【リベレイティングストラクチャー×アクションラーニング後編】伊藤保氏 #2020 Learning Base
GE(ゼネラル・エレクトリック)のリーダーシップ・プログラムに選抜され、シックス・シグマのブラックベルト(課題発見・課題解決のリーダー)となって数々の経営戦略プロジェクトに従事。
その後、日本オラクルやジェネックスパートナーズでコンサルタントとしての経験を重ねる。
また、プロボノとして、ファシリテーションツール「リベレイティングストラクチャー」のユーザーグループでも活動している。
共著に「図解 組織を変えるファシリテーターの道具箱 働きがいと成果を両立させるパワーツール50」
単著に「フリップ 課題解決のための自由な視点や考え方を手に入れよう」
目次
TRIZ(トゥーリーズ)
伊藤:前回、みなさんが組織開発やアクションラーニングについて、どんなことに関心を持たれているかを、リベレイティングストラクチャー(以下:LS)のツールの1つ「Conversation Cafe」でお伺いしました。
それをLogical Framework Approachというフレームに沿ってまとめてみると、「Impact(長期的な変化)」「Outcome(成果)」「Output(結果)」「Acrivities(行動・介入)」の4つのレベルで捉えることができました。
長期的な変化として「新しい事業環境にどう適応したらいいか」「コロナ禍はいつどのように収束するのか」「環境破壊の防止」などが挙がっており、長期的な望ましい変化を達成するために、いくつかの段階を踏もうとされていることが見えました。
その中で、私たちが実際に行動を起こし、介入できることは何かと考えてみた結果「皆さんが職場や地域で新しいことを始めようとした時」に、色々と難しいことが起こっていそうだということが見えてきました。
そこで今回は「新しいことを始める」をキーワードに、みなさんでTRIZ(トゥーリーズ)というツールを体験していただこうと思います。
ブレイクアウトルーム機能を使って、4〜7人程度のグループに分かれ、30分のグループワークをやっていただきます。
ファシリテーター、書記役、発表者を決め、書記役を始め、皆さんでgoogle Spreadシートなどに対話を記録していきます。
テーマは「所属する組織や地域で、新しいことを始めるのを『失敗させる』方法は何か」です。
これを話し合いながらリストAに10分でまとめてください。
成功ではなく、失敗させる方法です。
次に、その中で実際に「やってしまっている」リストBを作成します。
よくあるよね、というものを10分で出します。
そしてリストBに対し「止めるべき行動(止める方法)」のリストCを10分で作成してみましょう。
最後はどうすれば失敗しなくなるのかをみなさんで引き出してください。
終わったら各グループから内容を発表していただきます。
それでは、どうぞ…。
では実際に出た内容を発表してください。
グループA:
リストAは18項目列挙できました。
その中でも特にやってしまっているリストBの1つが「担ぎ上げた後にはしごを外す」こと。
巻き込んでおくべき人を巻き込まずに始めてしまって、あとでそのことを知らせて機嫌を損ねてしまうといったことです。
始める時に重要な人、ステイクホルダーを明らかにして巻き込むことが大事だねと話しました。
仲の悪い人同士をチームで組み合わせてしまうというのもよくあることです。
結果として相性やチーム編成がよくなくて、空中分解してしまうということです。
成功させるためには、予めメンバー編成に注意するというより、多様性を重視する仕掛けをチームビルディングに取り入れるということが大事なのではという話になりました。
例えばアクティビティなどで多様性を重視できるような文化を作るといったことです。
グループB:
リストAは20項目以上出ました。
私たちのチームの特徴は、リストBを作る時に自分たちがやってしまっていることよりも「やられてしまっていること」ばかり出てきたということです。
でも結論としては「とりあえず相手の反応にいちいち反応してしまっている」というのがやりがちなことでした。
「とりあえずダメと言わないこと」つまり「相手のことをある程度認めて、話を聞いた上でやること」が大事では、という話になりました。
伊藤:ありがとうございます。
TRIZはロシアの科学アカデミーが考えた発明原則、すなわち発明というのはこうしたパターンで成り立っている、というリストの1つがもとになっています。
新しい取り組みを始める前に、失敗させる方法を皆で出し合うと、取り組もうとしている人が気づかない落とし穴を、意地悪な人がたくさん教えてくれたりするんです(笑)。
これが新しいことを始める上で役に立つんですね。
私がTRIZをよく使う場面は、顧客満足度を上げたい時です。
例えば、あるチェーン店で「顧客満足度を高めるために何をしたらいいか」というワークショップを従業員の皆さんに開いてみても、正直綺麗事しか出てきません。
でも、顧客満足度を”下げる”方法を考えてください、というと「欠品を増やす」とか「お客様を無視する」とか、「店長がお客様の前で店員を叱る」なんていう、実際に起こっていそうなことまで出てきます。
