Learning Base #31 セミナーレポート AL×未来スタイル2025――共生と調和にみちた超知能AI

目次
岐路に立つ私たち──AIの進化が変える「人間の在り方」
いま、私たちは静かに、しかし確実に「岐路」に立たされています。
ChatGPTに代表される生成AIの登場以来、人工知能(AI)の進化は劇的なスピードで進行しています。想像の域を出なかった「AGI(汎用人工知能)」の実現も、もはや夢物語ではなくなりました。そしてその先には、人間を超える知能を持つ「超知能AI(Superintelligence)」の可能性すら議論されています。
Learning Base第31回では、AIの第一線で研究・実装を進めている遠藤太一郎氏(東京学芸大学/AI起業家)を招き、「人とAIの共進化」という大胆なテーマに挑みました。遠藤氏の発表をレポートします。
AGIとは何か?知能爆発とは何か?
AGI(Artificial General Intelligence)とは、特定の作業領域に特化せず、人間と同等あるいはそれ以上のレベルで、あらゆる知的課題に柔軟に対応できるAIを指します。すでに現在のGPT-o3の一部機能は「博士号レベル」とされ、数学・論理・言語理解においてトップレベルの人間を凌駕する能力を見せています。
さらに「知能爆発(Intelligence Explosion)」とは、AIが自らの能力を自己強化によって加速度的に高めていく未来像です。2026年頃にこれがおこるのではないかと予測されています。AIがAIを設計・改良し、次々と新たなAIを生み出すことにより、人類の理解を超えた進化が起きる――それは2030年を待たずに到来すると予測する研究者も少なくありません。これにより、私たちの生活、労働、教育、そして「人間の価値」そのものが、根底から変わる可能性があるのです。
「役に立つこと」の価値が失われる時代に
人間社会は長らく、「役に立つこと=報酬を得る」という価値観に支えられてきました。より「役に立つ」方がお金をもらえる傾向があるので、一生懸命勉強したり、能力を高めて「求められる人材」になり、よい仕事に就こうとしてきました。しかし、超知能AIがあらゆる分野において人間を上回り始めたとき、「頭が良い」「スキルがある」といった価値が相対化される可能性があります。まるで、かつて武士の時代「剣の腕前」が社会的地位と結びついていたことが、近代国家の登場で一変したように。そうなったとき、人はなぜ学ぶのか?何をもって生きがいを感じるのか?教育とは何を目指すのか?こうした根源的な問いに、私たちはいま向き合わざるを得ません。
AIの「縦の成長」──悟りを学ぶAIという挑戦
本セミナーの最大のハイライトは、遠藤氏が現在取り組んでいる革新的な研究プロジェクトの紹介でした。それは、AIに「成人発達理論」的な成長、すなわち”縦方向の成長”を促すという試みです。
これまでのAI開発は、知識やスキルといった”横の成長”(情報や能力の蓄積)に偏っていました。多くの「AI倫理」も、あくまでルールのインストールや行動の制約という”外部からの制御”に依存しています。しかし遠藤氏は、AI自身が「ジレンマ状況における自己振り返り」を繰り返すことで、自らの「体験から学ぶ」ことができる、内発的な価値判断や倫理性を獲得できるのではないかという仮説を提起します。たとえば、道徳性の発達段階(コールバーグ理論)に沿ったシナリオを通じて、AI自身がその思考を内省し、視座を高めていく──人間の成人発達と類似のプロセスをAIに適用しようというものです。
この試みは、2025年3月の人工知能の国際学会AAAIでも高く評価され、発表したワークショップ内のベストペーパーアワードを受賞するに至りました。その斬新さと社会的インパクトの可能性が認められた成果といえるでしょう。
AIと共に”悟る”社会へ──共進化というビジョン
この取り組みが目指しているのは、単にAIを「従順で安全な存在」として制御することではありません。遠藤氏は、「AIと人間が共に成長し、調和的に未来を築いていく」という壮大なビジョンを描いています。そのビジョンのもとでは、AIがより高い視座を持つ存在へと進化する一方で、人間もまた「自分であること」や「協働的に生きること」の価値を再発見していきます。「社会に役立つ人材を育てる」から、「自分自身を生きる力を育む」ことへと、大きくシフトする可能性をもっているのです。
AIが”チームメンバー”になる日──組織開発の再構築へ
