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日本アクションラーニング協会情報

【進化するラーニングモデル×アクションラーニング】小村俊平氏 #2020Learing Base

2020.5.12 Learning Base vol.4
進化するラーニングモデル×アクションラーニング
WITHコロナ、AFTERコロナ、NEXTコロナで、
私たちの学びはどう変わるか?
Guest: 小村 俊平氏
小村 俊平

日本イノベーション教育ネットワーク(協力OECD)事務局長(当時)
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員
岡山大学学長特別補佐(教育担当)

全国の自治体や学校とともに、SDGsやSTEAMの考え方を取り入れた次世代の学びの実践と研究に取り組む。
岡山大学学長特別補佐を兼任し、全国の中高生の対話の場「SDGsユース」を主催する。
訳書に『教育のワールドクラス』等。

 

「学び」の姿を考えるいい機会がうまれている。
新型コロナウイルスの影響で、2020年3月2日より全国の小中高校へ臨時休校要請が出された。
その後要請は延長され、5月11日正午時点でも86%の学校が休校を実施している。(※)
学校では、対面でない形での学びをどう推進するのか、これまでにない対応に追われており、 各校や自治体によりその内容は様々です。
小村氏は国内外での教育研究プロジェクトの経験やこれまでのネットワークを駆使し、専門家と学校現場を巻き込んだ教材の開発やオンライン対話の場作りといった独自の取り組みを、圧倒的なスピード感で進めています。
これからの社会変革は、若年層(高校生)の学びの力を活用すべきだと思います。
取り組みを紹介しながら、ウイルスと共存する形での新たな学びの場をどのように作っていけばよいのか、考えていきたい思います。

※出典
「新型コロナウイルス感染症対策のための学校における臨時休業の実施状況について」(文部科学省)

 

 

一週間でつくった コロナ感染予防児童向け教材

2020年3月末、新型コロナウイルスが全国規模で拡大しているにもかかわらず、4月1日から休校要請が解除される可能性がありました。
感染拡大リスクが高まることを想定し、有志の研究者とウイルスについての正しい知見・対策について発信していこうと考えました。
そこでリリースしたのが、小学生向けの教材「新型コロナウイルスについて一緒に考えよう!!」です。
コンセプトは、そもそも新型コロナウイルスがどんなものなのか、分かっている基礎知識を提供しつつ、分からない部分はお父さんお母さん、先生たちと一緒に考えていこうというものです。
中でも一番大事なのは手洗いだったので、なぜ手を洗うと効果的なのかなどといった疑問への答えを、Q&Aで用意しました。
手を洗うときは水だけでなく、お湯でなく、石鹸だとなぜ効果的なのかなど、理屈がわかると、子どもたちも納得感を持って取り組めると思うんです。

3月28日に構想してから、オンライン会議だけで開発し、翌月4月5日にリリースと、非常にスピード感を持って取り組みました。
しかし、スピードの代わりにクオリティを犠牲にすることはありません。国内最高峰の研究者と一緒につくりました。
こうした研究者の難しい知見を小学生に伝えるには、私の力だけでは足りないと思い、学校の先生にも協力いただきました。
学校の先生のすごいところは、専門的なことを生徒に分かるように伝える力だと思います。
この専門性と研究者の知見との掛け算で、教材を作りました。
そして重要なのは、この教材の配布を完全にフリーにしたと言う点です。
内容は改変しないという条件で、デジタルデータの保存も可能にしました。
朝日新聞の全国版や毎日新聞、産経新聞などで大きく紹介され、岡山県をはじめ国内で20万部以上使っていただいている他、中国語版と英語版もリリースされています。

 

コロナ禍の全国高校性とのオンライン対話

OECD Learning Compassをもとにコロナにどう立ち向かうのかを考える

同時に、岡山大学で「SDGsユース」というオンラインのワークショップを、3月から毎週開催しています。
学校や地域を超えて、コロナウイルスという現実課題に向き合うための場として作りました。
2月の半ばから3月にかけて高校は期末試験の時期ですが、試験勉強している暇があったら新型コロナウイルスのことを話し合ったほうがいいのではと高校生に声をかけてみたところ、すぐに20名ほどが参加してくれたことがきっかけです。
1回の参加者は30-60名、90分間のうち最初の10分で話題提供をした後、グループでの対話と全体セッションを2セット行い、対話を深めます。

例えば第2回では、OECDが変化の激しい時代を生きるガイドとして発表したOECD Learning Compassをテーマにディスカッションしました。Learning Compassでは、今の時代を生きるために重要な力として、3つのTransformative Competency

