NEWS

日本アクションラーニング協会情報

【AIと人間が共創するファシリテーション】田原真人氏 Learning Base Season2 #2

2021.9.30 Learning Base Season2 #2
AIと人間が共創するファシリテーション
Guest: 田原真人氏(参加型社会学会会長)
田原真人

自己組織化一筋約30年。
生命論的世界観における教育、組織、社会のデザインを探究している。
「反転授業の研究」でのオンラインコミュニティ運営、自律分散型オンライン組織「トオラス」の経営を経て、2021年から、参加型社会学会を立ち上げ、社会のパラダイムシフトに取り組む。
『Zoomオンライン革命!』』『『出現する参加型社会』』など著書11冊
IAF Japan理事。
デジタルファシリテーター。
非暴力アナキスト。
マレーシア在住10年目。

ここ数年、オンライン上のコミュニティでデジタルファシリテーションを実践してきた田原氏。
教育の今後を考えるために反転授業の研究を行う傍ら、コンセプチュアルな切り口でコミュニティや組織を作ってきた。

デジタルファシリテーション、主体性、学びのエコシステムの構築、そしてAIと人間の共創について語っていただいた。

切り分けない“あいだ”が重要な時代~ロゴスからレンマへ~

今世の中で合理的とされるのは、ロゴス論理と呼ばれる西洋的な考え方です。
物事をA(第1レンマ)と非A(第2レンマ)に切り分け、切り分けたもの同士がどんな関係になっているかを論理的に構成します。
Aと非Aを混ぜてはいけないというのがロゴスの約束で、Aか非Aかのどちらかである(排中律)、Aと非Aが同時に成り立つとき、それは矛盾だ(矛盾律)と排除する論理で成り立ちます。
一方、東洋のインド哲学では、Aでもなく非Aでもない(第3レンマ)、Aでもあり非Aでもある(第4レンマ)までを含むテトラレンマで論理学が成り立っています。
レンマ論理は混ぜてしまう論理で、第3、第4レンマはAと非Aの”あいだ”とも表現できます。

例えば脳死が人の死なのかというテーマを考えた時に、心臓が動いているから生きているとか、その人の人格が維持されていないから死んでいる、というようにどちらかでなくてはいけないとするのがロゴスの論理ですが、生きているのであり、かつ死んでいるのでもあるという”あいだ”を認めるのが、レンマ論理的な考え方です。
物事の割り切れない部分、グラデーションの部分をどのように扱うか考える上で、レンマ理論は有効な考え方だと思っています。

身体は近代の心身二元論では物質の中に組み込まれてしまっていますが、例えばプロセスワークでは存在と精神的なもの、物質的なものの”あいだ”にドリーミングというものがあり、それが身体に宿っていると考えます。
仏教やインド哲学の他、トランスパーソナル心理学や実存主義哲学も”あいだ”を扱っています。

創造を生むファシリテーション

ファシリテーションをそれぞれの論理で説明するならば、ロゴス論理的なアプローチは、すでにあるフレームやゴールに合わせて要素を書き出し、論理的に組み立てていくという方法です。
状況と目的が決まれば方法が論理的に決まる、正解がある世界です。
これをスムーズに推し進めるファシリテーションもあると思いますが、これだけでは創造は起こりません。
レンマ論理的なアプローチでは、枠組みのないところからプロジェクトメンバーが漠然と感じている要素を見える形にして、構造化していきます。
途中で新しい要素も加えていく中で徐々に考えがはっきりしていき、これをベースに合意形成するのです。

近代の論理や資本主義では、枠組みを決めてから中身を埋めていくのが中心でしたが、それを否定するのではなく、ロゴスとレンマを行き来し続けることが大事だと思います。
フレームを持ちながらも、感じていることをそこから直感的に溢れ出させて、またフレームを再構築していくという繰り返しです。
その時にどのようなファシリテーションやスキル、考え方が必要になってくるのか、というのが現代の問いだと思っています。

