【ブランド構築×アクションラーニング】木村 隆之氏 #2020Learing Base
ブランド理念浸透と学習の関係は?
~レクサスからボルボまで理念浸透プログラムのしかけ~
1987年に大阪大学工学部を卒業し、同年トヨタ自動車に入社。
海外向けの商品企画や営業といった業務に従事した。
在職中にノースカロライナ大学に留学し、MBAを取得する。
2007年にファーストリテイリングにユニクロ営業副本部長として入社したが、2008年には日産自動車に移り、2009年にインドネシア日産社長となる。
インドネシア日産では3年で販売を倍増(3万台→6万台/年)、アジアパシフィック日産では販売記録を樹立(36万4千台、2013年度)し、現在に至るまで過去最高販売記録となる。
2012年にはアジアパシフィック日産社長兼タイ日産社長に就任した。
2014年にボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長に就任。
ボルボ・カー・ジャパン在籍中は5年で販売台数40%増、売り上げ80%増を達成。
また輸入車初となる日本カー・オブ・ザ・イヤー2連覇を達成。
2020年3月よりボルボ・カー・ジャパン顧問(登壇時点)
※2021年1月よりグループPSAジャパン社長、7月よりマセラティ アジアパシフィック地域(中国を除く) マネージング・ディレクター就任。
共著書に『最高の顧客が集まるブランド戦略 ~ボルボはいかにして「無骨な外車」から プレミアムカーへ進化したのか~』(2019)
トヨタ自動車が展開している高級車ブランド、レクサス。
2005年、日本にブランド進出する際、顧客満足度No.1ブランドになるという目標を掲げていた。
そのためには、選び抜かれた店長たちが自身の言葉でレクサスを語れるようになる必要があった。
持てる知見をいかに腹に落とすのか。
採用された手法が、アクションラーニングだった。
その時の担当者でもある木村氏に、レクサスブランドがなぜ成功したのか、その秘密とアクションラーニングの関係を語ってもらった。
目次
サービス満足度13年連続No.1の秘密
レクサスの販売において、サービス満足度調査(CSI)13年間連続No.1を可能にしているのは、ヒトに競争優位性があると考え実践してきたからです。
これは、それまでのトヨタの販売店にとって全く新しい考え方でした。
実はトヨタの販売店の顧客満足度は、その安定感と車そのもののブランド力もあって他社よりも下というのが定着していました。
でもレクサスは最初から全ブランドの中でサービス満足度No.1になろうという目標を掲げていたのです。
量販ブランド内だけではなく、より顧客の期待値の高いプレミアムブランドも含めた中でのNo.1です。
ですから、平均的な人材を移籍させただけでは絶対に達成できません。
そこで選抜・採用要件としてこだわったのは、トヨタでの販売成績がよいかどうかではなく、顧客満足度を高められるポテンシャルを持っているかということでした。
全国150店舗でレクサスの販売を一斉スタートさせるため、150人の店長(ゼネラルマネージャー)を選ぶことになりました。
当時メソッドは全くありませんでしたが、全部で20問ほどの様々なシチュエーションを用意し、選抜試験としました。
例えば、高級宝飾店の店長として、あるお客様に対しどのように接客するか、店長としてどんな風に問題解決に当たるかを記述してもらうといったものです。
1,2時間かけて全20のシチュエーションに向き合う姿勢を見ていくと、ポテンシャルがある人は一目瞭然でわかりました。
人材選抜のポイント
具体的にどんな能力を見極めようとしたのかといいますと、特に「意識結集型リーダーシップ」というものを大事にしていました。
異業種を中心に顧客満足度が高い組織を分析した結果、全部で17のコンピテンシーが出てきました。
その中でも「意識結集型リーダーシップ」をはじめ、候補者が元々持っている資質部分を見極めることに徹したのです。
店長は店の実質の経営者であり、従業員の育成者であり、地域におけるブランドの代表者でもあります。
店舗というのは、本当に店長次第でいくらでも変化するものです。
ボルボのデータによれば、人事制度も処遇も同じ直営ディーラー店舗の中でも、店長が顧客満足度にコミットする意識の高さ、従業員のモチベーションの管理度合いによって顧客満足度には相当な差が出るということが分かっています。
高額商品を販売するにあたっては、その商品を好きになっていただけるかはもちろん、再購入していただけるかが重要です。
つまり、店長を通じてお店でどんな体験をするかが、非常に重要な役割を締めるということなのです。
アクションラーニングには、インプットを納得解に落とし込む仕掛けがある
レクサスでは、採用した資質ある150名を徹底的に鍛えようと考えました。
非常に苦労したのは、レクサスブランドは当時まだ日本になかったにもかかわらず、いきなり高級ブランドとして売っていかなければならないという点でした。
こうした局面で必要だった3つの力があります。
これは藤原和博氏の著書「10年後君に仕事はあるのか?(ダイヤモンド社、2017)」で示されている「生きる力の逆三角形」にも当てはまるものです。
