Learning Base 新シリーズ「AL×未来スタイル」がスタート!
第1弾はあそと株式会社代表取締役の佐藤光司さんをお迎えし、「遊ぶように仕事をする~あそと株式会社の挑戦」をテーマに開催しました!
ゲスト
あそと株式会社 代表取締役
1996年⽣まれ
法政⼤学経営学部卒
2019年(株)リクルートに⼊社後、⼈材領域にて法⼈営業と組織活性企画職を経験
「Will・やりたいことがわからない」といったZ〜ミレニアム世代のキャリアの悩みを解決する、
約400名 の内省と対話コミュニティを作成・運営
2023年独⽴、あそと株式会社を⽴ち上げ
「あそと株式会社」について
あそと株式会社は2023年に立ち上げました。「あそと」という言葉は「遊び」と「仕事」を統合させた造語です。仕事の形態(会社業務や副業等)に関わらず、夢中(フロー)で自律的に働くことを「あそと」と名付けました。あそとでは金銭の報酬や承認のためではなく、行為そのものが楽しく報酬となる状態、そしてそれが結果的に喜ばれている状態を指します。好きなものこそ上手なれで、スキルアップや成果につながりやすいのが特徴です。
「あそと」のメリットは個人、職場、社会に対してあります。
個人では仕事をする行為そのものが楽しく、その結果スキルアップにつながります。自分の心で感じ、頭で考え発言できるため主体性の向上も期待できます。職場では主体的で自律的な人材が増えて生産性や創造性が向上し、社会では人材の流動性が高まり、よい職場によい人材が集まりやすくなります。そして働く人の幸せや喜びも考慮した仕組みや文化が浸透していくと思い、あそとを運営しています。
あそとが生まれた背景
あそとが生まれた背景にある原体験として大きく3つあります。1つは私の幼少期、身近な人が働きすぎてうつ病になってしまったことです。これは幼い私にとってショッキングな出来事でした。2つ目は学生時代に1ヶ月間ベトナムに滞在した際、ベトナムで働く人たちが東京で働く人より楽しそうだったことです。後にデータで見ても日本より幸福度が高く、改めて日本の働き方が絶対的ではないと感じました。3つ目は会社員になってから「働きがいを高める」などの理念のもとで働く人でも、純粋な自分の喜びを基点に働いている人が少ないと感じました。これらの原体験から、日本で喜んで働く人が少ないことに強烈な違和感を覚え、「誰のために生きて、誰のために働くんだろう?」と思いました。
私たちはどう働いていきたいのでしょうか。令和の時代では会社のために働いたら、安泰や報酬や幸せを獲得できる時代は終わったと私は思っています。終身雇用も終わり個人の時代になってきており、海外ではAIの進化により大量のレイオフが行われています。また今の20.30代は物質的な欲求や名誉欲よりも、自分にとって意味のあることや夢中になれること、そしてありのままの自分で繋がれる良好な人間関係で幸せを感じやすいという風に価値観も変わっています。
このような現代では、戦後モノがない状況から物質的に豊かな社会を作り上げた先人たちに感謝しつつ、今までの当たり前を疑い、自分たちで理想の働き方を創ることが必要だと思いました。そして本などを読み漁る中でヒントとして見つけたのが「遊び」で、遊びと仕事を統合した「あそと」の概念を考えました。
一般的に遊びとは仕事とは逆の概念として語られることも多いですが、調べれば調べるほど人にとって本質的な行為だとわかりました。遊びは自分自身の喜びを起点に活動することであり、遊びによって人間は文化や精神性・創造性が育まれてきた過去もあります(詳しくはヨハン・ホイジンカ著『ホモ・ルーデンス』やロジェ・カイヨワ著『遊びと人間』をご参照ください)。
「あそと」は自分も楽しみながら自律的に働く状態です。なので決していい加減に手を抜くということではありません。また楽しそうに働く人の周りも楽しそうに働く人が増えていくので、会社の中で「あそと」することで本当の意味で「働く喜び」が広がっていきます。
なので会社のために働きやすい「仕事」を、自分”も”喜ばせる「あそと」にしていくことが、今私が取り組んでいることです。
あそとの広まり方
そこでまずは「自分はどうしたいかを純粋に考え行動しやすい」環境に所属するところから始める必要があると考えています。人は環境に依存する生き物なので、そのような人たちが常にいる環境に身をおいて時間を過ごす。そうすることで自然と自身も変わっていくことができます。
また自分はどうしたいのかを自分の頭で考え判断できる社員は、自分の仕事に意味を見出すことができるので、活力が湧、いて自分の業務に関係のある外の世界に出ていくこともできます。業務外で活動する方々は、遊ぶように仕事をしやすいと私は考えています。
そして自律的に働く会社員は、働く会社を選べるようになります。そこを個人がイキイキ働くための箱としての会社という形を、私は目指しています。
代表的な今のキャリアフレームとして「WIll, Can, Must」が挙げられるかと思います。これはとても強力なフレームワークで、上手く使いこなすことができれば会社を自分の人生をより良くするために活用できます。私も前職ではよく使っていて、ハマる人にはよくハマりました。しかし「やりたいことが分からない」方であったり、Must(やらなければならないこと)が多すぎてWill(やりたいこと)とCan(できること)が埋没してしまう方も多かったりします。
