【アドバンス講座レポート】 「リフレクションの科学:アクションラーニングを通じたリーダーシップスキルの深化」
はじめに
リーダーシップや組織開発の分野において、いま改めて注目されている「リフレクション(振り返り・内省)」の力。本講座では、リフレクションの理論的背景や科学的根拠、そしてその効果的な活用方法に至るまでを、理論と実践を交えて深く探究しました。本レポートでは、講座の主な内トピックを整理してご紹介します。
開催概要
開催日 | 2025年3月11日(火)19:00〜21:00 |
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場所 | オンライン開催(Zoom) |
目的
本講座の目的は、「リフレクション」について、その科学的基盤と実践的意義を深く理解することです。参加者は、リーダーや組織開発の専門家として、日々の実践をどのように学びに変えるかを探究し、自身の経験を振り返りながら新たな気づきや意味づけを生み出す力を高めます。さらに、リフレクションが個人やチーム、組織全体の学習・成長にどのように寄与するかについて、理論と実践の両面から掘り下げることで、実務への応用力の強化を目指しました。
リフレクションの定義と理論的背景
リフレクションとは、自らの経験を振り返り、そこから意味を見出し、今後の行動や思考に活かしていくプロセスを指します。この概念は教育や哲学の分野で古くから重視されてきましたが、現在ではリーダーシップ開発、専門職教育、組織学習などの分野でも重要なキーワードとなっています。
代表的な理論家には、経験学習モデルを提唱したデービッド・コルブ、実践知に着目したドナルド・ショーン、メタ認知の視点から内省を論じたジョン・フラベル、学習する組織の基盤となる「ダブルループ学習」を提唱したクリス・アージリス、変容的学習理論を展開したジャック・メジローなどがいます。
これらの理論は相互補完的な関係にあり、多角的にリフレクションを理解するための土台を提供しています。本講座では、こうした理論のエッセンスを紹介しながら、参加者が自身の実践と結びつけて理解を深めることを目指しました。
リフレクションの科学的基盤
リフレクションが学習や成長に及ぼす影響については、さまざまな分野で科学的な検証が進められています。例えば、リフレクションを定期的に実践することで、自己効力感の向上、意思決定能力の強化、問題解決能力の発展が促されることが報告されています。
また、脳科学や認知心理学の観点では、リフレクションが前頭前野を活性化させ、記憶の再構築や新たな意味づけを可能にすることが示されています。これにより、経験が単なる出来事で終わらず、深い学習へと昇華されるのです。
本講座では、これらの科学的知見を踏まえ、「なぜ今、リーダーや専門職にとってリフレクションが不可欠なのか」を理論的に理解し、日常業務への応用を促すきっかけとなりました。
リフレクションを促進する4つの要因とトリガーとしての質問
リフレクションは自然発生的に起きるわけではなく、意図的に促す仕組みが必要です。
講座では、リフレクションを促進する4つの要因として以下が紹介されました。
- 心理的安全性
- 内発的動機
- 支援的な関わり
- 問いの存在(トリガー)
中でも「問い」は、リフレクションを喚起する重要な起点となります。アクションラーニングでは、コーチや他のメンバーからの問いかけが深い気づきを生み出す鍵となります。たとえば、「その判断に至った背景には、どんな価値観が影響していますか?」といった質問は、行動の背後にある思考パターンや感情に気づかせ、学習を深める手助けになります。
アクションラーニングとリフレクション
アクションラーニングは、実際の課題に取り組みながら学びを得る方法論であり、その中心にはリフレクションのプロセスが位置づけられています。行動(アクション)と学習(ラーニング)を結びつける“橋渡し”となるのがリフレクションです。
本講座の参加者は、日頃のアクションラーニングセッションにおいて、実際の問いかけを通じて自らの思考や行動を省察・内省する体験をされているプロフェッショナルな方々であるため、良い質問がリフレクションを通じて得られる洞察や行動の修正に繋がり、それがより深い学習を促進し、最終的にはリーダーシップスタイルの変容にも発展することを実感されていました。リフレクションは単なる振り返りにとどまらず、行動変容と成長を加速させる鍵であると実感できる内容でした。
学習体験の質とID(インストラクショナルデザイン)
インストラクショナルデザイン(ID)は、学習のプロセスを設計・最適化するための理論体系であり、本講座では「学習体験の質」を高める手段として位置づけられました。
良質な学習体験には、以下のようなリフレクションを伴う6つのレベルがあるとされます。
- 1. 無意識的な経験
- 2. 意識化
- 3. 振り返り
- 4. 意味づけ
- 5. 概念化
- 6. 行動への統合
この段階を意識して設計することで、受講者が単に知識を得るだけでなく、自らの価値観や行動を変える深い学びへと導くことが可能になります。講座では、これらの観点からリフレクションを取り入れた学習設計の重要性が強調され、企業研修やリーダー育成プログラムへの応用も視野に入れた内容が展開されました。
引用文:
Parrish, P., & Wilson, B. G. (2008). A design and research framework for learning experience. Proc. AECT 2008.
参加者の声(一部抜粋)
・「これまで感覚的にやっていた振り返りに、理論と科学的な裏付けが得られたことで、自信を持ってチームにも伝えられるようになった」
・「問いの力を再認識しました。コーチとして、もっと深い質問ができるよう自分自身もリフレクションしていきたい」
・「アクションラーニングの経験が、自分の中で改めて腑に落ちました。学びの質が変わった気がします」
・「IDの視点から学びを設計するという発想が新鮮でした。社内研修にも取り入れてみたいです」
おわりに
今回のアドバンス講座では、「リフレクション」という普遍的かつ奥深いテーマを、多角的な視点から探究しました。理論と実践を行き来するなかで、参加者一人ひとりが自らの経験を再構成し、学びの意味を深めることができたのではないでしょうか。リフレクションは、一度学べば完了するものではなく、継続的に育てていく“スキル”であり“態度”でもあります。今後もアクションラーニングや組織開発の現場で、この学びを生かし、より深い問いとリフレクションの循環を生み出していくことが期待されます。

株式会社ラーニングデザインセンター 代表
東京女子大学文理学部心理学科卒。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MA in HRD)取得。大学卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現 株式会社マイナビ)にて事業企画や人事調査など数々の新規プロジェクト従事後、渡米。日本組織へのアクションラーニング(AL)導入について調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者、社長室長を経て、株式会社ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。日本人として初めて、マスターアクションラーニングコーチに就任。育成したコーチは1000名を超える。現在は企業への人材育成・組織開発に携わるとともに教育のフィールドでのアクションラーニング普及にも精力的に活動している。