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日本アクションラーニング協会情報

2018年3月1日開催 組織開発×成人発達理論講座 開講記念セミナー

主催 株式会社ラーニングデザインセンター
後援 日本アクションラーニング協会

 


「組織開発(OD)×成人発達理論講座」開講に先立ち、本講座の監修を担当した知性発達科学者の加藤洋平氏をオランダからオンラインでつなぎ、講座メイン講師を務める立石慎也氏とのインタビュー形式で成人発達理論の系譜や、「個人」の発達段階と「組織」発達段階のプロセスや関係性について、話を聞かせてもらった。

本セミナーは、おりしも数か月前に「ティール組織」(英治出版)フレデリック・ラルー、嘉村賢州、鈴木立哉(翻訳)が発表されたタイミング。

世界中でベストセラーとなった話題の新刊は、日本でも「進化型(ティール)組織」がポスト資本主義時代の新しい組織モデルとして衆目を集めていたタイミングだった。

「ホットトピック」となりつつあった「進化型(ティール)組織論」を発達科学者はどう見ているのか?さらには、現在、加藤氏が個人的に関心を持っている「芸術」や、それに関連して「言語能力」以外の人間の能力発達についても、そこに興味を持つに至った驚きの(?!)エビソードも聞くことができた。

本記事では、成人発達理論の関連情報を補足しながらセミナー内容を振返っていく。

加藤洋平氏略歴:

知性発達科学者。発達科学の最新の方法論によって、企業経営者、次世代リーダーの人財育成を支援する人財開発コンサルタント。

一橋大学商学部経営学科卒業後、デロイト・トーマツにて国際税務コンサルタントの仕事に従事。退職後、米国ジョン・エフ・ケネディ大学統合心理学科修士号を取得。元ハーバード大学教育大学院教授ロバート・キーガンとカート・フィッシャーをメンターに持ち、成人発達理論の大家オットー・ラスキー博士に師事し、発達測定の専門家としての資格を取得。オランダのフローニンゲン大学にてタレントディベロップメントとダイナミックシステム理論に関する修士号を取得。

現在、同大学に在籍し複雑性科学と発達科学を架橋する研究に従事。研究の成果をもとに人財開発コンサルタントとして大手企業の人財育成プロジェクトを支援するためにラーニングセッションや成長支援コーチングを提供。また、知性発達科学の理論をもとにあした能力測定のアセスメント開発にも従事。

■出版書籍
「なぜ部下とうまくいかないのか「自他変革の発達心理学」」 日本能率協会マネジメントセンター、2016年3月

「成人発達理論による能力の成長:ダイナミックシステム理論の実践的活用法」日本能率協会マネジメントセンター、2017年6月

■翻訳書
心の隠された領域の測定:成人以降の心の発達理論と測定手法」オットー・ラスキー著 IDM出版、2015年1月

 

そもそも、「成人発達理論」とは?

加藤氏が成人発達理論をロバート・キーガン(以下、キーガン)、オットー・ラスキー(以下、ラスキー)のもとで学ぶことになったいきさつなど

※ロバート・キーガンの発達理論について

人間は、以下のような5つの発達段階を経て意識が深化、成長していく、と考えられている。人の「意識」の成長は年齢によって左右されるわけではない。

第1段階:「具体的思考段階」
言語を獲得した子供の段階。

第2段階:「利己的段階」、「道具主義的段階」
自分の関心事項や欲求を満たすことが意識の中心であり、他者の感情や思考を理解することが難しいレベル。
時に、自分の関心や欲求を満たすために、他者を「道具」のように見なす。他者の視点を考慮することが困難といわれる。

第3段階:「他者依存的段階」「慣習的段階」
組織や集団に属し、他者に依存する形で思考、意思決定する段階。
他人、組織、社会、慣習など自分自身ではなく、自分が所属する集団等の基準によって自分の思考、行動を決める。

第4段階:「自己主導的段階」「自己著述的段階」
既存の慣習、権威に捉われることなく、これらを客観的に疑う姿勢を持ち自分なりの価値体系や意思決定基準を持ち自律的に行動する段階。

第5段階:「自己変容段階」「相互発達段階」
自己を構成してきた価値観や思考、知識などを客観視しつつ、自分の認識が生み出した対象物(個性、地位、名誉など)に同一化することなく変容していくことを自然と考える。
他者と関わりあい、相互作用していくことで自分も相手も成長していく、という感覚を持っている。