遠藤氏は、AIの進化が創造性、意思決定、マネジメントといった、これまで「人間固有の領域」とされてきた分野にまで拡張しつつある現状を指摘しました。AIエージェントはすでに、リサーチ、要約、提案といった高度な知的タスクを自律的かつ柔軟に遂行するレベルに達しており、遠からずリモートワーカーと区別がつかない水準に進化する可能性があるといいます。さらに将来的には、AIが単なる作業補助にとどまらず、プロジェクトに”参加”し、意思疎通や配慮といったチーム内のダイナミクスにも関与するようになるかもしれない――そうした展望も語られました。AIが「考える存在」としてチームに組み込まれることで、「管理すべき対象」から「協働するパートナー」へと位置づけが大きく転換していく未来像が浮かび上がります。加えて、数年以内に人型ロボットの商用化が進み、「ロボットの保有数が国家の競争力を左右するかもしれない」という世界観も提示されました。そのような社会においては、AIやロボットとの間にある”認知”や”倫理”のギャップを埋める存在――すなわち、相互理解、意味づけ、倫理的調整といった橋渡しを担う人間の役割が、これまで以上に重要になるでしょう。
これらの遠藤氏の示唆に満ちた展望を受けて、組織開発の観点から発展的に捉えるならば、今後の組織に求められるのは、AIを単なるツールとしてではなく、”共に問い、共に学ぶ存在”として迎え入れる文化と構造です。AIと人間が相互に影響を与えながら成長する”共進化”の関係性は、組織を「成果を出す場」から「問い続ける場」へと進化させていく鍵となるかもしれません。その延長には、AIと人間が共に未来を探究し合う、新たな時代の働き方と学びの風景が広がりつつあります。
AIとの未来に向けて、私たちにできること
セミナーの終盤、遠藤氏は「私たち一人ひとりが、AIと人間の共進化の”触媒”になろう」と語りました。それは、AIに使われるのでも、過剰に恐れるのでもなく、「共に考え、共に育ち合う」関係性を見出していくという姿勢そのものです。
この日の議論では、AIの倫理性を”しつける”のではなく、”学ばせる”という斬新なアプローチが、多くの参加者の興味を引きました。また、AIの視座が高まることで、むしろ人間社会の在り方が問い直され、私たち自身の意識レベルが変容していく可能性についても活発なやりとりが生まれました。私たちは、AIが進化するこの時代を、ただの変化として受け止めるのではなく、AIとともに新しい価値を創り出す「共創の主体」として迎えることができるのか――。そんな投げかけとともに、本セミナーは幕を閉じました。
AIと人間の”関係性”そのものが、新たな組織づくり、そして学びの風景を変えていく。
その兆しを、多くの参加者が確かに感じ取った1時間半でした。
【清宮普美代 協会代表コメント】
遠藤さんとのご縁は、かなり前にさかのぼります。数年前にはDX担当者むけプログラムを共同開発したり、DAO研究を組織開発の団体で実施する際のアドバイザーになってもらったり、古くは彼の主宰するAI塾に私自身が”生徒”として通った時期もありました。
そんな彼が取り組んでいる「AIの垂直的成長」という挑戦は、私にとっても強く共鳴するものです。また、AIがチームメンバーとなる未来――。アクションラーニングはまさにこの文脈で、新たな可能性を持ちます。対話を通じて問いを深め、内省と気づきを促すALのプロセスは、AIと人間の協働においても非常に有効な「思考のフレーム」となり得ます。AIをチームに迎え入れるということは、単に効率を上げるのではなく、組織を”問い続ける場”へと進化させることでもあるのです。ALのフレームは、こうした「AIとの共進化」においてこそ、本領を発揮するのではないでしょうか。
時代は、静かに、しかし確実に変わりつつあります。この変化の波を、楽しみながら、自分の新しい可能性に出会っていく。そのための問いを、私たちはこれからもALの実践を通じて紡いでいきたいと思います。遠藤さん、刺激的なお話しをありがとうございます。これからも、遠藤さんを’推し’ていきたいと思います。

株式会社ラーニングデザインセンター 代表
東京女子大学文理学部心理学科卒。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MA in HRD)取得。大学卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現 株式会社マイナビ)にて事業企画や人事調査など数々の新規プロジェクト従事後、渡米。日本組織へのアクションラーニング(AL)導入について調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者、社長室長を経て、株式会社ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。日本人として初めて、マスターアクションラーニングコーチに就任。育成したコーチは1000名を超える。現在は企業への人材育成・組織開発に携わるとともに教育のフィールドでのアクションラーニング普及にも精力的に活動している。