創造基礎力の鍛え方 海渡千佳氏《後編》
Learning Base 2023「大人の教養シリーズ」がスタート!
第二弾のゲストスピーカーは、「未来を作る人を増やす」というミッションを掲げる株式会社フロークリエイション代表の海渡千佳さんです。
目次
ゲストプロフィール
株式会社フロークリエイション 代表取締役
MIRAI TOKYO Founder(Co-Learning Space & 多国籍シェアハウス)
ライフワーク倶楽部主宰
イノベーション & ラーニング ディレクター
2019年国連・国際女性デー会議 日本代表
監修著書:『ナガサキの郵便配達』
前編ではイノベーション(集合知)を生むための土壌と、そのプロセスについて解説しました。その中でもポイントは、「何になるかわからないけど面白そうで不思議な雑や種」を集め、それらを組み合わせることで、アイデアが生まれるということです。
そして「人」「本」「旅」から学ぶ、身近な実践手法として「探検読書」と「Feel°Walk」を紹介しました。後編ではFeel°Walkが学びを生む仕掛けと、「創造基礎力」の源泉について解説していきます。
Feel°Walkの進め方と効果
実はこのFeel°Walkにはルールがあります。
- あらかじめ目的を決めず、ガイドブックを持たずにただ歩くことからスタートします。例えば通勤の行き帰りでもできます。
- 次に検索を絶対にしてはいけません。不思議なものがあっても、何度か行ってみて検索をじっと我慢します。検索するのは、自力で推論してからです。答えをすぐに求めてはいけません。
- 気になることがあったら、そっちへ行ってみること。どんどん行ってみる。出発前に何となく行きたいエリアを想定しても、正反対の方向に気になるほうがあったらそちらに進みます。
- 写真は撮ってOKです。道端の看板の説明は見てよく、むしろどんどん写真に収めます。
- いつもと違う道、行動をとってみること。実は自分の家の近所でも、違う道を歩けば発見があるものです。そして「引っかかるもの」を求めて、同じ場所へ何度か出かけてみるのが良いでしょう。
- そして自分なりのテーマ、仮説を作ります。1人で行くことはもちろんおすすめしたいのですが、誰かと一緒に行くと新しい発見もあります。
Feel°Walkを実践していくと、これまで何十回、何百回も通ってきた道でも、どんどん知らなかったことを発見します。旅って外国や遠くの街に行かなくてもできるんです。近所を散歩するだけでも、「この街のことを私は知っている」という気持ちを捨てて、全く街のことを知らない体で、頭を空っぽにして歩くことで「雑」や「種」はいくらでも発見できます。近所の散歩でも「旅から学ぶ」ことができるのです。
このFeel°Walkを、親が小さい子どもと行うと、親の方が夢中になってしまうことがあります。子どもは大人の見えない視点で、色んな「雑」「種」を発見してくるからです。
例えば道路に「G」と書かれていることがあります。私たちはそのマークを認識しても、どんな意味を持つかを深く考えることはありませんが、子どもたちは「このGは何なんだろう?」と、どんどん興味を持ってのめり込んでいくんです。
私たちは普段、このFeel°Walkのプロセスと、逆を歩んでしまいます。例えば修学旅行をするとき、行く場所について下調べをしてしまいますよね。また例えばタクシーに乗ってしまえば、目的地から目的地へ、何も考えずとも連れて行かれてしまいます。
本当の意味での修学旅行を考えると、そのような下調べをせずに観光地に行き、そこで見聞きしたものを持ち帰ってから調べることなのではないかと、仲間内で話したりします。しかしそれでは誘致できないんですよね(笑)。
学者たちの「探検」
「雑」を集めるとき、実は偶然から入ってくるものがとても良いのです。なぜならそこで推論する力が試されるからです。誰かにすぐ教わってしまうと、深く考えることなく終わってしまいます。逆に言えば、「これは何だろう?」「もしかしたら〇〇かもしれない」と考えることが楽しいのは、まだ脳が衰えていない証拠だそうです。
