「TI流 組織開発の実践:環境変化対応力1〜3」
<第一弾>2016/3/14
技術革新やグローバル化、顧客ニーズの多様化など、あらゆる分野で目まぐるしい変化が次々と起こり、『激流の時代』と称される現代において、その変化を味方につけ、成長するにはどうすれば良いのか。変化に対して対応力のある企業と対応力のない企業の違いはどこから生じるのか。
3月14日、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 執行役員 生産・技術本部長 五十嵐 静雄氏を招き開催された研究会では、激流の時代を乗り越えるために、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社(以下TI)がどのように変化し続け、進化をとげてきたのか、実例を交えつつ講演頂きました。
五十嵐氏が執行役員を務めるTIは、アナログICおよび組み込みプロセッサを主に開発設計・製造するグローバルな半導体企業で、世界35カ国以上に製造、設計ならびに営業拠点を展開しています。
10年連続で Most Ethical Companies に選定されるほど企業倫理に重点を置いており、「優れたエシックス(倫理)」と「優れたビジネス」は同じことであるという哲学の
もと、革新・イノベーションに取り組んで来ました。
ところで、今回の研究会のテーマでもある「変化」とは何なのでしょうか。
そして、変化に対して多くの人が不安や抵抗を覚えるのは何故なのでしょうか。
五十嵐氏は、変化を「これまでの状態とは違う状態に移ること」と定義しました。
変化の過程では何かを失い、その結果として何かを得ることになります。
しかし、変化が生じた当初は、失うものについては理解ができても、それによって新たに得られるものとして何があるのかが分からないことが多々あります。
必ず何かを失うにも関わらず得られるものが見えてこない、どうなってしまうのか分からないという不安から、人は変化を嫌い、いざ 変化が身に降りかかった時には抵抗をしようとします。そのことによって変化の波に乗り遅れた結果、最終的に外圧によって変化を余儀なくされた時には、手遅れになってしまうのです。
激流の時代において、変化は無くなるどころか、次々と加速化・複合化して降りかかってきています。
このような環境下での組 織運営には、環境全体を見渡しつつ、指揮をとる力が必要となります。
個々は環境や目指すべき方向性を理解しながら自分の専門性を高め、役割を果たしつつも他者とも協力し、全体最適を実現して組織の成果を向上させることが重要です。そのためには連携を図るためのコミュニケーション力こそが企業運営力ともいえるのです。
次に五十嵐氏より示されたのが『変化に対する心理の移行曲線』です。
これはTIがフローラ・エルカインド・アソシエイツ社との共同プログラムで開発したもので、それによると、変化に対して人の心理は「変化が訪れていることに気が付いていない、あるいは気が付いていても目を向けない『拒絶』」、「訪れた変化を受け入れず対抗する『抵抗』」、「変化を受容した後、その変化を受け入れることでどうなるのか、何をすれば良いのかと考える『模索』」、「変化に対してやるべきことが見え、実行に移す力にする『やる気』」という形で移り変わります。
大切なことは、この心理曲線を流れに沿って乗り越えることです。
段階を飛び越えることなくステップを踏むことが、やる気の段階に入った際に十二分にパフォーマンスを発揮することに繋がります。
自分がこの4つの段階のどこにいるのかは、用意された24個の質問に答えることで把握できます。
研究会では実際に参加者が質問に回答し、自分がどの段階にいるか理解した上で、「新しい環境への対応のための “4つの技術 ”」について話を進めました。
「4つの技術」は上記の移行曲線における4つの段階を乗り越える際、例えば上司が自分の部下がどの心理段階にいるかを把握し、その段階を乗り越えさせるにはどのようなことをすればよいか考える際などに役立ちます。
拒絶の段階では変化そのものに「気づく」こと、抵抗の段階では変化に対してなぜ抵抗するのかという原因・理由を「感じる」こと、模索の段階では変化によって生じる現象についてマイナスの側面だけではなく、同時にプラスの側面もないかと「見方を変えてみる」こと、やる気の段階ではやるべきことの中でも重要なものに「焦点を当てる」ことで次のステップへ進むためのきっかけや力を得ることができます。
特に抵抗から模索への移行は、変化を受容する「Let Go Point」を含んでいます。
このポイントを通らずに、無理やり抵抗からやる気の段階へと移行させてしまうと、それは服従させたことになり、表面的に変化を受け入れただけになってしまう可能性があります。