※加藤洋平著 『なぜ部下とうまくいかないのか ―「自他変革」の発達心理学 組織も人も変わることができる!』日本能率協会マネジメントセンター(2016)を元に作成

 

『成人は一生涯を通して成長、発達する』というのが成人発達理論の基本コンセプト。成人は生涯を通じて成長するが、成長領域は芸術や個別具体的なスキル(経営戦略立案、ロジック)など多岐に亘る。

『なぜキーガンの成人発達理論を学ぼうと思ったのか?』という問いについては「明確に答えることは難しい」と話す加藤氏。

会社を辞めて留学した米国の大学で、課題図書リストの一覧にあったキーガンのインタビュー記事でキーガン自身が成人の発達を研究対象とするようになったいきさつを読んだ。「彼のストーリーを文章で読んだとき、彼に対する関心が一気に高まった。」「何か感じるものがあったのだと思う。」

しかし、加藤氏がキーガンの元で直接的に学んだのは、Immunity to change(ITC)という資格取得の期間のみでその後、ラスキーに師事することになる。ラスキーも、もともとはキーガンの元で発達理論を学んでいた。

キーガンとラスキーの発達理論のコンセプトや対象領域の違いとは?

加藤氏によれば、ラスキーとキーガンの発達理論のとらえている射程は「間違いなく違う」とのこと。

キーガンの大きな功績は、人間が自己や社会をどのように認識しているのか、経験に対してどのような『意味づけ』を行っているのか、という機能の発達段階(自己認識の発達段階)を明らかにして理論化したことで、意味づけが変わる時、その人の「視野」が拡大し、物事を広く、深く捉えることができるようになっていると考えられている。

一方ラスキーは、キーガンの理論を「より洗練」させた、といってもいいもの。ラスキーは、もともとハーバードにいた発達論者であるマイケル・バサチーズの理論を取り入れ、『思考』や『意識』そのものではなく『認知』の世界に着目し、認知・思考パターンを理論化した。

ラスキーとキーガンの理論の最も特徴的な差異は、キーガンやバサチーズが垂直的な人間の心の成長(いわゆる、人間としての「器」の成長)だけでなく、「精神やパーソナリティといった側面にも着目したことであり、人間を無意識に抑圧しているものや個性といったパーソナリティにも着目した理論や能力測定モデルを提唱した」点とのこと。

カート・フィッシャー(以下、フィッシャー)のダイナミック・スキル理論について

続いて、加藤氏著の『成人発達理論による能力の成長:ダイナミックシステム理論の実践的活用法』(日本能率協会マネジメントセンター)でも扱われているフィッシャーの「ダイナミック・スキル理論」の特徴や、キーガンとフィッシャー理論の学術的な違いなどについて話してもらった。

フィッシャーのダイナミック・スキル理論は、具体的なスキルを対象として、これらのスキル能力の発達プロセスを数理モデルやコンピューターシミュレーションによってモデル化し、人間の複雑な思考や行動パターンを分析している。

「キーガンは自己認識力と他者認識力の成長に着目し、フィッシャーは私たちが社会生活を営む中で発揮する諸々のスキルの成長に着目している」(加藤洋平、発達理論の学び舎、2015年7月24日付“人間としての器の成長と実務能力の成長“より)といえる。

そして、フィッシャーの定義している「スキル」は「具体的な文脈における具体的な課題に対して発揮される、思考・感覚・感情から生み出されるもの」であり、「フィッシャーの発達思想の根幹を成すものは「人間の活動は組織的かつ変動的なものであり、活動を通じて発揮されるパフォーマンスレベルは文脈に応じて動的に変化する」」というものである(加藤洋平、発達理論の学び舎、2014年5月5日付“カート・フィッシャーのダイナミック・スキル理論が持つ発達に対する根幹思想“より)

「スキル」というカタカナを見たとき、私たちはそれを、何か表面的・固定的な技術のように捉えてしまいがちだが、フィッシャーは、スキルを肯定的、静的に見るのではなく、私たち人間が置かれた文脈の中で発揮する認知や行動と切っても切れない、いわば「動的」なものと捉えている点が特徴といえる。そのような解釈を裏付ける表現として、フィッシャーは「スキルとは存在である」(加藤洋平氏 発達理論の学び舎,2017年10月10日付“カート・フィッシャーが定義する「スキル」の定義“より)とも言っている。

