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日本アクションラーニング協会情報

Learning Base #33 セミナーレポート AL×未来スタイル2025「育成不全 ― VUCA時代の育成革命:コンセプチュアルスキルとアクションラーニングで未来を拓く」

(2025年10月7日/オンライン開催)

神谷俊(かみや しゅん)
株式会社エスノグラファー代表取締役

法政大学大学院経営組織研究科修士課程修了(MBA)。2016年にエスノグラファーを創業し、リーダーシップ開発やマネジメント機能の再設計を軸に、組織変革の現場に深く入り込む調査・コンサルティングを展開している。フィールドワークによる現場観察と、学術的エビデンスに基づく理論を融合させた独自の手法で、企業が抱える複雑な課題に切り込むスタイルに定評がある。著書に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み(日本経済新聞出版)』『育成不全 ~どんな部下でも「デキる人」に変わる指導法(技術評論社)』がある。

「育成不全」の時代に、何を取り戻すのか

10月7日、Learning Base #33がオンラインで開催されました。今回のテーマは「育成不全 ― VUCA時代の育成革命:コンセプチュアルスキルとアクションラーニングで未来を拓く」。
ゲストスピーカーは、株式会社エスノグラファー代表取締役であり、『遊ばせる技術』『育成不全』の著者である神谷俊(かみや しゅん)さんです。モデレーターは、日本アクションラーニング協会代表の清宮普美代が務めました。
清宮は冒頭、「神谷さんは、理論と実践を往還しながら“人の成長”を科学する方。今回も刺激的な時間になると思います」と語り、和やかな雰囲気でセミナーが始まりました。

OJTの限界と“イレギュラー時代”の育成課題

神谷さんはまず、「OJTが前提としていた“再現性”が崩れ始めている」と指摘しました。
VUCAの時代、そして“Wicked Problem(厄介な問題)”が日常化する中、従来型の経験学習では人が育ちにくくなっているといいます。
「DX推進やESG経営、外国人雇用など、企業は同時多発的に“イレギュラー”な課題に直面しています。こうした変化に対応できる人材をどう育てるかが、今の最大のテーマです」。
その結果、現場では“挑戦する人(オフェンシブ)”と“守りに入る人(ディフェンシブ)”の二極化が進んでいます。
「“自分には無理です”という自己防衛(エゴ・ディフェンス)が働くと、成長機会を逃し、評価も下がり、さらに自信を失うという悪循環に陥ります。一方で、挑戦に向き合う人は経験を糧に成長していきます」。
とはいえ、イレギュラーな状況は人を育てる“最高の教材”にもなり得ます。
「ストレスがあるからこそ人は成長する。イレギュラーを“追い風”に変える育成をデザインできれば、組織の生産性は飛躍的に高まります」と神谷さんは語りました。

“強い心”より“考える力”を鍛える

神谷さんが強調したのは、「育成の本質は“心の強さ”ではなく“思考の習慣”にある」という点です。
ディフェンシブな人は、着眼点を絞ることができず、多様で膨大な情報を同時に処理しようとする。そのために、脳は認知リソースをあっという間に使い果たし、混乱や不安から “防御モード”に入ってしまいます。

一方でオフェンシブな人は、目的を設定し、現状とのギャップを整理し、ゴールへ向けて思考を構造化していく。
「考える順序と焦点を整理できる人ほど、不安に飲み込まれないのです」。
その差を象徴するエピソードとして、神谷さんは宇宙飛行士や特殊部隊の危機対応チームの訓練を事例に解説しました。
「彼らは、恐怖や混乱の中でも“シチュエーショナル・アウェアネス(状況認識)”を維持します。心が強いからではなく、“考え続ける力”を徹底的に訓練しているのです」。

鍵となる「コンセプチュアルスキル」

神谷さんが提示する育成のコア概念が「コンセプチュアルスキル(Conceptual Skill)」です。
これは“鳥の目と虫の目”を往還しながら、目的や本質を踏まえて最適な判断をする力。かつては管理職の必須能力とされていましたが、いまや現場社員にも欠かせないスキルとなっています。
「論理的思考とコンセプチュアルスキルの違いは、“視座の高さ”にあります。
目の前のタスクを効率的に進めるために合理的に考える。これは個人的な視座で完結するロジカルシンキングです。一方で、「この仕事が組織や社会にどんな価値を生むのか」より高い視座で考えることこそ、コンセプチュアルな思考といえます」。
その具体的な訓練法として「概念化トレーニング」を紹介しました。
「たとえば“子どもが喜ぶ夕食”という目的を意識しながら、材料や調理方法を工夫してカレーを作るように、個別の行動を目的に結びつけて考える。この“目的とプロセスの往復”が概念化のプロセスです」。

