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日本アクションラーニング協会情報

【イノベーション×アクションラーニング】小山龍介氏 #2020 Learning Base

2020.8.18 Learning Base vol.10
イノベーション×アクションラーニング
~「イノベーション×学習」とは?~
Guest: 小山 龍介(コンセプトクリエーター)
小山 龍介

1975年福岡県生まれ。
京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。
大手広告代理店勤務を経て、米国MBAを取得。
その後、松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。
2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立。
執筆家としての顔も持ち、その代表作である『IDEA HACKS!』を始めとするハックシリーズは、多くのビジネスパーソンに支持されている。
翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、そのなかで紹介されているビジネスモデル・キャンバスは、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。
2014年には一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を立ち上げ、ビジネスモデル思考の普及啓発に取り組む。
名古屋商科大学大学院ビジネススクール准教授として「ビジネスモデルデザイン」を教える。
著作に 「IDEA HACKS!2.0」(東洋経済新報社)共著、「在宅HACKS!」など、HACKSシリーズ、「ビジネスモデル・ジェネレーション」(翔泳社)翻訳、「ビジネスモデル」名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 03 など多数

 

 

アクションラーニングは、ある条件を満たすことでイノベーションを生み出す可能性がある。
そう語るのは「IDEA HACKS! (東洋経済新報社,2006)」などビジネスイノベーションのモデルを提示する著作を数多く手掛け、ビジネスモデルイノベーション協会の立ち上げなども手掛けている小山氏だ。
今回は、イノベーションとはどのような時に起こるのか、アクションラーニングをイノベーションの文脈で用いる場合にどんな要素が必要かについて言語化いただいた。

 

イノベーションとは

私がイノベーションについて話す時よく最初に挙げるのは、かつてあった東京バベルタワー構想の話です。
これはバブル崩壊頃の 1992 年に構想されていた、高さ 1 万メートル、山手線の内側全ての敷地を使うという建物です。
これは、果たしてイノベーションと言えるでしょうか。
あくまで高さを増やすことの延⾧線でしかないという点や、使う敷地が経済的にも政治的にも実現不可能なものだという点から、イノベーションとは言えないという意見の方が多く上がります。

アイディアについて、実現可能ではあるが想定内というものがイノベーションと呼べないのは当然ですが、東京バベルタワーのようにあまりに非常識で実現不可能なものもイノベーションとは呼べません。
イノベーションというのはちょうど、実現可能でありながらも想定外であるという、二律背反なものを指すのです。

イノベーションやアイディアの定義について、例えば経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」と語っています。
これは、既にあるものを結合する、ということです。
他にもジェームズ・ヤングが「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と語っているなど、様々な人が同様のことを語っています。
よい例として、全米と世界 220 以上の国や地域で輸送サービスを行う FEDEX の誕生秘話があります。
FEDEXは、全ての空港に互いの直行便を引くのではなく、1 箇所ハブとなる空港を作るというアイディアからスタートしました。
これは創設者がビジネススクールの学生の時に考案したものです。
日本に例えると、札幌から仙台に行くのにも、一度ハブとなる羽田空港を経由するといった仕組みで、より迅速かつ正確に輸送ができるのです。
ところが当時、教授からのレポート評価は C でした。
直感的には、わざわざ羽田を経由することが効率化につながるとは思われなかったのです。
そこで 1973 年にテネシー州メンフィス国際空港を拠点に、米国内の 25 都市間で航空貨物輸送を開始し、今に至るまでの成⾧でアイディアの正しさを立証しているのです。
これは飛行機、空港といった既にある資源を新しい形で結合したことからできた事業であり、まさにイノベーションと言えます。

 

イノベーションを起こす鍵

では実際にどのようにして新結合を生み出すのか、体験してみましょう。
銀行とホテルがタッグを組んで新規事業に取り組むというときに、どんな事業のアイディアが浮かぶでしょうか。
この時、まず銀行とホテルが持っている要素をみなさんにお伝えするとします。
銀行であれば、貯金・融資、投資・保険、立地と建物、セキュリティ、ブランドなど。
ホテルなら客室・レストラン、ウェディング、会議・カンファレンス、ホスピタリティ、ブランド、コンシェルジュなどです。
アイディアとして、ホテルの空室をオフィス仕様にリフォームして、銀行が支援するベンチャーを一定期間入居できるようにするインキュベーション事業といったものが挙がります。
でも、このように要素を出してから考えると、ホテルの既存事業に少し銀行の要素が入った程度にしかなりません。
全く新しい組み合わせを考えるのは非常に大変なのです。