私たち人間は、多様な能力を持っているが、どのような環境に置かれているか、周囲にいる人間との相互作用・関係性によって、そこで生み出される思考やひいては、発揮できる能力・スキルは変わってくる。そういった意味で、フィッシャーの述べる「「ダイナミック・スキル」は「動的に変化する自己」だと捉えた方がいいように思う」と加藤氏は述べている(加藤洋平氏 発達理論の学び舎,2017年10月10日付“カート・フィッシャーが定義する「スキル」の定義“より)。

加藤氏がフィッシャー理論に出会ったのは、マサチューセッツ州にある人間発達の研究機関レクティカという研究機関にいた時だった。

レクティカは、フィッシャーの理論を使って組織、企業、学校組織にアセスメントとトレーニングプログラムを提供していた。これをきっかけに加藤氏は「フィッシャーの理論に注目するようになった」。

意識の深層的な機能レベルを、1カ月間で発達段階3から4にすることは非常に難しい。「キーガンが取り扱っている発達領域は非常にデリケート」であり、人間の器の発達には長い年月がかかると考えられている。

加藤氏によると、フィッシャーは、人の成長、スキル発達においては現段階の発達段階を把握したうえで、小さなアクションを積み重ねることが非常に大切だということを説いており、発達を急がせることの危険性はフィッシャー理論においても同様に認識されているが、「発達が起きる場をつくり個人個人が小さな発達を積み重ねていく」ことをファシリテートしていくことが鍵になるとのこと。

“能力”“スキル”の定義は?

ラスキーとフィッシャーの捉え方の違いについて

ラスキーは、能力を「コンピテンシー」、「キャパシティー」、「ケーパビリティ」という3層でとらえている。ラスキーは能力を「have(保持・所有している)」という観点で捉える。一方、フィッシャーは、能力を「Being(存在)」と捉える。

「私たちは能力を所持しているのではなく、能力は環境に埋め込まれており、私たちの存在がまさしくそこにある」と考えているのがフィッシャーであり、「Having」 と「Being」という捉え方の違いは大きい。

フィッシャーが言うところの「Being」としてのスキルをどのように測定・評価するか

「スキル」を「存在」や動的な心の構造捉えながら、そのような絶え間なく変化する動的なスキルを実証的に計測・評価し紐解いているのがフィッシャーである。「実証的に」という点がフィッシャーの大きな功績といえる。

フィッシャーは、企業組織が社員の能力開発体制を構築する際、文脈を規定したうえで評価できるアセスメントモデルや、各種文脈に基づいて能力を発揮できる機会や教育プログラムを構築してきた。

加藤氏によれば、「私たちの能力が長方形のような領域であったとき、キーガンやラスキーは垂直で能力様式を説明する。フィッシャーは、縦ではなく横軸。縦軸を図るために普遍的な共通な物差しを考えたというのがフィッシャー」であるとのこと。

加藤氏の説明をもう少し補足すると、発達測定を行う場合、フィッシャーの発達測定手法とキーガンやラスキーの手法は特徴が異なる。詳細な説明はここでは割愛するが、簡単に言うと、キーガンやラスキーの測定手法は、ある「特定の領域」に的を絞り、その特定領域内での発達を計測する、というもの。

一方フィッシャーの場合、特定領域を対象とするのではなく、あらゆるスキル領域の発達を計測することができるという。

フィッシャーが提唱するダイナミック・スキル理論においては「どんなスキルもそれが発達する際に共通の発達パターンを持っており、ダイナミック・スキル理論の測定手法は、そうした共通のパターンを測る物差し備えているからです。」(加藤洋平氏 発達理論の学び舎,2014年5月21日付“発達測定の共通の物差し:領域特定的な測定手法と領域一般的な測定手法の違い”

「(スキルの)固有の成長プロセスを明らかにしてトレーニングプログラムを設計できるようにしたのがフィッシャーのすごいところでそれを具現化しているのがレクティカ」と述べる加藤氏。

「組織開発」と発達理論について

組織の「発達段階」をいかに捉えるか?

