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日本アクションラーニング協会情報

チームの力を引き出す技術を獲得する:アクションラーニングで学ぶチームコーチングの本質

チームコーチングの本質とは?個人コーチングとの決定的な違い

近年、企業や教育現場においてチームコーチングの重要性が高まっている。従来の1on1コーチング(個人コーチング)は、個人の気づきや行動変容を促進するが、チームコーチングはチーム全体のパフォーマンス向上や協働を促す点で大きく異なる(O’Connor & Cavanagh, 2017)。実際の企業活動のなかでは、個人のスキルをアップするというより、組織力をあげて、事業成果をあげることに注目が集まっている。

チームコーチングにおいては、個々の成長以上に「チーム内の相互作用」に着目する必要がある。そのため、チームコーチには、1対1のコーチングでは求められない、「関係性の調整」や「相互学習の促進」といった、より広い視点を持つスキルが求められる(Clutterbuck et al., 2019)。逆にいうと、1対1のコーチングスキルでは、個人を精緻にみる必要があるが、チームコーチでは、個人の感情の細かいひだや精緻な理解というより、もう少し焦点をぼやかして、全体をみるようなことが必要なので、別途トレーニングする必要がでてくる。

2. チームコーチングスキルは、個人コーチングスキルを開発しても手に入らない

個人コーチング(1on1)で身につくスキルは、主に「目の前のクライアント(個人)」の内面に深く入り込み、行動変容を引き出すためのものです。たとえば、相手の価値観や感情に寄り添うリスニング力、問いかけによる気づきのサポートなどが挙げられます。しかし、チームコーチングでは、こうした1対1のスキルだけでは十分ではありません。

2-1. 個人コーチングとチームコーチングで注目すべき視点が違う

1on1コーチングとチームコーチングの主な違い

項目 1on1コーチング チームコーチング
目的 個人の成長・自己理解・行動変容 チームの協働強化・学習促進、複数人の相互作用をいかに最適化するか
対象 個人 チーム(複数人)
フォーカス 個人の内省を深める 感情・思考・行動の深掘り チームの関係性を最適化する、チーム全体の雰囲気、心理的安全性、協働プロセス
成果の評価 個人の成長度 チームのパフォーマンス向上
スキルセット 傾聴、質問、フィードバックなどを個人向けに最適化 チームダイナミクスへの介入、関係性の調整、学習の場づくり

個人の感情に寄り添うだけでなく、チーム全体を見渡し、今どんなコミュニケーションが起きているのか?そこにどんな構造があるのか? を把握し、必要に応じて介入する視点が必要になります。

2-2. なぜ「別途トレーニング」が必要か

  • システム思考の導入
    チームは一種の「小さな社会」なので、個々のメンバーが持つ考え・背景が相互に影響し合います。そのシステム全体を捉え、どこへ、どのタイミングで介入すると一番効果的かを判断する力が不可欠です。
  • 焦点の持ち方を変える
    個人コーチでは一人の内面に深く入り込みますが、チームコーチでは意図的に「焦点をぼやかす」ことが求められます。個人個人の細部を追うよりも、「今のこの場で、どんな会話の流れ・関係性のパターンが生まれているのか?」に目を向ける訓練が重要です。
  • チーム内規範(Norms)の形成をサポートする
    チームが安心して率直に話せる“場”を作るために、ルールづくり(規範設定)を促す必要があります。個人コーチングでは出てこない「場のデザイン」や「チーム全体のコミュニケーション規律の合意形成」といった側面を扱うスキルが求められます。

3. アクションラーニングがチームコーチ育成に適切な理由

3-1. 複雑な要素を「同時に」学ばなくてもよい仕掛けがある

チームコーチングでは、「場づくり」「質問」「フィードバック」「関係性の調整」など多岐にわたるスキルが必要です。これらを一度に習得しようとすると混乱を招きがちですが、アクションラーニングでは、あらかじめ基本的な「ルール」や「スクリプト(型)」が用意されています。具体的には、

  • 質問重視の進行
    「まず全員が質問から始める」という基本ルールがあり、それによって自然と探索的なコミュニケーションが促されます。
  • “チーム”での共有、フィードバック、振り返り
    アクションラーニングのセッションでは、メンバーが積極的に振り返りをおこない、フィードバックする文化・仕組みがあります。コーチ自身も含め、チームは常に他者の視点を定期的に取り入れられるため、短いサイクルで試行錯誤と学習を回すことができます。
  • 成功体験のひな型が組み込まれている
    セッションの流れ自体が「問題の共有→質問→解決策の創造→実行」といった一連の学習プロセスになっており、初心者コーチでも小さな成功体験を重ねながら学べるのが特徴です。

つまり、「まず型を理解し、実践する→うまくいったり失敗したりする→フィードバックを受けながらひな型をこわし、自分のマインド行動様式を醸成する」という段階的な学習が可能なため、複雑なスキルを徐々に身につけやすいのです。

