【Learning Base #37 開催レポート】AIと人間が共進化する「Learning 5.0」― 知を「所有」する時代から、AIを「マネジメント」する時代へ ―

AIと人間が共進化する「Learning 5.0」:
知を「所有」する時代から、AIを「マネジメント」する時代へ
2026年7月28日、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の長谷川教授を講師に迎え、オンラインセミナー「Learning Base #37」が開催されました。Society 5.0への移行が進む中、教育や学習のあり方はどう変わるべきなのか。「AIと人間が共進化する Learning 5.0」と題された講演の内容を詳しくレポートします。
1. 学習のパラダイムシフト:Learning 1.0から5.0へ
長谷川教授は、人類の歴史を学習のあり方の変遷として5つの段階に整理しました。これは単なる技術の進化ではなく、人間がどのように「知」を獲得し、活用してきたかの変容を意味しています。

- Learning 1.0(狩猟社会):経験を通じた学び 言葉が未発達な時代、学習の核は身体を通じた試行錯誤や暗黙知の獲得でした。模倣や観察が主要な手段でした。
- Learning 2.0(農耕社会):対話による学び 言葉の発達により、共同体の中で知恵を口伝で共有する時代です。相互の承認や解釈が重要になりました。
- Learning 3.0(工業社会):読書による学び 印刷技術の普及により、知識が体系化されました。学校教育のベースとなり、論理的思考や抽象化が重視されました。
- Learning 4.0(情報社会):検索による学び インターネットの普及により、必要な情報に即座にアクセスできるようになりました。情報の選択と統合のスキルが求められました。
- Learning 5.0(スマート社会):AIとの共進化 そして現在、AIがパートナーとなる時代です。AIと人間が協働し、互いに高め合う「共進化」が学習の新たな到達点となります。
2. 「知っている」から「できる」へ:認知的スキルの重要性
AI時代の学習において、長谷川教授は「知識(Knowledge)」と「スキル(Skill)」の分離を強調します。
- 知識(何を知っているか): 体系的な記憶や情報の蓄積。これらはAIが最も得意とする分野であり、人間の優位性は低下します。
- 認知的スキル(何ができるか): 状況判断、意思決定、学び方そのもの(学び方を学ぶ)。これらは「知恵」に近い領域であり、今後の学習の主戦場となります。
教授は、AIに頼ることで自律性が低下する「認知的怠惰」のリスクを指摘しつつも、AIを認知的スキルを磨くための「足場かけ(サポート)」として活用する可能性を提示しました。
3. 学習の鍵を握る「メタ認知」とAIの役割
「Learning 5.0」において最も重要な要素が「メタ認知」です。これは「自分の認知(考え方や学び方)を客観的に捉えること」を指します。
メタ認知の3つのプロセス
- プランニング: 自分の現状と目標のギャップを認識し、学習計画を立てる。
- モニタリング: 学習の過程で「うまくいっているか」を常に監視する。
- リフレクション(内省): 終わった後に振り返り、次の活動に活かせる知識として意味づけを行う。
AIは、学習者の行動履歴からその状態を推定し、適切なタイミングで「気づき」を与えるフィードバックを行うことで、これらのメタ認知活動を強力に支援します。

4. 人間とAIの学習モデルの決定的な違い
レポートの中で注目すべきは、AI(生成AI)と人間の学習方法の対比です。
- AI(帰納法): 大量のデータから統計的に「次にくる確率が高い言葉」を予測することで学習します。膨大な事例から一般的な法則を導き出すのが得意です。
- 人間(帰納法+演繹法): 経験から学ぶだけでなく、「ルール(文法や論理)」を学び、それを具体的な事例に応用する「演繹的学習」が可能です。少ない情報から本質を捉える力は、依然として人間に分があります。
この違いを理解し、「AIに何を任せ、人間が何を引き受けるか」をデザインすることが「共進化」の第一歩となります。
5. 「人類総マネジメント時代」の到来
AIが「有能な部下」として機能するようになると、人間に求められる役割は「ワーカー」から「マネージャー」へと変化します。教授はこれを「人類総マネジメント時代」と呼びました。
- 問いを立てる力: AIに何をさせるか、目的を明確にする課題定義力。
- 検証力と責任: AIの出力(ハルシネーションのリスクを含む)を評価し、最終的な結果に責任を持つこと。
- 倫理的判断: AIには欠けている、社会的・倫理的な価値判断を下すこと。
興味深いことに、マネジメント経験の豊富なシニア世代こそが、これらのスキルを活かしてAIを使いこなす高いポテンシャルを持っていると指摘されました。
6. 共進化の未来像:一体の認知単位へ
これからのAIは、単なるツールではなく、学習者のコンテキストを理解した「鏡」のような存在になります。
教授が目指すのは、人間とAIが分かちがたく結びつき、外部に拡張された脳を持つかのように共に発達する「ハイブリッドメタ認知支援」の世界です。AIが学習者の苦手な部分をサポートし(足場かけ)、学習者が成長するにつれてそのサポートを外していく(フェーディング)ことで、究極的には人間の自律性と能力を最大化させることが「Learning 5.0」の真髄です。
結びに代えて:なぜ今、学ぶのか
AIが何でも答えてくれる時代に、なぜ学ぶ必要があるのか。長谷川教授は、それは「創造性」や「自己実現」のためであると結論づけました。AIを使いこなしつつ、人間ならではの感情や経験、倫理的判断を磨き続けること。それがAI時代のウェルビーイングに繋がります。
日本アクションラーニング協会 代表 清宮普美代コメント
長谷川先生のお話を伺いながら、私たちの認知や思考がAIによって外部化され、あたかも自分と同じ思考をするAIが鏡のように返してくれることで、こちらがさらに進化していく――そんな共進化のイメージが、とてもクリアになりました。生物学的な脳だけでなく「外にも脳がある」ような感覚。これは、これからの学習の姿を考えるうえで大きなヒントになると感じています。
同時に、これからの汎用能力のいちばんのキーはメタ認知力だという確信も深まりました。その力を生み出す源泉は「質問」だということも。。。。AIに任せられる時代は、裏を返せば「ずっと決め続ける」時代です。確認し、判断し、責任を引き受ける。その質を支えるのがメタ認知であり、そして気づきというものは、強制的に与えて生まれるものではなく、他者がいる環境の中でこそ生まれるものだと、あらためて思います。だからこそ、問いによって前提を揺さぶり、チームで学ぶアクションラーニングの場は、Learning 5.0の時代にいっそう重要になる。私たちALコーチにとっても、学習を再定義する絶好のきっかけをいただいたシリーズ最終回でした。
示唆と刺激に満ちた時間をつくってくださった長谷川忍先生、そして今回の企画とモデレーションを担ってくださった福永壽美子さんに、心より感謝申し上げます。

日本アクションラーニング協会 代表
株式会社ラーニングデザインセンター 代表
講師プロフィール:長谷川 教授

北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)情報基盤センター長
学習情報学、AIを活用した学習支援システムの研究が専門。AIと人間が共に成長する新しい教育・研究プラットフォームの構築に尽力している。

