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【レポート】甲南女子大学・学生アクションラーニング認定

甲南女子大学で学生アクションラーニングコーチ育成に取り組む佐伯勇氏。大学の就職部長として学生と接する中で、なぜ教育ツールにアクションラーニングを選んだのでしょうか。その真意と実践の効果について伺いました。

佐伯 勇(さえき いさむ)
甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授/甲南女子大学学長補佐(ICT担当)。専門は情報通信工学、教育工学。
シニア・アクションラーニングコーチ

2014年~2018年に甲南女子大学就職部長(2017年よりキャリアセンター長)を担当したことをきっかけに、キャリア支援やリーダーシップ開発に関心を持つ。2017年にリーダーシップ開発科目、2019年に学生アクションラーニングコーチ養成講座を開始。

産官学が連携したフラットな対話の場を形成することで学生のキャリア形成が促進される教育モデルを開発中。

「学びの場づくり」ができる学生を増やそうと思った

まず、なぜ甲南女子大学でALコーチを養成しようと思ったのでしょうか?

佐伯: 就職部長だった2015年に、学生を受け入れる企業側の悩みを知りたいと思って人事系のカンファレンスに参加したんです。そこで人事の方とお話してると、どこも「新入社員の9割くらい指示待ち」みたいなことをおっしゃっててですね。カンファレンスの中で、「多様性を活かしてメンバーの主体性を引き出すリーダーシップ」が必要だと思ったんです。
一方で文科省も新学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」ができる生徒・学生を育てようと言ってたんですが、私は主体的で対話的な「学びの場づくり」をできる学生がたくさんできたらきっと社会の役に立つだろうと思ったんですね。だから学生ALコーチを育成したいと思いました。

なるほど。リーダーシップや「学びの場づくり」とアクションラーニングが結びついた背景を詳しく教えていただけますか?

佐伯: 「主体的・対話的で深い学び」とアクションラーニングって、根っこは同じ問題意識じゃないかと思ったんですよね。文科省に「授業改善の視点」という資料があって、その中のエッセンスはリフレクションと経験学習、そしてチームでの学習なんです。これってアクションラーニングで言ってることとまさに一緒だなと。

そしてアクションラーニングは、スクリプトによってフォーマット化されてる部分が大きいので、学生にも扱いやすいんじゃないかなと考えました。

社会人の中で学生がリーダーシップを発揮する

では、実際にどのように学生ALコーチを育成しているのでしょうか?

佐伯: 学生ALコーチの育成は2019年から始めました。受講生は2017年に立ち上げたリーダーシップ開発科目の受講生から、有志で参加しています。講座は社会人向け講座に倣って5〜7日、人数は毎年5〜6人で開催しています。2年目の2020年からは、先輩学生にも手伝ってもらってます。

講座の特色はありますか?

佐伯: そもそも学内だけで育成するだけとは最初から考えてなくて、実は初日は大学コンソーシアムひょうご神戸様のお部屋をお借りして始めました。社会人と学生の共通課題に注目してWin-Winの関係を築きたいと思い、産官学連携のプラットフォームである大学コンソーシアムが重要だと考えていました。
また、2020年からオンラインが急に普及したので、日本アクションラーニング協会の社会人講座に学生がオブザーバーで参加したり、同じく学生ALコーチを育成してる共立女子大学と合同練習したりもしています。リーダーシップを取り合って大学の枠を超えたコミュニティができつつあるので、学生の学びになることを期待しています。

では学生ALコーチを養成した効果は何かありましたか?

佐伯: やはり「場を読む力」は、アクションラーニングじゃないとなかなか育成できないとようです。学生の声をいくつかピックアップすると、会議に介入ができるようになったり、多面的な質問をできるようになったと、みんな口を揃えて言ってますね。
それから学生は社会人と対等に対話するのが面白いって言うんですよね。いかに学生にとって、そういう場が日常的にないかと感じます。

先ほど「社会人と学生でWin-Winの関係を築きたい」とおっしゃっていましたが、社会人側への効果はありましたか?

実は2021年の3月から、とある企業での質問会議に、学生ALコーチを協会を通して派遣したんです。そこでは学生はコーチではなく、メンバーとして派遣されたんですが、どういうメリットがあったかを社員さんにお聞きしたところ、「社会人でない学生の視点が良い」ということでしたね。
他にも、女子学生ならではの和やかさが生まれてオープンな雰囲気になるとか、社内だけだと上下関係がどうしても邪魔してしまうけど、学生が平等な立場でガンガン入ってくると、それがちょっと崩れて問題を自分の外に出せるって話も出ています。

アクションラーニングは守破離

なるほど。では逆に、学生ALコーチ育成の課題はありますか?

佐伯: 学生側の課題は、スクリプトにあるフォーマット通りに会議を進行することはできるものの、その意味を理解するのが難しい点ですね。スクリプトがあるから、学生にアクションラーニングが入りやすいですが、アクションラーニングは守破離なので、スクリプトの意味を理解して、その場に応じた質問をするレベルに達するのは、なかなか難しいです。これは学生に限らず社会人コーチでも同じですけどね。
学生はスクリプト通りにやることが当たり前だと思っていたのかもしれませんが、先ほど紹介した協会のセッションに参加した際、プロの社会人コーチの介入や回し方を見て、「もっと自由でいいんだ」って言ってました。これは大学でやってるとなかったことですよね。
またコーチの質と量の両立は難しいなとも感じます。現状では学生コーチは5〜6人しか育成できておらず、知識のインプットは動画教材にしたり、ある程度先輩学生にもお願いしながら、学生だけでスキルアップできるような仕組みがないと、人数を増やすのは大変だなと思いますね。やはり私が全部見るのはちょっと大変なので。
あと、講座外の自主練があるんですけど、そのメンバー集めが難しくって。アクションラーニングの練習をしたい人は日本全国にいるので、メンバーを融通する仕組み作りも協会にお願いしたいところです(笑)。

私たちのリーダーシップが試されていますね。ご期待に添えるよう頑張ります(笑)。

最後に新しい取り組みをご紹介いただけるということでしたが。

佐伯: 産学連携による全員発揮型のリーダーシップ研修が、2021年の8月から始まりました。大学コンソーシアムひょうご神戸様で、会社の社員さんや病院の職員さんと大学教職員、そして学生の混成チームを作り、多様性の担保されたメンバーでアクションラーニングセッションを月1回ペースで5ヶ月連続でやってみようという試みです。
参加者でアクションラーニングについて分かってる人が少ないので、動画教材を作ったり、なるべくコンパクトに無理のないように研修設計をしています。
ここでも安心安全な学びの場づくりが叶うといいですし、それができる人が増えるともっといいなと思っております。