で傷つけてしまうのは、誘導的な質問だからなんですよね。質問の名を借りた意見の押し付けは、相手を傷つけることに繋がります。

ちなみに「授業者を傷つけない振り返り会」のフォーマットは、吉田新一郎氏の提唱している「大切な友達(Critical Friend)」という技法を参考に作りましたが、後日吉田氏にお話を伺うと、この手法はレグ・レヴァンスのアクションラーニングをベースにしているとのことでした。

「基本スキル・基本パターン」という考え方

小林:もう1つアクションラーニングを土台とした考え方がありまして、それは「基本スキル・基本パターン」の発想です。「基本スキル」の例は以下の画像のようになります。これは授業の上手い先生が実践していることをリスト化したものですが、上手いALコーチがやっていることと共通しています。基本スキルの意識測定で、授業改善の効果測定ができることを期待しています。

そして「基本パターン」は、授業の型を3種類に分けることで、教科を横断した学びを促進するという発想です。いずれの型でも、①ルールを宣言し、②活動中の振り返りを促進し、③活動後の振り返りを促進する、といったステップを設定していて、これもアクションラーニングの考え方を土台としています。

ALコーチとしてのスキルを高めるために、スクリプトを繰り返しますよね。教師も週に十数時間くらいの担当授業の中で、基本の型を繰り返すことで技が磨かれる側面が大きいので、スクリプトのような基本パターンを導入することで学校全体での授業改善に繋がると考えています。

オンラインでの授業研究の可能

コロナ禍となってからは、授業研究はどのように変わりましたか?

小林:授業研究もリモートでできるので、研究授業を無観客授業、あるいはリモート見学する方法を編み出しました。見学後も授業者にオンラインでアドバイスしていますが、動画も校内で共有しているので、各自で時間があるときに視聴できます。

加えて、学習のための新しいオンラインツール「TAGURU」の開発にも協力しています。TAGURUを使うと、Zoomを使ったオンライン授業で生徒が大事だと思ったところにタグをつけて後から見返せるのですが、これは教師も研究授業や研究協議に活用できます。オンライン上で授業者と見学者がタグをつけたり、コメントや質疑応答を行うので、全員が集まる必要がありません。そしてタグの種類も「できたこと」と「質問」を中心に構成されているので、ここもアクションラーニングやコルブの学習サイクルなどの発想を採り入れれています。

オンラインでの振り返り会の良い点は、質問について考える時間が多く持てることです。対面で質問されると、すぐに答えを言わなければならないと焦ってしまい、質問の意味を取り違えたり、自分が言いたいのと違うことを言ってしまったりしますが、ゆっくり考える時間があると、きちんと自分の言いたいことが書けると言う声が多く聞こえました。

では最後に、アクションラーニングに興味を持つ先生方に向けて一言お願いします。

小林:アクションラーニングの考え方やスキル、スクリプトの型を学び、そしてその型を繰り返すことは、授業改善に大いに使えます。ぜひ学んで欲しいと思います。
これからもこのエッセンスを、私が研究を進めてきた「授業改善運動」の中に応用して研究を進めます。皆さんに、あれこれとお力を借りることが出てきそうです。よろしくお願いします。

  • ※1 ライター拙訳
  • ※2 『アクティブラーニング入門3 ~現状を変える「振り返り会」で授業改善を進める~』(2019, 産業能率大学出版部)
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