つまり、これでは建物の高さを増やしたバベルタワーと変わりない発想しかできなくなります。
なぜかというと、要素を出している時点で想定外の事柄を排除してしまっているからです。
想定内のものから組み上げる方法は論理的アプローチと言いますが、これではイノベーションはなかなか起きにくいのです。

私も年に1 度ほど、異業種間で新規事業を作るワークショップを開催することがありますが、2 社が互いのことを知れば知るほど失敗するということが分かってきました。
むしろ、非常識な方面からアイディアを持ってくるアート的なアプローチの方が、よほど面白いことが起こるのです。

実は、アクションラーニングで考えてみると、”ピザ屋さん”の存在がこのアート的な役割を果たします。
お互いに質問をしあっている時、話されている分野にガチガチに詳しい人だけが集まったとしても、イノベーションは起きにくいです。
”ピザ屋さん”は相手が話している状況をよく知らないが故に、論理的な積み上げではないところから急に非常識な質問をするわけですよね。
でもそこからふと、新しい発見や気づきが生まれます。
つまりアクションラーニングがイノベーションの観点から優れている理由は、”ピザ屋さん”がいるからで、こうした存在を制度設計に入れることが大事なのです。

 

想定外を取り入れる設計がイノベーションを生む

偶然や想定外なものについては、アートの世界ではかなり意識的に導入されています。
作曲家のジョン・ケージは、五線紙についたゴミを音符に見立てて作曲を行う、チャンス・オペレーションという取り組みや、サイコロの各目に音符を当てて、振って作曲するといったことをしています。
すると出来上がる曲はとんでもないものなのですが、これが非常に面白いのです。
ジョン・ケージはなぜこんな形で偶然性を取り入れたのかというと、音楽については 19 世紀までに、和音、メロディー、リズムどれをとってもほぼパターンが出尽くしてしまっているからです。
なので偶然性を活かす、環境の側からヒントをもらって作曲するという取り組みをしたのですね。
他にも 4 分 33 秒という、全く何も弾かない曲もありますが、実際には時間を測るときのストップウォッチの音や、様々な環境音が入っています。

ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングも、色使いやバランスは本人の芸術的な観点で作られていますが、作品の作り方にコントロールできないところがあって、これによって既存の芸術からブレイクスルーしようとしています。
こうした流れが 20 世紀のアートの世界のアプローチなのです。

先ほどの、銀行とホテルを掛け合わせた新規事業についても、適当に事業を入れてみた方が思いがけないアイディアが出ることがあります。
例えば「スニーカーを作る事業」を当てはめてみましょう。
最初はどこにも繋がりが見出せず驚く人が多いですが、具体的なアイディアを問うと、意外と出てきます。
ブランドのホテル仕様のスニーカーを作ったり、接触のキャッシュレス決済をスニーカーで行うといったことです。
実際にスニーカーでのキャッシュレス決済はアメリカで試みているベンチャーはありますから、十年後には認証スニーカーの存在が当たり前になっているかも知れません。

 

アクションラーニングについて、別の表現をすると、他者と出会う場所だと言えます。
フランス哲学では、他者とは自分自身ではないものすべてのことを指します。
他人はもちろん、物理的制約や環境、文化、社会、ルール、法則、言語、そして身体性なども入ります。
アクションラーニングがイノベーションに効くというのは、抽象的な表現にすると他者と出会う契機として機能する機会だからです。
しかもこうした他者が目の前に現れても、通常は「そんなことは分からない」「自分には関係ない」と跳ね除けてしまうものですが、アクションラーニングでは質問を受けるという形で否応なく一旦受け入れ、答えなければならないというインターフェースが設計されています。
それがイノベーションを生み出すきっかけになるのです。
アクションラーニングは、チャンス・オペレーション的と言えるのです。

 

