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日本アクションラーニング協会情報

【Neuro 組織開発×アクションラーニング】桑江 曜子氏 #2020Learing Base

2020.6.2 Learning Base vol.7
テクノロジーによる学習加速化の可能性
~個人、組織開発に役立てるための方法論~
Guest: 桑江 曜子氏(Tech ODリサーチャー)
桑江 曜子

理学博士
大手電機メーカーにて、研究開発、経営企画、組織改革を経て2016年に定年退職。
企業内で社内コンサルタントを育成し組織改革を10年以上かけて全社に普及させることに尽力してきた経験を活かし、在職中から他企業の組織改革のサポート、講演活動を行う。

 

心拍や脳波のような生体情報が人間の心身の状態を示すということは、一般的に知られている。
これらの情報が自身の学習や組織開発に活用できるならば、ぜひ利用したいという人も多いのではないだろうか。
桑江氏は現在、身体感覚を活かした組織開発の研究を行っている。
キヤノン株式会社にて研究開発を行う傍ら、アクションラーニングをはじめとした組織開発を担ってきた経歴を持ち、退任後はヨガインストラクターの講師も務めるなど身体的な活動も行っている。
今回は人間の感覚をテクノロジーで可視化することで個人や集団の学び、組織開発にどう役立つのかについて話を伺った。

 

テクノロジーは学習にどう役立つか①学習サイクルの好循環化

皆さんは日常的に、今日は調子がいいなとか、心がざわざわしているなといった心身の状態を感覚的に捉えていると思います。
複数の人が集まったときには場がノっている、冷めているといったことが感じられることもありますね。
私はそうした感情や場の雰囲気を個人の生体情報をもとに数値化することで、学習に役立てられるのではないかと考えています。
アクションラーニングに取り組んでいて、同じ質問をしても場の盛り上がり度合いによってきれいにハマるときもあれば、全くハマらない時もあるのではないでしょうか。
コルブの経験学習サイクルでは大人の学習は経験をすることから始まり、リフレクションによって概念化し、実行することでより深いものとなるとされていますが、場の雰囲気がリアルタイムで可視化できれば、リフレクションの際にも役に立つのではないかと思うのです。
また組織の成功循環モデルでは、先に成果を求めるより、関係の質を高める方が成功に繋がるとされていますが、この関係の質も可視化することで質向上が加速されると考えています。

学習サイクルの好循環化

 

テクノロジーは学習にどう役立つか②自己の深い理解とコントロール

人間を車で例えると、車両本体とそれを運転する人に分けられます。
車両本体すなわち身体の生体情報の変化、例えば心拍が速くなったり、特定の脳波が強く出たり、皮膚温度が上下したりといったことは、リアルタイムに測定ができます。一方、イライラの抜け出し方や、ゾーン状態の作り方などは身体のコントロールの仕方にあたり、直接計測できる物ではありません。
でも車でバッテリーが上がらないように運転速度やバッテリー状態を参考にしながら走るように、身体についても生体情報が分かると操作方法がある程度つかめるはずです。
例えば、皆さんはゾーンに入っている状態を経験したことはありますか。
経験者にどんな感覚か言葉にしてもらうと、おそらく十人十色の表現が出てくるでしょう。

しかし、生体情報の変化を測定していくと、こんな数字が出たときはゾーンに入っているらしいということが分かってきます。
逆に「この脳波が出ているときにゾーンに入っていると感じる人が多い」という情報があれば、皆さんはその脳波が出るにはどうしたら良いかと考え、実践するかもしれません。
このようにして、生体情報を知ることは自分のことをより深く理解しコントロールすることにつながると考えています。

 

テクノロジーは学習にどう役立つか③機械学習などの統計による組織開発ポイントの明確化

少し毛色が違いますが、ここで統計処理の話もしたいと思います。
私がキヤノンにいたときに、技術系の社員 3000 人ほどを対象に組織活性化活動を行ったことがあります。
どのようなときにチームは活性化するのか、アンケートをとり、そのデータを統計処理しました。
その結果分かったのは、管理職が組織の目標をきちんと個人の役割にまで落とし込み、かつチーム内でリフレクションを行えていると、チームに一体感が出てメンバーに成長実感や納得感が生まれるということでした。
また 2 種類の信頼関係がうまく絡み合っていると、徐々にチームの活動が盛り上がっていくことも見えてきました。
1 つは「上司が大変そうだから手伝おう」というような共感の信頼関係、もう 1 つは「この人になら安心して仕事を任せられる」という論理的な信頼関係です。
また、同じ組織開発に取り組んだ人の中でも 1 回で辞めてしまう人と、粘り強くやり続ける人がいます。
その違いを分析してみると、上手くいかない原因を分析しない人、リフレクションをせず概念化できていない人はすぐに辞めてしまう傾向があります。
コンサルタントがいなくなっても学びを保とうとする人、今度はこうしてみようとパラメーターを変えて、メタ認知し、メタスキルで回せる人は粘り強く続けられる人です。
つまり、コルブの経験学習が回っているということなんですね。
このように統計処理を行うことで、組織活性化のポイントが明らかになることもあります。
アクションラーニングに取り組んでいる皆さんにもアンケートをとり、統計解析を用いるとどのような関わり方をしたらより効果的かという次の一手が見えてくるかもしれません。