本来の「主体性」が意味するもの:内側からでてくる思い

私はトオラス(TORus)という組織で4年ほど、主体的に活動する人達を募ってコミュニティや組織を作ってきました。
そこで取り組んできたのが、オンラインで一緒に考えるためのデジタルファシリテーションというコンセプトです。
取り組むうちに気づいたのは、主体的な学びの”主体的”というのは、非常にレンマ的だということです。
もし置かれた状況からやるべきことが決まっていて、それに取り組むことが主体的だというのであれば、自分の考えや感覚、思いはどこにあるのでしょうか。
内側から出てくる思いは、合理的な因果関係の外から来るのではないかと考えるようになりました。

主体には、相互主体性と間主観性の2通りがあると捉えています。
まず、私という存在から自分の思いが芽生え、それを他者に打ち出していく相互主体性が育ちます。
そして、思いを他者に受け止めてもらうことで、逆に他者の思いも受け止められるようになります。
子どもに例えれば、このおもちゃは自分が遊ぶんだとお互いに主張しあっていたところから、徐々に相手の思いを主体として受け止める感覚が育ってくるということです。

するとお互いの関係性の中で一緒に感じられるものが生まれ、私は私達だという、コミュニティの感覚が芽生えます。
これが間主観性です。
そこからまた相互主体性が育つという、この往復があるからこそ、思いを持っている個人が一緒に生きられると思うのです。

ところが、相互主体性が育つ過程で行動を評価判断され、社会的正解に合わせて行動することを強いられると、主体的な活動の萌芽が芽生えず、育ちが阻害されていきます。
阻害から回復するためには、まず自分がどう感じているかを周りに受け止めてもらい、ありのままの自分が受容されること、そして周りの思いも受け止められるようになることだと思っています。

主体的な人が集まるとき、組織の本質的アップデートが必要

経済産業省では社会人基礎力の1つとして主体性を挙げていますが、「部下が主体性を持つメリット」などという表現もあり、組織の都合からみた主体性が欲しい、という視点になっているのが気になります。
働く人が本当に主体的になったら、組織に感じている違和感も含めて、様々な意見が出てくるはずです。
それを受け止めて、組織のアップデートに変えていこうとする覚悟がないと、主体性というものを歪んだ形で活用することになると思います。

文部科学省による学校の「主体的・対話的な深い学び」も同じで、子供がやりたいと思ったことが学校の方針と合わなかった時、学校がどのように受け止めていくのかという視点は出てきません。
学校に都合のいいように、あるいは教師の視点から見てよく考えているということを評価しているのではないかと感じます。
主体的というのは自分の内側で咀嚼すること、つまり垂直の”あいだ”から生じるものです。
そして対話的というのは、他の存在から影響を受けて、他人を自分の可能性として感じていく水平の”あいだ”から生じます。
主体的かつ対話的に共に生きるのであれば、垂直に深め、水平に広げることを行き来するのが必要だと思います。

同期・非同期を組み合わせる経験学習サイクルが学びを深める

これまでの経験から、オンラインの反転学習で比較的うまくいきやすい形は、同じ時間でコミュニケーションをとる同期コミュニケーションと、時間がずれて起こる非同期コミュニケーションを組み合わせる方法です。
非同期コミュニケーションには、LINEでメッセージ送って3時間後に返事が返ってくるというようなテキストコミュニケーションや、動画や音声をアーカイブしておいて必要な時に再生できるといったものが含まれます。
同期と非同期を組み合わせて経験学習サイクルを回すことで、時間的、距離的違いを総合的に調整しながら学びを深めることができます。

具体的には、まず非同期で自分たちがやりたいと思っていることを、オーナーシップを持って試行します。
その結果に対して、非同期で相互コメントをしていきます。
その内容を一週間に一度zoomで集まって、同期の状態で振り返ります。
そこから教訓を得て、また新たに試行をしていくという流れです。その他に自由参加のおしゃべりのような、関係性が育つインフォーマルな時間を作るというのが基本の構造です。

学びのエコシステムを考えるにあたり、今参考にしているのがサービス・ドミナント・ロジックという経済活動における論理です。
これまでは情報や製品、人、お金そのものに価値があるという考えで経済が回っていましたが、サービス・ドミナント・ロジックではこれら資源を統合してサービスととらえ、ある人の持つ想い、感情、関心を満たすようにサービスを提供することで初めて価値となる、と考えます。
この考えの元となるのは、自分と相手を切り分けるのではなく、間主観性のような世界の中で物事を捉え直していかなくてはいけないという、レンマ的な考え方です。