視座を高める「他者との関わり」

コンセプチュアルスキルを育てるうえで最も効果的なのは、「他者との関わり」だと神谷さんはいいます。
「人は他者の目線を内面化することで、自分の視座を拡張できます。異なる視点を取り入れながら物事を見られるようになることを“統合的複雑性”と呼びます」。
そのための実践として提案されたのが「顧客分析ワーク」。
「顧客にとっての“顧客”まで想定して観察する。半年間継続すれば、確実に思考が深まります」。

“誰もが育つ”を前提に

神谷さんは最後に、「人材の成長を固定的な観点で一方的に決めつけるようなバイアスを超えるべきだ」と訴えました。
「できる人は最初からできた人ではありません。どんな人でも育てられるという前提に立つことが、人材育成の再現性を高めます」。
そして次の言葉で締めくくりました。
「あの人は何を意識しているのか、どのような視点で考えているのか、どう感じているのか。
育成とは、人の内面に目を向け続ける営みである。」

参加者の声

Learning Baseは少人数で開催され、ゲストとの距離が近い双方向の対話が生まれました。
参加者からは次のような感想が寄せられました。

  • 「自分自身の関心領域に非常に近いテーマで、神谷さんの問題意識や背景を直接聞けたことがとても良かったです。質問もしやすく、距離の近さを感じました。」
  • 「コンセプチュアルスキルが予期しない状況にも対応するために必要であるというお話に納得しました。これまで“良い仕事をするためのスキル”と思っていましたが、より本質的な意味を理解できました。」
  • 「対話不全が起きている現場を多く見ています。今回のお話で、その包括的な構造と原因を整理して理解することができました。」
  • 「若手で優秀な人ほどコンセプチュアルスキルが高いと感じます。非常に明快なお話で、理論と現場感が結びつきました。」
  • 「オフェンシブ/ディフェンシブの整理がとてもわかりやすかったです。一方で、同僚同士の関わりの難しさに直面しており、次の打ち手を考えたいと思いました。」
  • 「書籍を読んでいませんでしたが、二極化の進行や概念化のプロセスの説明に強く惹かれました。ぜひ本を読みたいと思います。」
  • 「若手社員の思考力(まさにコンセプチュアルスキル)を育てる経験デザインを担当しています。現場マネジャーに負荷をかけずに第3者として支援できる方法を考えたいです。」
  • 「お話の進め方や説明の仕方が非常に参考になりました。授業でも“目的・目標・手段を区別する”ことを教えていますが、今回の内容を踏まえてもう一度話してみたいと思います。」
  • 「“対話をしたいけれど、どうすればいいかわからない”という人が多い現場で、この話が背中を押してくれました。日常会話から対話を始める大切さを伝えたいです。」
  • 「ディフェンシブな人との関わり方を変えてみようという気持ちになりました。考えるときの焦点を一緒に探る対話を実践してみます。」
  • 「大学生との産学連携の中で、無気力な学生への関わり方に悩んでいましたが、多くのヒントをいただきました。」

清宮普美代代表 コメント

今回のセミナーは、アクションラーニング(AL)の本質と深く共鳴する時間となりました。
神谷さんが提唱するコンセプチュアルスキルとは、まさに“問いによって視座を高める力”であり、ALが大切にしてきた「メタ認知」「省察」「他者の視点への共感」といった学習プロセスと見事に呼応しています。
人が育つということは、スキルを教え込むことではなく、共に問い、共に考える“思考の習慣”を取り戻すことに他なりません。ALの現場でも、参加者がセッションを通して自然に視座を上げていく姿を多く目にします。
問いかけや省察を通じて、他者の視点を獲得し、より高次の視点へと移行しながら、さらに自らの視点へと還っていく。この往還のプロセスそのものが、コンセプチュアルスキルの実践的トレーニングとなっていることだと思い至り、「目からうろこ」でした。
そして、この「視点を行き来しながら考え続ける力」こそ、ALが育む最も実践的で持続的な成長の源泉です。神谷さんの語る“育成を取り戻す”という思想は、まさにALが長年培ってきた「人の学びを人間らしく再生する営み」と深く通じ合っていると感じました。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会
代表理事 株式会社ラーニングデザインセンター代表

大学卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。
東京女子大学文理学部心理学科卒、ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。マスターアクションラーニングコーチ(MALC)

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