 

脳波のリアルタイム共有が役立つ事例

今日は様々な生体情報の中でも、特に脳波を可視化したときの効果についてお話しします。
2020 年 3 月に生放送で、ニューロマーケティングを行っている 株式会社SandBoxが、動画視聴中のモニターから得られた脳波をリアルタイムで可視化し、フィードバックを行うというサービスを提供しました。
同じ動画を十数人の若者が視聴し、その中の何人かの脳波データを解析、融合して、その場全体の動画への興味度を 4 段階で示したのです。
可視化にあたっては個々人のデータをそのまま見せるのではなく、計測者の合計を集合知的に可視化し、場の盛り上がりを示したというのが特徴です。
すると興味度がリアルタイムで共有されていないときと比べ、場の盛り上がりが増幅することが分かったのです。
これは新しいテレビの観方に貢献する画期的な技術として取り上げられました。
この技術の使い方のポイントは、場全体をどのように盛り上げるかというような、ポジティブなアプローチで使うということです。
個人のデータをそのまま明らかにしてしまうと、ある人は盛り上がった、盛り下がったということが個人への攻撃につながる可能性があるからです。
テクノロジーの進化にあたっては、データの取り扱いには細心の注意を払うべきだと思います。

 

脳波の計測によって深まる自己理解

今の時代、脳波の計測は簡単なデバイスとスマホさえあれば個人でできるようになっています。
脳波には、いくつかの種類があります。
皆さんも、アルファ波が出ているときはリラックスしている、気分のいい状態だということはご存知でしょう。
よいイメージ画像を観たり音を聴いたりするとアルファ波が出ると言われています。
また、集中あるいは没頭しているときに出る、シータ波という脳波もあります。
以前関わったプロジェクトチームで、ヨガのエキスパートの方が VR 瞑想というものを考えました。
先生がインドなどで深く瞑想しているときの頭の中を映像化して、VR として見せるのです。
閉眼瞑想と VR 瞑想を行っているときの脳波を測定してみた結果、閉眼瞑想では主にアルファ波が、VR 瞑想ではシータ波が観測されました。
このようにしてみると、あらゆる国の人によって様々な方法で行われている瞑想でも、脳波というある一側面においては同じようなことが起きているかもしれません。

脳波は、自分でトレーニングすることで特定の脳波が出るように使い分けができ、今自分が緊張しているのか、リラックスしているのかが体感覚的にわかるようになってくると言われています。
瞑想のエキスパートは何万時間と、ものすごい量のトレーニングをして脳波をコントロールできるようになりますが、今は技術をもってすればもう少し簡単にできるのではないか、あるいは加速的に効果が出るのではないかと思っています。
これからはこうした自己・集団のより深い理解のためにテクノロジーが用いられていくと考えています。

清宮普美代代表 コメント

人材・組織開発にテクノロジーを掛け合わせるチャレンジは、これからの潮流になってくるでしょう。
特に、桑江さんが今回焦点をあてている、いままで<雰囲気>とか<場>といっていたものの見える化と生体情報の掛け合わせには大きな可能性があります。
見える化したデータをいかに組織開発に活用するのかは、テクノロジー以前の問題もあるにせよ、即時性が強くなるからこそ、生まれる効果もまたあるとおもいます。
見える化については、リサーチの分野でも、いわゆる全社・年度の大調査的なもの(センサス調査)から、いま一般的になりつつある当日の気分をスマホで登録するもの(パルス調査)もあり、生体情報も含めたビックデーターの波はかならずくるでしょう。
(桑江さんも言及しているように、ここには個人情報の扱いに関しての相当ナーバスな問題も出てくるとは思います)
データに基づく視点と、自分の身体知を使いながら、組織介入していくOD実践者のニュータイプがうまれてくる予感がします。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。

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