アクションラーニング(AL) をイノベーティブな場にする 2 つの存在

アメリカの哲学者パースは、物事を考えることはおよそ推論だと捉え、かつ推論にもパターンがあると言いました。
1 つ目は、演繹的な思考です。
ギリシャ時代からヨーロッパでは、「人は死ぬ」「ソクラテスは人である」であれば「ソクラテスは死ぬ」と言うような思考法を確立していました。
これはプラトンやデカルト的と言えます。

もう一つは、帰納的な思考です。
「いろいろな人をみていたら皆亡くなっているから、私もいつか亡くなるだろう」というように、列挙することで見えてくる推論で、アリストテレスやベーコン的な発想ですね。
これらはヨーロッパでは歴史的に、思考の源流となっている考え方です。
演繹的な推論は、大陸合理論とも呼ぶことができ、ドイツ人のように非常に合理的な物事の考え方に当てはまります。
対して帰納法的な発想はイギリス経験論とも表現できます。
イギリスには成文憲法がなく、様々な判例に基づいて物事が決定され、判例が変われば基準も更新されるわけです。

しかしドイツの哲学者カントは、これらの思想を批判しました。
演繹的な発想は「◯◯という手法であれば売れる」と言うようなある種の思い込み、独断論になり、帰納的な発想は「他社も売れているから売れる」というように他者の追随にしかならないというのです。
そこでパースは、大陸合理論やイギリスの経験論ではない、別の思考法はないだろうかと考えました。
それがアブダクションという第三の思考法です。
あえて日本語に訳せば、飛躍的推論です。
一番わかりやすい例は、天動説から地動説へのコペルニクス的転回です。
天動説に基づいて惑星の動きを計算しようとすると、ものすごく複雑になります。
そこである時に、太陽ではなく、地球が動いているという風に飛躍的な仮説を立ててみたところ、一気に計算が楽になり、説明がつくことが分かったわけです。
これが地動説の発見になりました。
また、エベレストから貝や魚の化石が出る理由の発見についても同じです。
皆さんはご存知の通り、これらの化石はプレートテクトニクスにより海だったところが隆起して山になったことの表れです。
ニュートンがリンゴの落下をみて万有引力の法則に至ったことも同じです。
これらの発見は演繹的にも帰納的にも導き出すことはできなかったのです。
時代の常識ではちょっとおかしいとされること、説明がつかなかったようなことが、アブダクションによって驚くべき発見につながっているのです。

これをアクションラーニングに紐づけて考えてみると、実は先ほど大事だと言った”ピザ屋さん”の存在はもちろん大事ですが、それだけではなく、”ピザ屋さん”のアブダクティブな要素を発見し受け取れる存在も欠かせないことが分かります。
”ピザ屋さん”を活かせるかどうかは、受け取り手の存在にかかっているのです。
実際のアクションラーニングの場では、AL コーチがこうした役割を担うことも多いかも知れません。
イノベーティブなアクションラーニングの場にするためには、”ピザ屋さん”と、その発言を潰さずに仮説を導き出せる受け取り手が必要なのです。

※ピザ屋さん:アクションラーニングのKeyストーリーのひとつで、会議メンバーのスナックで注文したピザをデリバリーしてきた配達人(問題について全く白紙)に、その場で会議に参加してもらうなか、盲点となっていた観点からの質問などをうけ、まったく新しい視点で問題を再定義、解決策を考え得ることができたという話。

 

清宮普美代代表 コメント

小山さんとの出会いも、かれこれ10年は経過しています。
そして、ご自身が活用されていることはもちろん、教鞭をとられている大学院の新規事業開発系の授業で<アクションラーニング>をご紹介してくださっていることです。
長年活用していただいているからこそだと思うのですが、アクションラーニングのもつ大きな効用のひとつ、「イノベーションを生み出す」ことをとてもクリアに紐解いてくれています。
新しい発想や視点がうまれる場として、多様性(異質性)と心理的安全が担保されることが重要です。
その仕組みを質問会議のフォーマットは担保しますし、ALコーチの役割りも、ピザ屋の大切さを理解し、その発言を誘発し、受け入れられるチームの場づくりをする、ということになります。
つまり、新規事業をリードする人に必要なマインド、態度、行動様式は、ALコーチのそれと同じです。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。

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