3-2. マインド醸成と態度醸成を同時に進められる

アクションラーニングでは、単なる「やり方」だけではなく、コーチとしてのマインドセットと態度を同時に育むことができます。

  • 他者からのフィードバックを常に受ける「姿勢」
    アクションラーニングでは、セッションごとにコーチの介入についてメンバー同士で振り返る時間を設けます。コーチは常に自分の介入がチームに与えた影響を問われるので、「自分はチームのためにどうあるべきか?」というコーチとしての態度が磨かれます。
  • 自己を俯瞰し、メタ認知を高める
    実際に“場”を動かしている最中の自分を客観視し、プロセス(会話の流れ)とコンテンツ(議論の中身)を分けて見る練習を繰り返すことで、コーチは「今、私はチームにどう影響しているか?」という意識を持てるようになります。これは机上の講義だけでは身につきにくい能力です。

3-3. 実践のなかで知見が蓄積された「体系的メソッド」がある

アクションラーニングは、世界中の企業や組織で実践され、その結果、成功事例・失敗事例の蓄積を通じて方法論が洗練されてきました(Revans, 1982; Marquardt, 2011)。特にWIAL(世界アクションラーニング機構)の方式をベースにしたアクションラーニングでは、

  • チームの最適なサイズや構成
  • 質問の質を高めるための具体的ステップ
  • フィードバックの与え方・受け方の工夫

などが明確化され、学習プロセス全体が体系立てられています。そのため、初学者でも段階を踏んだ導入ができ、最終的には自分のスタイルで「型を破る」ところまでスキルを高めることができます。

4. アクションラーニングによるチームコーチ育成のプロセス

実際にアクションラーニングを活用してチームコーチとしてのスキルを身につけていく流れは、大きく以下の4ステップにまとめられます。ここでは、「Self of Use」(自己の在り方や使い方を意識しながら、どのようにチームに介入していくかを学ぶ点がポイントです。

1. チームの観察:どのような関係性があるのかを見極める

プロセスとコンテンツの区別を徹底する
アクションラーニングでは、会話の「中身(コンテンツ)」と「進め方・関係性(プロセス)」を分けて観察することを重視します。たとえば、

  • 誰が多く発言しているか?
  • 誰が発言していないか?
  • どんな空気が漂っているか?(心理的安全性はあるか?)

まずは「チームが現状どう機能しているか」を把握することに集中し、自分がどう介入できるかを探る。

2. 介入の実践:プロセスへ働きかけ、学習を促す

質問やフィードバックを通じて“場”を動かす
ALコーチは、必要に応じてチームに「いま、全員が意見を出せていますか?」「この議論で意見を出しにくい人はいませんか?」といった質問を投げかける。これにより、チームの思考や行動が修正されたり、深まったりするきっかけが生まれます。

メタ認知を得るサポート
チームが自分たちのプロセスを客観視し、「いま私たちはどういうパターンに陥っているか」「次に何を変えてみるか」を考える機会を作るのがコーチの重要な役割です。

3. 振り返り(リフレクション):自分の介入がどのような影響を与えたかを分析

「自分は何をしたか? それによってチームはどう変化したか?」を細かく振り返る
コーチ自身が自分の介入を言語化し、客観視することで、次のステップに向けた学びが具体化されます。

成功体験と失敗体験の両方に学ぶ
うまくいった部分だけでなく、想定通りにいかなかった部分も洗い出し、それらを次の介入に生かしていきます。

4. Feedback:他者からのフィードバックを受け、自分の「型」をアップデートする

チームメンバーからコーチに対する率直なフィードバック
アクションラーニングでは、最後に必ず「コーチへのフィードバック」の時間を設けることで、自分では気づかなかった盲点を補うことができます。

「Self of Use」へ統合する
得られたフィードバックを踏まえて、「自分の在り方(Self)」をどうアップデートするかを考えることで、型を破りつつ、チームメンバーがより学びやすい場を提供するコーチングスタイルを確立していくのです。

チームメンバーのマインド・コミュニケーションの質・行動様式を整える支援
コーチが「型を使いこなし、そこから脱却できる」ようになると、チームメンバーの学習意欲や対話の質も自然と引き上げられていきます。

このステップを繰り返すことで、チームコーチとして必要な視点・態度・スキルを実践を通じて少しずつ獲得していくことができます(Marquardt, 2011)。

おわりに

チームコーチングは、個人コーチングとは異なるアプローチとスキルセットが必要です。その学びの最適解として、アクションラーニングは世界中の多様な組織で実証されてきた体系的メソッドを提供しており、「型を身につけ、必要に応じて型を破り、さらに自己の在り方を磨く」というプロセスを踏みやすいのが特長です。実践とフィードバックを通じた学習に興味がある方は、ぜひアクションラーニングのトレーニングやプログラムを検討してみてください。

参考文献

  • Clutterbuck, D., et al. (2019). The Practitioner’s Handbook of Team Coaching. Routledge.
  • Edmondson, A. (1999). “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams,” Administrative Science Quarterly.
  • Marquardt, M. J. (2011). Optimizing the Power of Action Learning. Nicholas Brealey.
  • Revans, R. W. (1982). The Origins and Growth of Action Learning. Chartwell-Bratt.
  • Wotruba, T. (2020). Team Coaching for High Performance. McGraw Hill.
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