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LearningBaseレポート 「アクションラーニング×ミネルバ式リーダーシップ──適応型リーダーシップ:複雑な時代にもとめられるミネルバ式思考習慣」


Learning Base第30回セミナーでは、株式会社ラーナーズラーナー代表の黒川公晴氏を迎え、「適応型リーダーシップ」をテーマに、ミネルバ大学との共同プログラムやリーダーシップ開発の取り組みについて伺いました。本レポートでは、黒川氏が語る「思考習慣」の重要性と、未来のリーダーに求められる能力について紹介します。

黒川 公晴(くろかわ きみはる)
合同会社こっから 代表社員
一般社団法人Brain Active with代表理事 
米国ミネルバ認定講師
ペンシルバニア大学組織開発学修士外務省にて外交官としてワシントンDC、イスラエル/パレスチナなどで活躍。2018年に独立後、リーダーシップ育成や組織・人材開発を国内外の企業で支援。2021年から米国ミネルバと事業提携し、日本企業向けリーダーシップ開発プログラムを展開。著書『ミネルバ式最先端リーダーシップ』で注目を集める。

「修羅場の外交」から“学びの指揮者”へ

元外交官という異色の経歴を持つ黒川氏。外務省で10年以上勤務し、アメリカやイスラエル・パレスチナでの外交経験を積んだ後、2016年に組織開発・人材開発をサポートする企業を仲間と設立。さらに2023年には、米国ミネルバとの共同事業を専門とする組織をスピンアウトしました。
「人と組織」に対する関心が黒川氏のキャリアの原点にあります。旧態依然とした組織では「人が壊れたら交換できる」という考え方が根強い中、「これから40年過ごす人間が成長していくことを組織がどうサポートすべきか」という問題意識が転身の動機だったと語ります。

ハーバードより難関!?革新的教育機関ミネルバとは

ミネルバ大学は2012年に設立された革新的な教育機関で、わずか10年ほどで「世界で最もイノベーティブな大学」としてランキングでTOPに選ばれるなど注目を集めています。
ミネルバの特徴は:

  • キャンパスを持たず、完全オンラインの授業
  • 学生は世界7カ国を移動しながら学ぶグローバル実践体験
  • 学費はアイビーリーグの約1/3に抑え、経済的負荷なく優秀層へアクセス
  • 学生の7〜8割が留学生という多様性

黒川氏によれば、ミネルバの最も特筆すべき点は「リーダーシップ」という曖昧な概念を体系的に教えているところにあります。
ミネルバ大学では以下の4つのスキルセット(4C)を重視し、これらを約100の「思考習慣」に分解して明確に定義しています:

  • Critical Thinking(批判的思考)
  • Creativity(創造性)
  • Communication(コミュニケーション)
  • Collaboration(コラボレーション)

そして、そのミネルバ大学の設立母体であるミネルバ社が日本の企業向けに展開しているのが「適応型リーダーシップ」といわれる、現代に生きる我々に必要なリーダーシップなのです。

複雑な世界に対応する「適応型リーダーシップ」

黒川氏は、適応型リーダーシップが必要とされる背景として、現代社会の複雑性を3つに整理して説明しました:

  • 1. 動的複雑性:因果関係が絡み合っている(一つの製品が売れる背景には多様な要因がある)
  • 2. 社会的複雑性:多様な人が多様な思考で行動する(この傾向は今後さらに強まる)
  • 3. 生成的複雑性:未来予測が不可能(現在の世界情勢を見れば実感できる)

この複雑性に対応するためには「適応」が不可欠です。適応とは「環境変化に適するよう、自分の行動・意識・考え方を変容させる営み」と定義されます。一方、リーダーシップは「チームが理想に近づくために個人が周囲に及ぼす影響力」として再定義されています。つまり、適応型リーダーシップは、管理職だけでなく、チームの全メンバーがそれぞれの立場から状況に応じて発揮し、組織全体が複雑な環境に適応していくことを後押しするものです。リーダーシップをポジションではなく「影響力」として捉え直す視点は、従来の階層型組織観からのパラダイムシフトを促します。

10週間で“脳のOS”をアップデート──18思考習慣の威力

ミネルバ式リーダーシップ開発プログラムは10週間・各2時間のオンラインセッションで構成されています:

セッションテーマ 代表ラベル(一部)
1 システム思考 #system decomposition
2 人間行動の科学 #managing_bias
3 パーパス型リーダーシップ #purpose
4 対人知性(EQ) #relational_IQ
5 チームの力学 #team_dynamics
6 コミュニケーション #audience_awareness
7 課題分析 #problem_analysis
8 デザイン思考とイノベーション #design_thinking
9 意思決定 #decision_leadership
10 学びの統合

特徴的なのは、18の思考習慣(Learning Outcomes)それぞれにルーブリックが設定され、習熟度をレベル1〜5で評価できる点です。例えば「#system_decomposition(システム分解)」という思考習慣は、「システムを正確に分解して要素を抽出し、要素同士の相互作用を見る能力」と定義され、段階的な成長が可能になります。

プログラムはすべて反転学習で実施されます。受講者は、事前にコンテンツを自習の上、参加します。そのうえで、「問い→討議→即時フィードバック→実践→リフレクション」の高速な学習循環がまわります。セッション間には実践課題が課され、次回のセッションで振り返るため、学びが定着しやすい設計になっています。

Learning Agility を引き出す〈仕掛け人〉の流儀

黒川氏は、Learning Agility(学習敏捷性)というコンセプトとともに、効果的な学びを促進するために重要な3つの要素を挙げました:

  • 1. 理解力:良質な知識に出会い、要点を把握する
  • 2. 思考力:セオリーを自分の経験と結びつけ、再解釈する。また、未来に向けて仮説を立てる。
  • 3. 実践力:学びを実際の行動に移し、結果から振り返る。

特に、「思考」のフェーズで求められる「良質な問い」の重要性を強調し、受講者の思考を深める問いかけがプログラムの核心だと説明しました。ミネルバの講師には台本があるものの、「ジャズの譜面」のように、各講師の個性や状況に応じた即興性も求められ、その意味で学習をファシリテートする講師の能力も従来とは異なるものが求められます。

フル・アクティブラーニング――受講者75%アウトプットを可能にする教室の裏側(テクノロジー)

ミネルバのオンライン学習プラットフォーム「Forum」は、従来の学習体験を根本から変革しています。この環境では:

  • 受講者の参加度がリアルタイムで可視化(誰がどれだけ話したか、リアクションしたかを色分け表示)
  • ブレイクアウトルームでの会話も観察可能(全てのグループの状況を把握)
  • 全ての発言が記録され、後から振り返りとフィードバックが可能

黒川氏は、ミネルバの教授法はこのプラットフォームを活用し、「いかに受講者を巻き込み続けるか」に注力すると説明します。例えば、授業中に講師と特定の一人とのやり取りが続くと他の受講者の集中が切れるため、対話を他の人に振ったり、同じ人に連続して質問しないなど、インストラクショナルデザインとともにファシリテーションには様々な工夫が凝らされています。
ミネルバが目指すのは「フルアクティブラーニング」—授業中の75%以上の時間、受講者全員が知的にアウトプットし続ける状態です。これを実現するためにテクノロジーを活用し、体系化された「16の学びの原則」が確立され、神経科学・心理学・行動科学の知見を活かした教育方法もまた実践されているのです。

思考習慣をどう広げるか

セミナーの質疑応答では、この思考習慣をより広い層にどう広げるかという課題が議論されました。ミネルバ式学習は1クラス最大20名という少人数制が限界であり、この点が日本の大学等大規模クラスが慣習となっている教育現場への導入のネックとなっています。
黒川氏は、日本の大企業における経営幹部クラスから普及させることで、リーダーシップに対する組織全体の「言語」が変わり、現場、ひいては教育への浸透が進むという戦略をとっています。一方で、「思考習慣は若いほど身につきやすい」という視点も共有されました。小学生向けのカリキュラムも開発している黒川氏は、「システム思考的な考え方はどの年齢でも学べる」と話します。ただし、本格的な普及には高品質なファシリテーターの育成が不可欠で、「一気に広げたいが質も落とせない」というジレンマにも言及しました。

未来を切り拓く思考法

今回のセミナーを通して浮かび上がったのは、複雑化する社会において「自分で考え、世界にどう働きかけるかを自分で決められる人間」の育成の重要性です。ミネルバ式の思考習慣トレーニングは、断片的なスキル教育ではなく、体系的な思考力の獲得を目指しています。参加者からは「組織の捉え方や世界を見る目において、複雑性と多様性の根本原理がしっかりと体系化されている」との評価が寄せられました。当日のセミナーは、リーダーシップ開発の最前線に触れる貴重な機会となり、「思考習慣」という概念の枠組みを通して、新たな学びのパラダイムを探求する深い対話の場となりました。

日本アクションラーニング協会 代表 清宮普美代コメント

黒川さんが今回提示された「適応型リーダーシップ」は、リーダーシップを「思考習慣の構築」と捉える視点において、アクションラーニングと深い共鳴点を持ちます。私たちが実践するアクションラーニングも、単なる問題解決の方法論ではなく、課題解決プロセスを通じて適応型の思考習慣を体得するアプローチと考えるとしっくりくるからです。

また、外交官としての黒川さんの経験―国際会議での論点整理や多様な利害関係者間の調整―が本質的にファシリテーションだったという洞察は、外交官のキャリアをもつ彼が今こうしていることの意味につながりました。特に心に残ったのは、黒川さんの引用した、紛争解決ファシリテーターのアダム・カヘン氏の警鐘です。システム思考における、「視座を高く」「全体を見よう」という掛け声こそが危険だというパラドックス。システムは客観的実体ではなく、各人が異なる「部分」と「全体」を持ち、それらを丁寧に「すり合わせていくプロセス」こそが、システム思考の本質だという視点は、複雑性の時代における協働の核心を突いています。

ミネルバ式学習法は、1940年代から発展してきたアクションラーニングの現代的進化形と勝手ながら考えてしまいました。両者は「問い」を中心に据え、実践と省察のサイクルを回す点で共通していますが、ミネルバは思考訓練の再現性と体系性を高めるため、教材や学習環境を緻密に設計しています。ある意味原始的なアクションラーニングは、現実の課題そのものを教材とする即時性と実践性を強みとしています。実際ミネルバ式トレーニングは、アクションラーニング概念を包括しています。お話しを伺って、今後も複雑な時代に求められるリーダーシップ開発の在り方をさらに探求していきたいと思いました。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表
株式会社ラーニングデザインセンター 代表

東京女子大学文理学部心理学科卒。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MA in HRD)取得。大学卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現 株式会社マイナビ)にて事業企画や人事調査など数々の新規プロジェクト従事後、渡米。日本組織へのアクションラーニング(AL)導入について調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者、社長室長を経て、株式会社ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。日本人として初めて、マスターアクションラーニングコーチに就任。育成したコーチは1000名を超える。現在は企業への人材育成・組織開発に携わるとともに教育のフィールドでのアクションラーニング普及にも精力的に活動している。

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