続いて、発達理論を組織開発の手法、プロセスに理論適用する可能性などについてテーマを移した。

加藤氏いわく、組織開発の文脈に発達理論の概念を適用することは「非常に難しい。」

組織も個人も発達においてたどる構造、プロセスは同じだが、注意すべきは「システム科学において、全体は部分の単純総和ではない」という点。

つまり、例えばキーガンの発達理論における発達段階「4」の人が多くを占める組織が、発達段階「4」の意識で実際に動くか、というとそこには疑問が残る。これを実証的に調査した研究があるわけではないが、加藤氏の感覚は、「個人の発達理論を組織の発達理論に援用すればいいかというとそうでもないと思う。」とのこと。

組織の発達段階を測定しようとする場合、組織を構成する個人の発達段階を測定し、それを単純合算ないしは単純平均した結果が当該組織の発達段階を適切に反映しているものではない、ということである。

組織の発達プロセスについて

期間など

通常、個人が発達段階を上げるには15、20年というまとまった期間が必要となるといわれている。組織の場合はさらに数十年といった単位が求められる。加藤氏も「組織や社会全体の発達には長大な時間がかかると思う。」と述べつつ、「個人が集まった相互作用のところに、組織開発の妙があると思う。」と語った。

組織の意識段階の支援は、複雑なプロセスを要し、かつ緩やかなプロセスを描くため期間は長くなることが一般的に想定される。一方で、「組織の構成員の人がどう相互作用するかによって、もしかしたら6か月後に組織として大きな変容があるとも考えられる。」とのこと。

これは、いわゆる「Emergence(創発)」であり、「(組織内)メンバーがダイナミックインタラクションして想定していなかったプロセスにジャンプする、短期間のうちにそれが起こりうる可能性も残っている。」という。

これは、先に述べた組織は「個の総和」にはならない、という見解に立脚しているものである。

今話題の「ティール組織」について

知性発達科学者から見たティール理論は?

書籍『ティール組織』(英治出版)フレデリック・ラルー、嘉村賢州、鈴木立哉(翻訳)がもとにしている理論は、「スパイラル・ダイナミクス理論*」であり、ドン・ベックが提唱した理論だが、もとは社会学者のクレアグレーブス、ジーン・ゲブサーの発達理論をもとにつくられた。

加藤氏によれば、スパイラル・ダイナミクス理論の信頼性と妥当性は低いとのこと。レクティカがさまざまな発達理論とそれらに付随しているアセスメントの質を調査したところ、スパイラル・ダイナミクス理論は「かなり簡易的な測定手法」をとっていることがわかった。

スパイラル・ダイナミクス理論のアセスメントとは、簡易的なチェックボックスで調査を行っている。本来重要視されるべきは、「チェックボックスで測定されえないものを測定する」という発想、つまり、言語や行動を生み出す「心の構造」の測定を試みることだが、その視点は現状カバーされていないとのこと。

加藤氏の最近の研究動向等について

加藤氏は現在、オランダのフローニンゲン大学において、システム科学、ネットワーク科学、実証的教育学という3つの学問領域をまたぎながら、個人や組織の発達を研究しているが、個人的関心の対象は、「芸術と人間発達」にあるとのこと。

自然言語だけでなく、言語で表象されないいわば「芸術的感性」の構成、発達プロセスに興味を持ち、具体的には「作曲家がどのように音楽を理解し、思想的なプロセスを持つのか。美意識というものがどういうプロセスで発達するのか、といったことにも目を向けている。」

質疑応答で、芸術、特に音楽活動に関心を持ったいきさつについて問われた際、これまで、言語構造の分析を通じて、人の意識や問題解決能力などを解明していこうとしてきた。しかし、「自然言語にフォーカスしすぎていたのではないか、とはたと気づいた。」とのこと。身体言語、音楽言語、さらには「美意識」といった領域の発達プロセスに目を向けるようなった。

そのきっかけともなる印象的なエピソードも紹介された。

2017年3月、加藤氏は、ザルツブルグで国際非線形ダイナミクス学会に参加した。その帰路に就く途中、横断歩道で信号待ちをして、青に変わって一歩足を踏み出した時、「自分は作曲家であることにきづいた」とのこと。

まさしくそれは、啓示に近いものだったに違いない。

加藤氏自身はそれまで音楽経験もなかったが、現在進行形で「作曲家である」というという気づきを得たことは、本人にとっても驚きの体験だったとのこと。この出来事を機に、研究の傍らで作曲や芸術研究にも取り組んでいる。

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