①新たな価値を創造する力
②責任ある行動をとる力
③対立やジレンマを克服する力 

を挙げています。
これに沿って、新型コロナウイルスに直面している現在の実例を出しながら、高校生と意見を深めました。
例えば、今パチンコに行くおじいちゃんの行為は責任ある行為なんだろうかとか、中国人が日本やヨーロッパで差別されるといった対立やジレンマをどう克服したらよいのかなどです。
またせっかくなので、いろいろな立場のゲストを呼びました。
渋谷区の区議会議員の方にはウイルス対策と地域の政治にあるジレンマについて生々しい話をしてもらったり、パンデミックで経済がどうなるか、仮想通貨を例にITベンチャーの方に話題提供してもらったりしました。
でも一番高校生に人気があった回は、実はゲストのいない雑談会です。
先日の回では首都圏以外にも福島、京都、福井、金沢や、ベトナム、カナダ、ニュージーランドからも参加してくれ、それぞれの地域の現状を話していました。
このうち僕が直接会ったことがあるのは5人ほどで、あとは生徒が友達を勝手に連れてきてくれます。
オンラインでやりとりができる時代に、学校にわざわざ毎日行く意味は何なのか、というテーマで議論した時に学生から出てきたのは、対面の良さはいろんな偶然性があるという意見です。
偶然得たものの中からこれ面白いな、これやりたいなと思うのもが出てくるので、それが大きな学びの機会だというのです。
オンラインだとすでにデザインされたものしか得られないので、面白くない、刺激がないという意見もありました。
今はオンラインワークショップでどうしたらもっと刺激や偶然性を増やせるのかについて話をしています。

 

全国の学校の知見を結集するオンライン対話

3つ目の取り組みは、休校中の学習知見を集約し発信していくために、全国43校の先生と一緒に、毎週オンライン対話を開催するというものです。
議事録をGoogleドキュメントに記録して、休校中あるいはオンライン授業で困っていることや解決アイディアをシェアしています。
全国に名を知られる進学校も、経営難の学校も、等しく困っていました。
逆にこの5年、10年ほど、苦しい経験をしてきた学校の方が、危機的状況の中で誰かがリーダーシップを発揮して、合意をとって新しいことをするという経験をしているので、柔軟な考えを持ち実践してすることもありました。
出てきた困りごとや解決策を整理して作った、ガイドラインの概要をご紹介します。

①休校中のマインドセットを教員間で共有する
まずは、先生たち自身が不安であることを受け入れることが必要だと思います。

②学校(学年・個人)として学習支援の方針を定める

③活用するデジタルツール・ルール・教材などを決定し、準備する
世の中にあるデジタルツール、例えばGoogleやClassiなどの中から、学校として何を使うかを決めます。

④学習支援の方針を生徒・保護者に共有する
多くの学校は生徒と保護者のことを、お客さん・教育対象と考えてしまいます。
でも今は、保護者の協力なくして教育は成立しません。
ですから学校側もできることとできないことを整理して、できないことはお願いする必要があります。
例えばタブレットの使い方について先生がサポートするのは難しいので、IT系が得意な生徒にボランティアで対応してもらうなど、生徒や保護者とパートナーシップを築くという方針を入れました。

⑤学習支援を開始し、継続的に改善する
学校の先生は真面目なので完璧なものでないと取り組めないと思いがちですが、とにかく早く始めてだんだん良くしていこうという話をしました。

⑥学校再開後に実現したい新しい学校の姿を検討する
新型コロナウイルスが落ち着いたからといって、学校教育の場が完全に元の状態に戻ることはないでしょう。
その前提に立って、新しい学校像を皆で考えていきましょうと話しています。

迅速さも大切なポイントです。
4/9に第1回の対話をしてから、ちょうど1週間で最初のアーカイブをリリースしました。
5/6にはオンラインセミナーを実施し、集まった230名の満足度も非常に高いものとなりました。
社会的に立場があったり研究をしている人は、正しいことを伝えなければと思うから、動きがどうしても遅くなりますよね。
でも分かっていることは分かっている、分からないことは分からないということをきちんとわきまえた上で、タイミングよく社会に発信することはとても大事だと私自身学びました。

答えを求めない、完璧を求めない、つながりとフィードバック、パートナー関係を構築する

セミナーの中では7つのメッセージを伝えました。

①先行事例に学ぶが、答えを求めない
学校というのはそれぞれ状況も生徒も違いますから、自分たちで考えて対話し、協働して自分たちなりの新しい姿を作りましょうと伝えました。

②最初から完璧を求めない
試行錯誤しながら改善していくことが重要です。

③生徒・保護者・地域とのパートナーシップを構築する

④短期決戦だと思わない
人間、1週間であれば無理もできますが、同じペースで1年間走ろうとしたら、教員も生徒も倒れてしまいます。
ですから長期戦に耐えられる仕組みを作り、誰にとっても持続可能なものにしていく、そうすることで学校再開後にも資産を引き継いで新しい学校になれると思っています。