まず必要な力は、基礎的人間力です。
これは人としてどう生きてきたかということを問われる、家庭でずっと培ってきている力だと思います。
その上で大事とされるのは、知識・技能といった情報の処理力。
我々は研修で目の前にまだないレクサスというブランドを様々な形で体験してもらう機会を作りました。
富士スピードウェイを借り切って将来の車に乗せたり、アメリカでレクサスの販売を実際にみたり、富裕層御用達のホテルや百貨店に足を運んだりといったインプットを徹底しました。
そして、こうして得た知識を納得解にしていくために必要なのが、情報編集力です。
ここで活躍したのが、アクションラーニングでした。
当時150名に理念浸透の研修を行うにあたって、アクションラーニングを採用した一番の理由は、得た知識や技能を自分たちで咀嚼していく、というプロセスが他にはないものだったからです。
他に検討していた2社の研修は、知識や技能を伝えるだけの紋切り型で、正直トヨタが自社でもできそうな内容でした。
アクションラーニングは6人1チームで、レクサスについてインプットを納得解に落とし込む仕掛けがあり、さらにチームワークにも効くという唯一無二のものに感じられました。
今、色々な場で研修をさせていただく中で感じるのは、知識や技能のような正解を出すことについては非常に能力が高い人が多いですが、自分で編集・判断して考えて、それを納得解に落とす力は全体的に非常に弱いということです。
アクションラーニングはこうした点に非常に効き目があると思います。
この「生きる力の逆三角形」をレクサスに当てはめて、なぜ成功したのかを考えてみました。
基礎的人間力に相当するのは、CS(カスタマーサティスファクション)を高める資質や潜在能力のある人を選ぶということ。
情報処理力という意味でいうと、トヨタらしい現地現物主義に基づいた店長の開業前研修を9ヶ月実施したということ。
そしてそれを一人一人が咀嚼して自分で腹落ちさせるという情報編集力の観点で、アクションラーニングが活躍し、店長1人1人が自分の言葉でレクサスブランドを語れるようになるという目標が実現したと思っています。
共通体験を得ることにこだわった研修
それと、トヨタはなぜ現地現物にこだわるのかについて、この機会に因数分解してみました。
それは、記号処理系の理解(言語としての理解)から、視覚・運動系の理解に深めていくために必要だからだと思います。
翻訳機能におけるAIの進化に例えると、今こうした機能は非常に進化してきていますが、Googleのタイ語の翻訳などはまだまだクオリティが低いのが現実です。
これは今の翻訳は記号処理系、つまり記号を処理して統計処理で別の言語の文字列に最も近いものを当てはめるという手法をとっているからです。
将来AIがもっと進化していくと、視覚系の理解になります。
つまりその画像や映画のあるシーンを作り出したものを他の言語で説明したらどうなるのか、ということが文字で表されるようになると考えられています。
レクサスの研修でいうと、150人が共通体験を得ることにこだわったのは、ここの視覚運動系の理解が大事だと分かっていたからだと思います。
例えば、映画をみて素晴らしいと感じた時に、その素晴らしさを言葉で説明することには限界があります。
ストーリーで説明しても、配役・演技で説明しても、画像の技術で説明しても、素晴らしさを伝え切るのは難しいものです。
これは同じ映画を一緒に観るという共通体験には敵わないのです。
トヨタの現地現物主義というのもまさに、実際にある場所に行ってものをみるという共通体験だと思います。
アクションラーニングでは、言語として理解していたことをお互いに述べ合って情報を編集して、共に納得解にしていくというプロセスを経験することができました。
最終的に、日本にそれまで存在しなかったレクサスというブランドを自分の言葉で語れるようになったというところが肝だったと思いますし、おかげさまで1年目から目指していた顧客満足度No.1をとるという目標を達成するための原動力になったのではないかと思います。
清宮普美代代表 コメント
アクションラーニングを理念浸透に活用したレクサスの店長研修は、私達にとっても大変印象深い研修でした。
開業前の5か月にわたる期間、店長候補160人に対して、6人~7人のチームに対応するALコーチも25人程度の大規模プログラムでした。
アクションラーニングの持つ力は、物事を解きほぐし、そのプロセスを共有するなかで、相互理解を高める効果もあります。
なにより、チームで行うことの意味。他者の視点が、自分の今までの価値観を揺らがす姿を何度もみました。
(ある意味、トヨタ車の敏腕セールスであった)GM(店長)たちにとっては、過去の成功体験を脱却する、まさに、アンラーニング(学習棄却)の体験でもありました。
木村さんには、プログラムの守護者として、大変お世話になりました。
その後の御活躍をみても、リーダーとしての、人の育成がビジネスにとって最重要ポイントだということを体現されていて素晴らしいです。
日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。