そこで新しく提案しているフレームワークが「Value, Character, Inspiration」です。これは「今の充実」を積み重ねた川下り型の自己変革キャリアと定義づけています。
①Value
Value(価値観)はWillと対比できます。出世を目指したり、将来の目標のために今の仕事を修行と捉えられる方はWillという概念を使いやすかったりするのですが、変化が激しい時代ではそのような自分の外側にあるモチベーションを持ちにくかったりもします。なので「今自分がどうありたいか」という価値観を目の前の仕事と紐付けていこうというのがValueです。
②Character
CharacterはCanと対比できます。基本的に会社では自分ができることや強いことを示す立ち振る舞いが自然と求められることが多く、Canは自分の強みを可視化するフレームです。しかしCharacterはスキルや行動だけではなく、在り方や影響力、雰囲気、そして強みだけでなく弱みも含めた「その人そのもの」を受け入れて活かすものです。
③Inspiration
InspirationはMustと対比できます。従来の株式会社は計画や規則性のように、製造業を起点に発展してきた背景もあり「決められたことをきっちりやる」ことが求められてきました。また職場の中では「直感」や「肌感覚」は、根拠がないものとして退けられてきました。しかしクランボルツの計画的偶発性理論でも言われているように、成功したキャリアの多くは「なんとなく」と直感的に選ばれた結果です。AIも台頭している現代では、人間に求められるのは規則的な仕事よりも創造性であるため、Inspirationをフレームワークとして導入しました。
加えて自分の内面ではなく外側の認識を広げるための考えも紹介します。それは1社に所属し1社のみで働くのではなく、複数の組織に所属し、自分の働き方を分散させるというものです。人は環境に影響されやすい生き物で、1社のみで働いていると社会=その会社になってしまいやすいです。なので会社員以外の働き方の選択肢を提供していきたいと思っています。
いきなり起業や副業はハードルが高いと思うので、私はDAO(自律分散型組織)を推奨しています。DAOは端的にいうと、大学のサークルや友達同士で仕事を受発注し合ってフラットな関係で組織を作っていく、そして特定の権力者がいない「横のつながり」を重視した組織です。
あそとは株式会社とDAOをセットにした組織で運営しています。株式会社は取締役1名と社員1名ですが、DAOの方は試験的にDiscordに参加した70名をメンバーとしています。この関係を例えるなら、社会人が思い切り遊びと仕事の良いとこどり、あそとをできる公園が「あそとDAO」で、その公園の管理会社が「あそと株式会社」と言えるのではないでしょうか。
この株式会社とDAOをセットにすることで、会社とDAOを往復し遊ぶように仕事をする社会人を増やすことを目指しています。生産性や結果が求められる会社と、自由に活動ができるDAOとのそれぞれのいいとこ取りができるといいなと思っています。特にDAOでは会社では話せないような本音を、利害関係のない他者に話すことで純粋なやりたいことや主体性の根源を発見でき、仕事の意味づけを行えるようなイベントも行っています。
あそとの具体例
あそとの実践例として、まずはあそとDAO(公園)を紹介します。あそとDAOは23年の8月からスタートし、年会費3万円のコミュニティで現在70名が参加しています。
あそとDAOは対話の場や「Value, Character, Inspiration」のアセスメントツールを使い、自分の価値観や内面、やりたいことを探求する「自分を知る」場です。企業内でのキャリア面談などでは、会社や上司にとって都合のいいことを言いやすくなる構造がありますが、あそとDAOでは自分と全く利害関係のない他者と対話することで、本音ベースでの自己探求ができるのがメリットとなっています。
また利害関係はないものの、遊ぶように仕事をしたいと同じ気持ちを持った人たちと関わることで認識も関係性も広がります。コミュニティはDiscordを使って対話やイベント・プロジェクトを企画・実施しています。例えばAIの専門家を呼んで有料の講演会を企画したり、本の著者を呼んだ半年に及ぶ読書会のプロジェクトを会社員の方が企画と実施をしたり、地域×フリーランスのサービスを運営している方とのイベントを開きフリーランスの働き方を学んだり、福島県で農業体験をしたりもしました。
これらの活動はアウトプットとして珍しかったり派手なことではないですが、誰かから求められたのではなく「好きだから」、「やってみたいから」という思いで始まったというプロセスに意味があると思っています。ニーズもやることも明確でない状況だと失敗する可能性もあり心理的ハードルが高かったり、またタスクが明確でなかったりします。その中でもタスクを分解して工夫して企画することは、会社での仕事でも生きるのではないかと思っています。その結果として、自分のキャリア軸が見つかって転職したり個人事業主デビューしたり、今の会社で成果を出し始めるという兆しが見えてきています。