なぜ変化することに対して抵抗するのか、最もな理由を聞きだし、十分に吟味させることで、失うものから得るものへと重点を移し、変化を受容させることが必要です。
続いて話題は変化から「進化」に移りました。進化とは「変化を味方に出来る体質になること」です。
変化は単なる機会に過ぎません。失うものにしがみつけば危機になりますし、活かすことができれば好機になります。激流の時代に、変化を味方につけて成長するためには、外側からやってくる変化や要求を理解した上で、主体的に個々の人や組 織が外部に影響を広げていく、外圧で変化させられるのではなく、自ら進んで変化を理解し、「私たちの未来は、私たちで創る」というアプローチが必要になります。
これらができるか否かは、個人の生き方、組織の生き方が鍵となっており、実現するためには、自分を見つめ、人と話し合い、人とともに考え協働する「場」の設定が大切になります。
変化対応力を見れば、人と企業の真の強さを理解することができるのです。
ところで昨今、日本の電気/電子産業企業は世界各国の企業との戦いの
中で勢いを落としていますが、それは何故なのでしょうか。
デジタル革命やグローバリゼーションの影響により、国や地域、時間、距離、技術などの制約や障壁が最小化された結果、現代はメガ・コンペティション(大競争)時代に突入しています。
新たな競争相手が出現し、スピードも加速した上に優位性が長続きしないこの時代において、企業も個人も成功するための条件、それは「リーダーの力量」にあります。
変化を常に感知し、戦略を描き、最速のスピードで大胆に行動し、社員と対話し、共感を得て実際に社員を巻き込み、高い成果を出すことで信頼される。
TIが激動の時代の中でも変化に対応し、成功し続けてきたのは「ネットワーク社会のディジタルソリューションにおいて世界のリーダーになる」という言葉を残したジェリー・ジャンキンス氏を始め、歴代のCEOが優れたリーダーシップを発揮し、それにより社員が一丸となっていたことも大きいのです。
そして、世界、市場、顧客、競合の変化を先取りした上で、自企業の強みを見出し、活かし、強化し続ける競争優位の『戦略構築力』、企業倫理やハイレベルの開発力、短納期や高サービス、低コスト・高利益を現実化する卓越した『戦略実行力』、そしてマネジメントの責任能力や即断即決力、相互協力を重視し社員に関心を持ちながら行動を支援しフォローする『マネジメントのリーダーシップ』、ビジネス・パートナーとの相互信頼関係を誠実に構築し続けるなどの『全社員・パートナーとの総合力』。
これら諸々を持ち合わせていたことが、激流の時代においてもTIが環境変化に対応しながら成功し続ける要因である、という五十嵐氏の言葉で、本研究会は締め括られました。
今回の研究会の参加者は、勤務先の業種や組織開発経験の有無、参加動機も様々でしたが、五十嵐氏の明瞭で分かりやすい説明に対し「実例を交えての話で理解がしやすく、変化に対する対応についての知識が深まった」「知人にも話を聞かせたい」「五十嵐氏のパワーが凄い」「次回以降の研究会も楽しみである。
ぜひ参加させて頂きたい」などの声が多数上がっており、本研究会に対する受講者の理解と満足度の高さを伺い知ることができました。
<第2弾>2016/4/11
『激流の時代』と称される現代、技術 革新やグローバル化、顧客ニーズの多様化など、あらゆる分野でこれまで経験したことのない速さで、次々と変化が生じています。
それでは、私たちが実際に変化の影響を受けた場合、組織レベルとしてはどのような対応をし、それを乗り越えていけば良いのでしょうか。
4月11日、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社 執行役員 生産・技術本部長 五十嵐 静雄氏を招き開催された研究会では、前回の変化に対する個人レベルでの対応方法に引き続き、組織レベルの変化対応の方法について実例を交えながら講演頂きました。
昨今「レジリエンス」という言葉が注目を集めています。弾力性、回復力、復元できる能力などと訳されていますが、組織においても、このレジリエンス、つまり環境変化への対応力・逆境力の重要性が増してきています。
ところが、2013年のダボス会議で発表された内容によると、日本はレジリエンスに関する国家の能力が、他の先進国と比べ著しく劣っているのです。
原因としては高度成長期モデルへの依存や失敗と恥を恐れ、変化や挑戦を好まないという日本人の気質があるとされています。
しかし、様々な変化が次々と生じ、現状維持が困難になる一方で新たなアプローチが求められている現代において、レジリエンスの体得は国際競争に勝ち続けるために欠くことはできません。