⑤学びの前につながり
休校になって、一部の学校が、やり残した課題、新学年の課題をいきなり各家庭に郵送しました。
でもそれより、まずは先生と生徒の間で信頼関係を作ることの方が重要ではないでしょうか。
授業よりも、オンラインホームルームで先生と生徒がしっかり話ができていたら、生徒はある程度自分で勉強できると思います。

⑥生徒同士のつながりを豊かにする
先生と生徒の間だけでなく、より大事なのは生徒同士のつながりです。
最初私は休校要請が出たとき、生徒は自分たちで好きな本を読んだり映画を見たりできるじゃないかと思っていました。でも話を聞いてみると、いろんな人と感想を言い合ったりしないとやがてそうした意欲はなくなるようなんです。
つながりがあるからこそ人は学びに向かうことができ、気づきも広がるということを実感しました。
またせっかく皆と繋がれる時間に、その日の課題と提出期日だけ言われたり、提出していないと説教されたりしたら嫌になりますよね。
できる限り楽しく生徒同士がコミュニケーションを取れるように、オンラインホームルームで人狼ゲームを取り入れるといった仕掛けを行っている学校もあります。

⑦自律性、自己効力感、関係性を大切にし、適切なフィードバックを行う
自律の前提にあるのは相手に対する信頼だと思います。
また自分が本当にできるようになったかどうかは人が認めてくれて初めてわかるところがあるので、単に宿題の提出確認ではなくて、ここができるようになったねとか、自己効力感を高められるようなコミュニケーションをとって、関係性を作ることが大事だと思います。

 

私たちの学びはどう変わるのか

この1、2ヶ月の活動を振り返ってみると、改めて、学校教育は確実に変化していくと感じます。
元々政府にGIGAスクールという構想はありましたが、今回の影響で間違いなく全国の学校にインターネットのインフラは整っていくでしょう。
その上で進むのは、学校と家庭、地域の連携です。
学校が何かやってくれるのではなくて、みんなで学校を支えていく、あるいは学校を使って良い教育をみんなでする
そんな動きになっていくでしょうし、なっていかないと学校が持たないと思います。
当然、社会環境も変化していきます。在宅勤務は定常化し、都心のオフィスは座席数を減らし、対面で会うのはよほどの貴重な会議、付加価値としてやるものになるだろうと思います。
併せてこれだけ経済的にダメージが大きくなると、各企業も給与に影響が出るため、収入を増やすためにパラレルワークがやりやすくなります。
リモートワークが増えると労働時間よりも結果で評価されるようになるので、効率よく2、3の仕事を同時にすることができると思います。
こうした環境変化の中で、おそらく新しい学校ができて新しい学習スタイルが生まれてくるでしょう。
リアルとオンラインを組み合わせ、個人で家で学ぶことと学校で集団で学ぶことの使い分けができていくはずです。
これから分散登校という新しい学び方が出てくるかもしれませんから、登校できる貴重な1日を何に使うかですよね。
せっかくみんなで会えるのだから、集まらないとできない遊びや対話をした方が価値があると思います。

これまで学校教育は先生が職人堅気で、料理人のようだったんです。
俺の料理を食え、というのが授業だったわけですね。
でも知識は使うことが大事ですから、先生の仕事は生徒が料理を作れるようにすることです。
これからの時代の先生に求められるのは、生徒が作った料理はどんな下手物でも全部食べる力、もしまずかったら、ニコニコしながら「まずい」と言える力だと思います。
相手が将来に希望を持つ。相手が何かできるようになる。そのような教育がますます大切になると思います。

 

清宮普美代代表 コメント

私自身、小村さんが事務局長をなさっていた日本イノベーション教育ネットワークに参加させていただいていたことから、教育現場のエネルギーを感じているひとりです。
高校生がおこなっている「探究学習」は、まさにアクションラーニングのことですし、社会全体として、教師‐生徒、上司‐部下のヒエラルキーのなかでなく、相互に学ぶ会うこと、そして、主体性を育むことが、大切なことだということが、いまの社会に生きるものとしてひしひしと感じます。
また、迅速さ(アジャイル)に試行とフィードバックを繰り返すこと。
そして、オンライン環境下での学びの<偶発性>をいかに担保するか、など、本当に示唆に富む御話でした。
教育現場と企業現場は、同じものに直面しているわけですので、相互に学びあうことが大切だと思います(いまは、企業のほうが遅れをとっている)

清宮 普美代(せいみや ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。

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