こんな話をしていたときに、KJ法を提唱した川喜田二郎の『ひろばの創造』(中公新書,1977)という本と出会いました。その本の中で、以下のように言っています。
- 360度から全方位的に
- 気になったことは飛び石づたい
- ハプニングを逸せずに
- なんだか気になることを
- 定性的に取材せよ
当時から大学での学びが、学生の思考する力を削ぎ落とす方向に進んでいることに、川喜田先生が危機感を覚えていることが伝わります。
探検、観察、仮説、発想、推論、実験、観察、検証
これを繰り返すのが、「雑」を集めるのにも役立つし、自分の思考力を高めることにも繋がると書かれています。
つまりFeel°Walkのように、まずは探検に出かける。色んなものを先入観なしで観察し、「これは〇〇か?」と発想し推論してみる。そして実験のようなことをしてみて、また観察する。これを繰り返すことが大切だということです。
日本の学者が世界に尊敬されていた時代の学者で、梅貞忠夫、今西錦司がいます。彼らはオリジナルの理論を、すごいペースでどんどん発表していたのですが、彼らは実は京大山岳部の探検家でもあったのです。今西錦司を隊長とし、暇さえあればカロリン諸島や内モンゴル、ネパールを探検したそうで、大量の観察メモを残しています。
机に向かって研究をしていたのではなく、外に出て探検から1次情報と発想を得ていたのではないかと思います。彼らのような巨匠たちの足元にも及びませんが、「知図」「Feel°Walk」のような活動は、もしかしたら彼らの活動に近いのかもしれません。
最後に
「創造基礎力」とは、Playfulに学び、働くための大切な力です。膨大な情報が短期間でどんどん生み出される時代においては、「結論を急ぎ過ぎず、一歩引いて考え、何が本当に必要か見極め、まず答える必要のある問いを選ぶ」ことがとても重要です。
日常的に個々が集めた多様な情報をコラボレーションやコミュニケーションによってさらに集め、組み合わせて、創造力を発揮し、より望ましい方向性を導き出すために、クリティカルシンキングは大きな役割を果たすのです。 情報を鵜呑みにするのではなく、まず日常的に集めた一次情報をベースに、さまざまなディスカッション、リサーチ、状況判断を踏まえた熟考の末に「自分の頭を使って自分自身の考えを導きだす思考能力」は、暗記メインの勉強では得ることのできない、生きていくうえで最も大 切な力となるでしょう。
この力は、大人であっても心掛け次第で、これからも十分に持ち得るものです。
日常生活の中で、
- 自分の足でスマホのマップを使わずに歩く
- 周囲を観察する
- 気になることは書き留める、写真を撮る(すぐに検索しない)
- 集めた1次情報を知図にしてみる
- 誰かに自分の考えを話してみる
- 調べた2次情報と組み合わせて「自分の案をつくってみる」
- さらに出てきた疑問を持って1〜5を繰り返す →思考がひろがり、深まる
自分の固まった思考のプロセスを解きほぐすことで、見えてくる世界を楽しんでください。
清宮普美代代表 コメント
「真っ白いキャンパスに何をかくのか?」
お題があって、それを具現化するためにパフォーマンスを発揮するのではなく、自分の源からの希求を形にしていくことが、いまの時代私たちに求められています。学校教育をかえて夢中になって「探求出来る子」を増やす。それが、国の、社会の活力をあたえ、ヒトがかかえる課題を解決することにつながると多くの人が考えています。ただ、その<創造性の源>を生み出す、開発するアプローチはなかなかできません。今回の海渡さんの提示してくれた方策は、具体的で、かつ本質的なもののような気がします。システムが、マシンが学ぶAI時代にあって、ヒトが学ぶことの、本質がここにあります。五感をつかって、好奇心を育みましょう。フィールドから刺激をうけながら、自分をどんどん拡張していくことを楽しめる世界(社会)が作れたらいいな、と思います。知のフィールドは日常の中に!
日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。