そして一つの変化に対応し乗り越えるだけではなく、次々と押し寄せる変化を味方につけ、それをバネとして成長する体質へと、個と組織を進化させることも必要になっているのです。
では、変化を味方にして成長する体質へと進化するためには、どのようなファクターやプロセス、そしてそれらを効果的に推進させるシステムが必要なのでしょうか。
回答として五十嵐氏から示されたのが、基軸Wining Strategy、Execution Process、Enabling System、Quality People & Culture、Leadership &Engagement からなる「Key Factors forSuccess」です。
変化に対応する際には「基軸」、つまり組織のミッションや大切にする価値、存在目的を明確にする必要があります。
それを中核として、変化の流れを読んだ競争優位の「戦略」、成果の必達と実行力を強化するための「プロセス」、効率性や社員の意欲・協力度を向上させる「システム」、環境・組織・個人のつながりを良好にする「良質の人間集団と文化」を構築します。
そして、これらを実際に機能させる「リーダーシップ」と社員を意欲的に活動に参加させる「エンゲージメント」が揃うこと で、変化を味方につけ、成長し続ける 組織体質へと進化することが可能にな るのです。
加えて、組織の進化プロセスを円滑 に循環させるには、訪れた変化に気が 付く「診渦」、成功を定義する「真価」、 環境を整備する「芯架」、力を結集す る「心火」、そして新たな成果を生み出 す「新果」という5つの「しんか」の 流れを作る必要があります。
つまり、①市場動向、ニーズなど外 部環境の変化を理解した上で、組織と しての機能状況などの内部環境を理解 した上で、ミッションや戦略的方向性 を策定し、②外部環境と内部の変化に ギャップはないかを確かめ、組織内の 仲間意識醸成や、ミッションの表出、 戦略を構築することにより成功を定義し、③戦略遂行にマッチした業務プロセスや組織構造、諸制度を整えること で環境を整備し、④内部の人間へのマ インドセットや成果の共有化、コミュニケーションの円滑化、ビジネスパートナーへコミットし、WIN-WINの関 係を築くことで組織の力を結集させ、 ⑤新たな成果を生み出していくのです。 そして、この進化プロセス回すため に欠くことが出来ないのが、「リーダー シップ」です。 では、リーダーシップとは何を指すのでしょうか。
五十嵐氏はリーダーシップ「人々の力を引出し、新たな“ 可能 ”に導く手腕 /力量」と定義しました。リーダーシップは、変化をもたらすプロセスで、人々を今いるところや現状から、“いるべ きところ”につれていく役割が求められ ます。
自転車で例えると、マネジメン トは後輪で、日々の行動を成果にする 役割、リーダーシップは前輪で、行き 先を決める役割を担っています。後輪 が強くても、方向性が違えばその力は活かせませんし、逆に前輪が正しい方 向に導いていても、後輪の力がなけれ ば前に進むことは出来ません。
リーダー シップとマネジメント、双方をバランス よく強化することが、変化に対応して いくためには必要となります。
そしてリーダーシップを発揮できるか 否かは「仲間を成功に導く責任感、燃 える情熱、やりきる忍耐力」、つまり内面が決め手になります。
どんなに理論 やテクニックを学んだとしても、それが 言葉や行動となって現れなければ、人の心を動かすことは出来ません。
そのためには、だれのために何を成し遂げ たいのか、だれをどこに連れていきたいのか、本気度はどの程度かなど、自分の内面の想いをしっかりと理解してお かなければならないのです。 組織レベルの変化対応力に着目した 今回の講演に関して、参加者からは「自分のビジネスに組み込みたい」「プロセスと考え方への理解を深め、職場開発 に活かしたい」「自分のチームだけで はなく、部門全体へ何か提案できないか、という気持ちになった」「少しでも 今の会社に適用して会社全体を良くして行きたいと思った」などの声が多数 上がっており、本研究会に対する受講者の理解と満足度の高さを伺い知ることができました。
<第3弾>2016/5/16
『激流の時代』と称される現代、技 術革新やグローバル化、顧客ニーズの 多様化など、あらゆる分野でこれまで 経験したことのない速さで次々と変化 が生じています。
これらの変化に対し、私たちはどのような姿勢で臨み、乗り越えていけば良いのか。
5月16日、日本テキサス・インスツ ルメンツ株式会社(以下TI) 執行役 員 生産・技術本部長 五十嵐 静雄氏 を招き開催された研究会では、3月、 4月の研究会でお話し頂いた、個人レベル、企業レベル、組織レベルでの変 化対応に続き、工場レベルでの変化対応について、『感動工場』の事例を交 えながら講演頂きました。