日頃言葉にされにくい現状や、心の状態が、面白い形で上がってくるファシリテーションツールなんです。
しかもこのツールは、最初にファシリテーターは問いを出して、あとは何もしていないので楽です(笑)。
ただし、最初の問いを考える時は結構時間を使います。
今回も、Logical Framework Approachでみなさんの関心事を可視化した時に、長期的な変化はさておき、皆さんが新しいことを始める時に課題がありそうだと分析しました。
僕の経験も照らし合わせて、新しいことを始める時に失敗させる方法は何かを考えると、今日は盛り上がりそうだなと考えたのです。
このようにどういった問いを投げかけられるかが、TRIZを実践する上では重要です。
15% Solution
最後に15% Solutionというツールを使って、3人1組で話し合いをしていただきます。
カナダのヨーク大学の研究によると、組織内のスタッフ個人の85%の時間は、日々決められた業務に使われているそうです。
逆に、残り15%は特別なリソースや権限なしに個人の裁量で使うことができます。
面白いのは、この15%の時間で実践したことが残りの85%に大きな影響を与えているということです。
そして15%の時間を段階的に積み重ねることでレバレッジポイントが見つかり、組織に飛躍的な変革をもたらすことができるということが分かっています。
今回は、第一回とこの第二回で体験したことをもとに、特別なリソースや権限なしに実践できそうな、皆さんそれぞれの15% Solutionを考えてみてください。
まずお一人で2、3分考えた後、3人1組で共有して、お互いのソリューションに対するコメントやアドバイスをシェアしてみてください。
それではどうぞ…
ありがとうございます。
これは皆さんお一人お一人の解決策なので、ここであえて発表はしなくて大丈夫です。
第一回と今回で、LSのうちのいくつかのツールを体験していただきました。
前回もお話した通り、LSはみなさんが組織開発や社会課題解決の現場で話し合いをリードするときに、参加者が肩書きや立場に囚われずに参加・貢献することができ、一人一人の経験や意見を共有し尊重できる、話し合いが進めやすくなるツール群です。
オープンソース式ですので、ウェブサイトからもアクセスでき、引用元を表示さえすればどんな方でも使うことができます。 日本語でより分かりやすく知りたいという方は、「図解 組織を変えるファシリテーターの道具箱(ダイヤモンド社,2020)」が上梓されましたので、そちらも是非ご覧ください。
リベラルティングストラクチャー(LS)に関する情報へのアクセス
【書籍】
「図解 組織を変えるファシリテーターの道具箱(ダイヤモンド社,2020)」
「The Surprising Power of Liberating Structures」
【Facebookページ】(日本語)
リベレイティングストラクチャー | Facebook
【Webサイト】(英語)
Liberating Structures – Introduction
スマートフォン・アプリ(無料)
2021年3月23日・日本語版リリース!
[AppStore] 「Liberating Structures」で検索
[Google PlayStore] 「Liberating Structures」で検索
清宮普美代代表 コメント
とても興味深い体験でした。いわゆる対話醸成型のファシリテーター(アクションラーニング(AL)コーチもそのカテゴリーに入る)は、場から生成的に湧き上がるものを醸成するのみで、集団に内容的インストラクションをおこなわない。
よく大集団介入(例:ワールドカフェなど)のファシリテーターは、「なにもしないでたたずんでいる」ことが在り方だといわれます。
このリベラルティングストラクチャーというツールは、対話醸成型のファシリテーター、すなわち組織開発や社会課題解決のための対話をうみだす存在としての在り方を担保しながら、<構成的な場づくり>再現可能性が高いツールを提供しています。
正直すごいリソース。 全ファシリテーターの集合蓄積知といったところでしょうか。
私自身は、アクションラーニングという、とてもビビットなグループプロセスのファシリテーションをおこなっていることもあり、場に投げる<問い>は、即興でその場に合わせておこなうトレーニングを積んできました。
なので、逆にいうと、場を活性化する<問い>を事前に練るということは正直苦手です。(多分価値観レベルで、その場で思いつく質問のほうが効果的だと思っている 笑)
しかし、前後にわかれた今回2回のワークショップを通じて伊藤さんの<問い>はとても素敵でした。
それは即興というより、とてもよく練られたもの。
即興の問い力を磨くこと、そしてフォーマットを活用した、構成をもとに考える問いをもつことは、両輪で重要ですね。
とくに、オンライン環境下で、偶然性の制限がある場だと、よく練られた問いかけがとても重要になってくると想った次第です。
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。