問題解決とチーム学習の組織開発手法であるアクションラーニングを活用した、経営幹部養成や管理職研修プログラムを提供しています。

03-4400-9867
受付時間:平日9:30-17:30
NEWS

日本アクションラーニング協会情報

【Learning Base #34 開催レポート】AI時代の人間性回復:変容とウェルビーイングが切り拓く次世代の学び

AI時代の人間性回復:変容とウェルビーイングが切り拓く次世代の学び

山下 悠一(やました ゆういち)
株式会社ヒューマンポテンシャルラボ 代表取締役CEO

早稲田大学卒業後、建築学科を経てアクセンチュアにて12年・シニアマネージャーとして組織開発に従事。2015年に独立。農業、ヨガ、ネイティブアメリカンの智慧など、東洋と西洋の叡智を身体的に探求し、「変容(トランスフォーマティブ)」を軸とした教育プログラムを開発。シリコンバレー発の「TransTech」カンファレンスへの参加を機に、意識変容とテクノロジーの交点を追求し続けている。現在は、大手上場企業から経営者まで幅広く、身体知を活用した変容プログラムを提供。「第三の道(パフォーマンス×ウェルビーイングの統合)」を提唱する。

Learning Base 2026は、「AI時代の学びと人間性の再発見」をテーマに全4回のシリーズとして展開されています。その幕開けとなる第1回(通算#34)は、2026年4月14日(火)夜、約10名の参加者を迎えてオンラインで開催されました。ゲストは、株式会社ヒューマンポテンシャルラボ代表取締役CEOの山下悠一氏。「AI時代の人間性回復 ─ 変容とウェルビーイングが切り拓く次世代の学び ─」と題した今回のセッションは、独自の身体実践と哲学的問いに富んだ内容で、参加者を深い問いの空間へと招き入れました。

ファシリテーターを務めたのは、日本アクションラーニング協会代表・清宮普美代。山下氏とは7〜8年来の知り合いであり、かつて2人でシリコンバレーの「TransTech」カンファレンスに参加したという縁もあります。「偉大なる進化をなさっている山下さんが、今この時代に何を考えているかを聞きたかった」という清宮の言葉通り、対話はプレゼンテーションと即興的な質疑応答が有機的に絡み合うスタイルで進みました。

「ヒッピーとヒューマンポテンシャル」─ 変革の旗手の歩み

山下氏のプレゼンテーションは、まず自身のストーリーから始まりました。1978年生まれの山下氏は、「マズローの5段階欲求を28歳まで着実にのぼった末、ミッドエイジクライシスに陥った」と語ります。アクセンチュアのシニアマネージャーとして輝かしい実績を重ねる一方で、「成果を出しても、どんどん恐れが増していくだけで幸せになれない」という感覚に直面。2015年、その葛藤をつづったブログが10万アクセスを超えてバズり、社会に問題提起を投げかけることになります。

その後、山下氏は農業、ヨガ、パーマカルチャー、ネイティブアメリカンの儀式、エコビレッジ巡りなど、いわば「ヒッピーへの弟子入り」とも呼べる探求の旅に出ます。ここで印象的なのが、ヒッピーを単なるカウンターカルチャーとしてではなく、「社会の先行指標としてのイノベーター」と捉えていた点です。「ホールフーズの創業者も、シェアリングエコノミーも、マインドフルネスも、クラフト文化も、もともとはヒッピーが始めたこと。彼らは感覚センサーが鋭く、10年後にビジネスになるものを先取りしてきた」。この洞察が、ヒューマンポテンシャルラボ設立の思想的基盤になっていきます。

「第三の道」─ パフォーマンスとウェルビーイングの統合

セッションの核心となったのが、山下氏が提唱する「第三の道」というフレームワークです。

第一の道は「パフォーマンス至上主義」。知識を頭に詰め込み、効率的にアウトプットを出す完全機械論的な人間観で、これまでの人材開発の主流でした。第二の道は「ウェルビーイング」。人間の心身・関係性・精神性を重視する方向ですが、行き過ぎると資本主義の中で疎外されたり、逆にパフォーマンスが落ちる側面もある。働きやすさを求めた結果、働きがいが反比例して低下するというデータも紹介されました。

「どちらも答えじゃない。私はこれを〈フルポテンシャル〉と呼んでいます」と山下氏は言います。第三の道とは、「すごい人(第一の道)」でも「いい人(第二の道)」でもなく、「本来の人」へと向かう道。1960年代のヒューマンポテンシャル・ムーブメント(人間性回復運動)の正当な後継として、今この時代に再び問われているテーマだと氏は位置づけます。

この概念を象徴する例として語られたのが、アーチェリーと弓道の違いです。アーチェリーは的を狙って矢を放つ西洋的・第一の道的スポーツ。弓道では、的は存在するものの、「的に当てようとすること」の真逆をやる。呼吸と所作を整え、自分の在り方を磨き続ける。その結果、矢を放ったら「的に当たってしまった」という境地に至る。この比喩は、参加者の間で最も共鳴を呼んだ部分の一つでした。

時間の周期性と「自然なリズムで生きる」こと

山下氏のもうひとつの重要な問いは、「成長」の前提にある「時間」の概念の刷新です。「右肩上がりに成長しなければならないと、私たちは直線的な時間の幻想に支配されている」と氏は指摘します。