『感動工場』とは、TIが、激化する 「メガ・コンペディション時代」の大波を乗りこなすために考えた組織運営戦略です。
感動とは、心が動かされる程 の大きな“よろこび ” であり、そのよろ こびは人を動かす大きな原動力となります。
そして感動は、ビジネスの成功には欠くことが出来ません。
なぜなら、 感動の源泉には「相手に関心を寄せる こと」「対象と自分とのつながりを尊ぶ こと」があり、感動することで、お客様 や関係者へ関心が強まり、仕事に対す る意味を感じることが出来るからです。
では、『感動工場』とは具体的に何 を目標としており、どのようなプロセスを経て実現されたものなのでしょうか。
感動工場の目指すところは『感動を原動力として、気力、一体感、生産性 を向上させ、高感度・最速行動によって、確かな品質に基づく“価値の最大 化とコストの最小化”、そして、変化を 笑顔で乗りこなし、楽しむ「最強の変化対応戦略」を実現すること』です。
激化する大競争時代にあっても、笑顔で果敢に協力して挑戦し、人と組織 がビジネスパートナーと、「才」(成果 必達能力)と「徳」(相互得創出力) を磨き合い、互いの“人間性(品格)” と“ 業績 ”を向上させ、揺るがぬ“ 相互信頼関係 ”を築きあげる一流工場、 そしてビジネスパートナーから“ベス ト・パートナー”として認知される工場。
それが感動工場です。
そして、感動工場実現プロセスのベー スは『良質の人間力集団』にあります。 これは、2009年に飯坂協一氏が提 唱した「物づくりの本質の追求(Make Spirit)」、つまり「物づくりの本質は、 人づくりである」という考えによるものです。
「物づくりは尊い仕事であり、作り手 の姿勢や心の状態が製品に現れる。
だからこそ、目標を高く持ち、真摯に 打ち込んだ努力が“お客様からの信頼”という成果になり、そして、その 成果が “自信と誇り”を創り上げる。 このように、物づくりは真摯に取り組 むほどに、心と精神と行動に磨きをかけ、人間の質を向上させる。
こうして 生まれた良質な人間集団から“良質な物づくりの風土”が醸成され、更にその風土から“良質な人間”が形成され 続ける」 この考えの下、TIは激化する環境 変化を味方につけて繁栄できる価値を 創出し続けるべく、工場運営の方法、 仕組み、実践力、成果必達力を進化 させ、関わる人と組織が進化し続ける 風土を醸成し続けてきました。 その結果、『環境変化やビジネスパー トナーの要求を理解しつつ、自分たち のビジョンを持ち、主体的に取り組む 「感じ取る力/思い描く力」』、『目的・ 目標の実現への道筋や、知恵を共有 し、課題を皆で解決し続ける「考え抜く力」』、『目標を必達し、ビジネスパー トナーの信頼に応えつつ、期待以上の 成果を出して感動を提供する、成果へ 効果性を高める仕組みを構築改善し続け、学習能力の高い個・組織へと進化 し続ける「やりぬく力」』、『違いを認め、 共に歓び、相乗効果の発揮を活かす「ダ イバーシティ」』、これら全てを備えた 「良質の人間集団」を形成したのです。
こうして培ったベースの上に、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)、環境、 安全、健康、セキュリティ、価値と倫 理を基とした「強固な土台」、物流力、 品質力、総合力、利益創出力を基とし た「卓越したオペレーション」、センシング力、先取り力、超越力を基とした「卓 越したサービス」、そしてそれらの上に 「一人ひとりの真心を製品に込めて大切につくり、自身と誇りを持ってお客 様にお届けする。
物づくりは人づくりである」という「物づくりの本質を追及する精神」を積み重ねるプロセスを経る ことで、感動工場は実現されていったのです。
最後に、本講座のまとめとして、五十嵐氏より「変化を理解し、『私たちの未来は私たちで創る』、
そのためには、
①変化と、自分の“ つながり”とつける、
②自分と、自分の価値観との“つ ながり”をつける、
③部門/会社の戦 略的方向性と、業務の“つながり”をつける、
それらが行われる「場」、つまり自分を見つめ、人と話し合い、人と共に考え協働する場を作ることが大切」という言葉を頂き、講演は終了しました。
全三回に渡る五十嵐氏の講演に関して、参加者からは「リアルストーリーに 基づく話だったので、非常に説得力があった」「人と組織の土台となる企業の 価値観、倫理観の重要性が実感できた」「『会社は人』であることを実感した」 「社内・社外での学習コミュニティでの 人材開発や組織開発に活用できそうな どの声が多数上がっており、本研究会に対する受講者の理解と満足度の高さ を伺い知ることができました。