これからも小さく始めてあそとを大きく広げていければと思っています。
Q&A
講演中もzoomのチャット機能やQ&Aタイムでも質問がたくさん出て、大いに盛り上がりました。一部を抜粋して紹介します。
Q. あそとは会社としてDAOを管理しているということですが、ビジネスモデルとしてはどうまわしているんですか?
A.収入としてはまずはコミュニティへの参加費で、このコミュニティは年会費3万円の入会金をいただいています。あとは「Value, Character, Inspiration」のフレームワークを活用した研修も行っています。このように今はBtoCモデルですがこれからは企業向けの導入も考えていて、特に越境研修のようなものがたくさん企画されているので、その一環としても「あそと」をご活用いただきたいと思っています。
またコミュニティ作りって実はいろんな企業や個人でやられている方も多いんですが、結局企業って人と人だったりしてそこでの経済的な工数対効果が思ったように上がらなかったりもします。なのでコミュニティ運営をあそとにアウトソースいただくというのも考えているところです。
Q. なんで自分の会社で働くのか?を意味付けできる企業は強いですか?
A. そうですね。現代では働き方が変わっていて、転職や起業が当たり前の選択肢になっている時代なので、いろんな企業の転職支援をする中では、従業員が「なぜ私はこの会社で働くのか?」を意味付けしやすい企業は強いと思います。またやっぱり、その意味づけが強い会社員は自律的に働くことができると思います。
Q. 自由にやっていいですよと言われると、案外何していいかわからない人は「あそと」にはいないですか?
A. これは意外と多いです。子どもの頃は自由に何でもしていいと言われると好き勝手できるんですが、大人になればなるほどこれが難しくて、これはしちゃいけないんじゃないかという無意識な思い込みで何をしていいか分からないということはよく起きます。
ただここはあそとの設計の甘さとも思うので、この「自由による不自由」のようなものは解消できればいいなと思っています。
Q. あそとの中では学生ってどういう位置付けになりますか?
A. 私は学生の皆さんには全員と言っていいくらいDAOに入っていただきたいと思っています。というのも新卒で入る会社はその人にかなり影響を与えますが、会社に入る前に面白い大人や会社に入る以外の選択肢を見ておくことで相対評価ができるからです。なので就活段階やもっと早い段階でDAOに入っていただきたいと思っていますし、ゆくゆくは学生のインターンも導入したいと思っています。
清宮代表コメント
佐藤さんの「あそと」という概念は、これからの時代の働き方を根本から変える可能性を秘めていると感じました。自分の喜びや楽しみを起点に自律的に働くという発想は、まさに働き方の大転換。
アクションラーニングの本質とも通じる部分がありますね。主体的に関わり、自ら考え、仲間と対話しながら楽しみながら行動する。それによって、自分自身も周囲も組織も変わっていく。この姿勢は、「あそと」の考え方と非常に親和性が高いと感じます。
ふと思ったのは、ベーシックインカムの議論とも関連するのではないかということです。もし生活の基盤が保障されるなら、人々は自分の好きなことや得意なことに自由に打ち込めるようになる。そうなれば、仕事をするということは、ある意味で「貴族の楽しみ」のようなものになるかもしれません。
佐藤さんたちと一緒に、そんな未来に向けて何か面白いことができないか。私たちアクションラーニングのコミュニティとしても、ぜひ協働していきたいと思います。一人ひとりが内発的な動機に基づいて生き生きと働ける世の中を、共に創っていければと願っています。佐藤さん、示唆に富むお話をありがとうございました。
日本アクションラーニング協会 代表理事
大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中
株式会社ラーニングデザインセンター
東京女子大学文理学部心理学科卒
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ(MALC)