一日は地球の自転、一年は太陽の周りの公転、一ヶ月は月のリズム——つまり時間とは、天体エネルギーと私たちの身体感覚が連動したものです。春分・夏至・秋分・冬至というサイクル、日の出と日没、季節ごとに変わる昼の長さ……この周期性は一日の中にも、一年にも、人生にもフラクタルに繰り返されています。

江戸時代の和時計がこの周期に合わせて伸縮する時間単位を採用していたことも紹介され、「デジタル時計に慣れた私たちは、身体が感じているリズムと乖離した時間感覚の中で生きている」という指摘は、参加者にとってある種の納得感をひきおこしました。

身体知とAI時代の「人間ならではのセンサー」

セッション後半では、参加者との対話の中でAIと身体性の関係が浮かび上がりました。「AIは瞬時に答えを出してしまうから、自分を整えるプロセスがない」という参加者の問いに対して、山下氏はこう答えました。「問いそのものは、自分のビーイング(存在の在り方)から生まれる。AIが答えを出す前に、どんな問いを立てるかが人間側に問われている」。

また、AIと身体の根本的な違いについてこう語ります。「人間の五感が外界から受け取っている情報量は膨大で、そのレセプター(受容体)は身体そのもの。ネイティブアメリカン的なレベルで身体感覚を研ぎ澄ませると、AIとは比較にならないほどの情報を受け取ることができる。この時代だからこそ、身体からアプローチするしかない」。実際に、本部長選抜研修でアイスバスや古武術を取り入れたプログラムを実施したところ、社内でも屈指の満足度を記録。3ヶ月後の行動変容トラッキングでも、意思決定力や事業立ち上げへの影響が確認されたといいます。

セッション中には参加者全員で「季節の呼吸ワーク」を体験しました。4秒吸って・4秒止める・4秒吐いて・4秒止めるというボックスブリージングを、春夏秋冬のサイクルに重ねながら円を描くように行うものです。「現代人は不足感を埋めようと”吸うこと”ばかりを意識しがちだが、もっと手放してもいきていける。吐くことと断捨離はすごく近い」という山下氏の言葉は、呼吸という日常の行為を通じて”手放すこと”の本質を問い直す、小さくも深い体験となりました。

2025〜2026年、なぜ今が「変革の分岐点」なのか

「なぜ今この時代が大転換期なのか」という問いに対して、山下氏は複数の「周期性」の観点から解説しました。1600年周期で西洋と東洋の文明が入れ替わるサイクル、冥王星の水瓶座移行にまつわる248年周期(1776年のアメリカ独立と重なる)、基軸通貨の220年周期、そして日本の80年周期(1945年の戦後から80年)——こうした複数の大きなサイクルが、まさに2025〜2026年のタイミングで重なっているというのです。

「これは単にAIが普及したという技術的な変化ではなく、文明的なパラダイムシフトが起きている。そしてそれは、私たち日本人が持ってきた東洋的な価値観、弓道的な在り方、身体知の哲学が、世界の中心として問い直される可能性を示している」。終盤に交わされたこの言葉が、参加者の胸に静かに響きました。

参加者との対話から生まれた問い

「大学生が、考え方そのものをAIにまず聞いている。問いを立てることまで手放しやすくなっている」という現場報告や、「第一の道をある程度突き進んだ人でないと変容には至れないのか」という鋭い問いも飛び出しました。それに対して山下氏は、「どの季節にいるかによって、必要なアプローチは違う。春の人に秋のアドバイスをするのはドリームキラーになる」と語り、成長のサイクルにおける「今どこにいるか」という問いの重要性を示しました。

コーチングや組織開発に携わる参加者からは、「マネージャー研修で問われる『問いの立て方』は、知識ではなく肌感覚の話。今日の視点はそのアプローチに使えそうだ」という感想も寄せられました。参加者それぞれの現場での実践と、山下氏の哲学が交差する、密度の高い時間となりました。

【清宮普美代 協会代表コメント】

山下さんと初めてお会いしたのは、もうかれこれ10年ほど前のことです。あの頃から「何か面白いことをやっている人だ」とは感じていましたが、2018年のトランステックカンファレンスでご一緒して以来、その進化の速さと深さには毎回驚かされます。今日もそうでした。

「第三の道」というフレームワークは、頭で理解するよりも、身体で感じるような言葉でした。弓道の例が特に印象に残っています。私たちはいつの間にか、組織開発も人材育成も「的に当てにいく」感覚でやっていないだろうか。アクションラーニングが大切にしている「問い」の力も、実は的に当てるためではなく、自分の在り方を整えるためにある——そんなことをふと思いました。

AIが「考える」ことを代替し始めたこの時代に、身体知と周期性という軸で人間を問い直す視点は、私にとって非常に示唆的でした。私自身も「今、どの季節にいるか」を問い直しながら、2026年という節目の年を歩んでいきたいと思います。今年で協会は20年。そのタイミングにこのテーマで始まった2026年のLearning Baseに、あらためて手応えを感じています。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表
株式会社ラーニングデザインセンター 代表
東京女子大学文理学部心理学科卒。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MA in HRD)取得。大学卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現 株式会社マイナビ)にて事業企画や人事調査など数々の新規プロジェクト従事後、渡米。日本組織へのアクションラーニング(AL)導入について調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者、社長室長を経て、株式会社ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。日本人として初めて、マスターアクションラーニングコーチに就任。育成したコーチは1000名を超える。現在は企業への人材育成・組織開発に携わるとともに教育のフィールドでのアクションラーニング普及にも精力的に活動している。

メルマガ登録