このモデルを、学びのエコシステムに応用したいと思っています。
今までは知識というものに希少価値があったため、とりあえず学校に行っている間しか学べないから学んでおこうというやり方でした。
でもこれからは、どうしてもやってみたいと思った時に、様々なリソースを引っ張ってきて学ぶことが可能になります。この時に大事になるのが、リフレクティブな学びです。
誰も分かっている人がいない中でも、本や動画のような抽象的なコンテンツを見つけながら、互いに問いを投げかけ体験をシェアすることで具体化・納得していくのです。
これが実現すれば、学びは教師中心、学習者中心ではなく、プロジェクト中心デザインになります。
参加型のコミュニティ活動として、メンバーの集合離散を繰り返しながら、時代の精神と共振共鳴したドリーミングが実現する場になるはずです。
これが資本主義の論理や今までの社会の常識を超えるために必要な学びのエコシステムの構図だと考えています。

10000人の合意形成を可能にするテクノロジーによる拡張:デジタルファシリテーションの可能性

このデジタル時代に、オンラインで納得感やコンセンサスをどのように得ていくかが課題になっている人も多いと思います。
これまでは夜居酒屋で飲みながら話をすることで合意できたものが、遠隔ではできなくなっています。
その時にポイントになるのは、テクノロジーを用いて場の状況を可視化する、ということです。

その場にいる人の発言や状況が可視化され、意見が変わるごとに連動して変化していくようなテクノロジーがあると、今までにない形でコンセンサスを取れるのではないかと思います。
例えばデータがリアルタイムに統合され可視化されている状況を見ながら、ファシリテーターが問いかけ、様々な人が賛成できるように条件を変えていき、お互いが合意できる条件に調整していったり、合意できない理由を掘り下げていったりするという未来です。
これまで私が取り組んできた限り、人間の力だけでは100人規模のファシリテーションで手一杯ですが、テクノロジーの力を得ることで1000人、10000人という規模での合意形成が可能になるかもしれないと感じます。
すると行政や大企業での合意形成も視野に入ってきます。

このとき、AIを単なる道具として扱うのではなく、人間の身体や認識の拡張として使うからこそ可能なコンセンサスの取り方があると思います。
今神経科学者のカール・フリストン氏が自由エネルギー原理と能動推論という2つの理論を用いてAI領域を発展させようとしています。
自由エネルギー原理は、たくさんある条件を総合的に調整していった時に、最もよいバランスを計算していく手法です。
これが利用できれば、組織や行政で簡単に調整できない物事を、AIを活用してちょうどよいところに当たりをつけ、合意形成につなげるといったことが可能になるかもしれません。
そしてこうしたAIを実現するために、カール・フリストン氏が協同しているのが、現象学的設計論という哲学的な分野を扱う人々です。
現象学的設計論とは、物を設計する時に私と物を分離するのではなく、その物が自分の身体と一体化していると捉えて物事を設計するという、レンマ的な考え方です。

重要なのは、人間はこうしたAIにもただ従うのではなく、最後はその内容を身体で感じ取りながら納得の行くコンセンサスを取るということです。
情報技術でアシストされながらも、人間がドリーミングの世界と繋がり、今起こっていることを咀嚼しながらナラティブとして立ち上げていくことによって、物事は動くと信じています。

清宮普美代代表 コメント

日々アップデートしている田原さんのお話は本当に刺激的です。

今回も、テクノロジーをつかうことで、拡張される私たちのファシリテーターとしての能力を「デジタルファシリテーション」という言葉に込めて提示してくださいました。
デジタルは、白黒切り分けるためでなく、私たちのプロセス情報 はざま(間)から物事を生成するために活用できることや、企業研修や高校魅力化に携わっていて感じる「主体的」に対する違和感をとても解像度が高く明示してくれました。

主体性に対する勘違いは、まさに、組織にとっての必要なことを自分事として租借していく力を「主体的」といっているのではないか、と思い至ります。

そして、なにより、田原さんがイメージさせてくれる、深い対話が本当に万を超える人たちとできるようになったら、私たちの社会もまた、アップグレードするでしょう。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。