21世紀の学習
旧来の教育から新しい教育への転換が求められている昨今。教育業界でもさまざまな試行錯誤が続けられています。
この21世紀に本当に求められている学習とは、いったいどのようなものでしょうか。
企業変革や組織開発の最前線で活躍した後に、2010年から教育問題の解決について取り組んでいる熊平氏が「21 世紀の学習」と題した講演を行いました。
まず熊平氏が話したのは、「どうして日本人は問題解決ができないのか」という問いです。
多くの日本人は、問題解決ができない時に「問題だ、問題だ」と、まるで壊れたテープレコーダーのように繰り返すだけで終わっていると指摘。
その解決策を模索する中で「ソサエティ・オブ・ラーニング」という組織と出会い、その4人の叡智とされる人物、ジェイ・フォレスター、ピーター・センゲ、オットー・シャーマー、アダム・カヘンから「学習する組織」という取り組みについて、アメリカ滞在中に多くのことを学んだと振り返ります。
特に影響を受けたのは、世界の人口増加によって危機が訪れるとした『成長の限界』(1972年)や、人類の危機を脱するために学習が必要だとした『限界なき学習』(1979 年)などの書籍 でした。
「人類はこの 200 年間で急激に人口が増え、多くの人が貧困に苦しむようになりました。現在の文明を維持するためには、地球3つ分の自然資本が必要だと言われるほどです。こうした限界ある自然資本とは逆に、人間の学習には限界がないことに気づきました」
今の時代は「変化」「複 雑」「相互依存」がキーワードで、それに関わる問題解決を可能にする学習が求められていると熊平氏は語ります。
折しも、経済協力開発機構(OECD)も「21 世紀の教育」に関する発表をしています。
そこでも、持続可能な成長を実現する社会と、多様な人々が安心して共生できる民主的な社会の実現を目的とする、新しい教育の必要性が説かれています。
従来のような学力だけでは不十分で、子どもたちにより多くの力が求められるそうです。「テクノロジーを例にとっても、単に使いこなすだけではなく、それを用いてイノベーションを起こせる力が必要とされているのです」教育観そのものが 大きく変わりつつあると指摘しました。
こうした新しい教育を受けた人々の一例として、グローバル企業のユニリーバでの取り組みを紹介しました。この会社では、持続可能な発展を視野に入れた新しいビジネスモデルを模索しています。それ が「サステイナブル・ティー」で、貧困家庭の半数を占める農家に対する支援活動を積極的に行い、社会が長期的に発展することをパネル講演に続いて、登壇者たちによるパネルディスカッションが行われました。アクションラーニング(AL)を使いながら組織風土を変えていくことを考えた場合、どのような取り組みを行ったのかという先行事例を知ることは大きなヒントになります。
そこで、この後に行われる予定の分科会に先駆けて、「企業」と「教育」という2つの現場で行われた取り組みについて、実際に携わったパネリストたちが紹介しました。
最初に三菱商事の斎藤氏が、中堅クラスを交えて行った「質問会議」について紹介しました。
「質問会議」を3ヶ月間行ったことで、コアメンバーたちの当事者意識が向上したと斎藤氏。また、会議などにおけるコミュニケーションの改善効果も見られたそうです。
一方で課題もあったとし、問題の本質を見極める力の向上まで至らなかった点や、活発な議論をアクションに繋げられなかった点を挙げました。
続いて、日立情報通信エンジニアリングの永田氏が話しました。永田氏は、会社の組織再編によって背景が異なる社員の間にミスコミュニケーションが 生じたため、その問題解決にALを取り入れたそうです。
ALがつくり出す安心・安全の場によって、日常では話しにくいことまで話せるような信頼関係が生まれつつあるとその効果を強調しました。
一方、教育現場での取り組みを紹介したのが立教大学の日向野氏。
地道な取り組みによってALが浸透している経営学部では、入学式前に実施されるウェルカムキャンプで、新入生全員がALを体験します。
特に今年は、大掛かりなプログラムをつくって満足度を上昇させられたと日向野氏。
学部のプログラムでは、浅草の西参道商店街の活性化についてALを使いながら取り組んだほか、人事部主導による立教 大学の職員研修にも活用されていると説明しました。
そして最後にマイクを持 ったのは熊平氏。
問題解決のためには安全な場づくりが重要であること、そしてこうした教育現場を卒業した学生が社会に出ることが楽しみだと大きな期待を述べました。経営視点に取り入れているそうです。
熊平氏は自らの取り組みについても説明を行いました。昨年から、新しい時代の教育について考えるプロジェクト「 未来教育会議 」をスタート。
その背景にあるのは現在の教育システムに対する危機感だと言います。「教育関係者は、それぞれの立場で真摯に取り組んでいます。
しかし “ 部分最適化 ” が進んだことで、結果的に全体の教育システムそのものが崩壊しつつある」個別の対処療法が進み、システムの複雑化を招いた結果、しわ寄せが子どもたちに行っていると指摘します。
また教育と企業社会との間には密接な関係があり、企業の価値観が古いままでは新しい教育もできないとしました。
「今、世界で子どもが一番幸せな国と言われているのがオランダです。この国では4歳の子どもが自分の行ったワークのリフレクションを行うのが当たり前。ですから、みなさんが普段行っているような活動を、ぜひ子どもたちにも広めてほしい」と参加者に語りかけて講演を終わりました。
自分たちがいる社会と教育との関係がわかりやすく説明され、参加者たちも、この問題は一人ひとりが主体的に関わっていく必要性があることを納得したようでした。