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日本アクションラーニング協会情報

【身体知(マインドフルネス)×アクションラーニング】皇村昌季氏 2020 Learning Base

2020.6.25 Learning Base vol.8

身体知(マインドフルネス)×アクションラーニング
~ストレスマネジメントで「幸福的学習」を促進する方法~

Guest: 皇村昌季氏(伝統ヨギ・医学博士)

【皇村昌季氏 プロフィール】

上智大学卒業。
順天堂大学大学院医学研究科修士課程(医科学専攻)・博士課程(医学専攻)修了。
医学博士。
スワミ・ヴィヴェーカナンダ・ヨガ研究財団ヨガ・セラピスト養成コース修了。
インド中央政府公認ヨガ・セラピスト&インストラクター。ディープヒマラヤ伝統ヨギ(聖名:Chitrananda Yogi/神の慈愛の歓喜に満ちるヨガ行者)。
ヒマラヤでの聖地巡礼と修行、自らの神秘体験と科学的な知見にもとづいた講義が好評を博している。
日本ヨーガ療法学会所属。
サトヴィックライフ・アカデミー主席講師。
著作に『身体がゆるめば願い事がどんどん叶う 引き寄せヨガ』(2016)※、『運命のパートナー(ソウルパートナー)を引き寄せる 愛されヨガ』(2017)※、『開運ヨガ 世界一カンタンな潜在意識をひらく方法』(2018) ※共著

 

学びを促進するために重要なものは、なんだろうか。
ノウハウは世の中に溢れているが、現代は勉強にも仕事にも、ストレスという別の要因がつきまとう。
医学博士である皇村氏は、現代人はストレスへの対処がうまくできず、学習意欲にも大きな影響を与えているとしている。
またヒマラヤでの修行経験を持つ伝統ヨギの立場から、ストレスによって引き起こされる様々な心身の不調には、ヨガが効果的であると考えている。
つまり、ヨガによるストレスマネジメントで、ウェルビーングな学習を実現できるということだ。
今回は、現代人の抱えるストレスの実態やその原因、体内で起きていることを脳科学的な観点で紐解きつつ、伝統ヨガの側面からヨガの有用性について示唆いただいた。

 

3つのストレス反応:心理面、身体面、行動面

厚生労働省の統計によると、仕事で強いストレスを感じている労働者の数は、日本全体の6 割近くとされています。
ストレス要因、すなわちストレッサーの中でも、こうした仕事上の問題や家庭内、人間関係の問題といった心理・社会的ストレッサーが、最も問題になっています。
ストレッサーによって引き起こされる反応をストレス反応と言いますが、これは 3 つに分類できます。
イライラや不安、気分の落ち込みといった心理面、体の節々の痛みや頭痛、肩こり、食欲低下や便秘・下痢、不眠のような身体面、そして飲酒量や喫煙量の増加、仕事上のミスや事故といった行動面です。
その人の対処能力を超えたストレッサーを経験したり、ストレッサーが⾧期間続いたりすると、ストレス反応は慢性化していきます。
これにどう対処するのかが、現代では重要です。
思考力や集中力の低下を感じたり、自分のことを価値のない人間だ、周りに対して申し訳ない、決断が難しい、いっそのこと消えてなくなりたい、と思うようなサインが継続してあった場合は、過剰なストレス状態に置かれていると認識した方がいいです。

こうした不調が慢性化し、心疾患になる代表的なケースはうつ病です。
他にも、呼吸器系、循環器系、消化器系などに現れます。
リューマチや過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎といった難病と言われる、西洋医学的に治療が困難な特定疾患は、実は心が原因の場合が多いです。
こうした症状に陥らないための心の使い方は、自分で身に付ける必要があります。

 

ストレスによって引き起こされる「頑張る」と「我慢する」

では、ストレスが溜まると身体の中で何が起こるのでしょうか。
ストレス反応の例としては、筋肉の硬直や呼吸・心拍の増加、血圧の上昇、発汗や唾液の減少などがあります。
ではこうした機能は、いつから人間に備わっているのでしょうか。
それは社会が複雑になる前、原始的な生活をしていた頃に遡ります。
例えば森で狼やライオンなどの猛獣に出くわしたときに、本能的に命を守るために闘ったり逃げたりするために備わったものだと考えられます。

ストレスに対しての対応には大きく 2 種類がありますが、このうちここでいう『逃走闘争反応』は SAM 系という瞬発的な反応です。
目の前に敵や危険な状況が現れると、脳内の視床下部から自律神経に指令が入り、最終的に副腎髄質からアドレナリンが分泌されるという仕組みです。

そしてもう一つ、SAM 系より少し遅れて出てくる HPA 系という反応があります。
瞬発的な力だけでは逃げられなかった場合に備わっている仕組みで、視床下部から脳下垂体に指令が入り、副腎皮質からコルチゾールというホルモンが出ます。

この二段階の行動面の違いをみてみると、SAM 系は頑張る系のストレスで、実は心理的にはそれほどダメージはありません。
一方で HPA 系は我慢によるストレスで、行動面としては逃げも闘いもしない、その場にじっとしてしまうという形で現れます。
日本人には、我慢するタイプも多いので、特に、この HPA 系のストレスの方が問題です。

 

ストレスがうつ病、学習意欲を減退させる医学的根拠

⾧期のストレスにさらされると、HPA 系でコルチゾールが過剰分泌され、脳神経細胞がダメージを受けます。
うつ病の人の脳を実際に見てみると、記憶にとって大事な海馬という部位が通常と比べて 5%ほど萎縮しているという実験結果もあります。
また扁桃体という、外の出来事に最も早く反応する部位が、過剰に反応します。

具体的には、その人が損得や勝ち負けを感じたり、ヨガの世界で二極の対立と呼ぶような、白黒はっきりつけようとする世界にいると、非常に扁桃体が強く反応します。
うつ病といった現代の深刻な問題は、こうした仕組みにより引き起こされていると考えられています。

学習という観点で見ると、慢性ストレスとの付き合い方がわからない人や、勉強、学びそのものがストレスになってしまっている人は、この HPA 系の仕組みによって学習意欲が湧かなくなってしまいます。
するといくら勉強しても頭に入らないという状態になってしまいます。
学習という観点から見ても、ストレスマネジメントがいかに重要か分かると思います。

 

ストレス社会になった要因

私たちの社会と対極的な暮らしをしているのが、アフリカのハッザ族という、1 万年前とほぼ同じ生活をしている部族です。
彼らは 2、3 家族で塊になって移動しながら、狩猟採集生活をしています。
先進国の研究者が彼らに注目するのは、彼らの社会にはうつ病がないからです。
うつ病を判定する質問票に答えてもらうと、彼らは「将来は不安ですか」という問いに対し「いや、明日のことは明日になったら考えますよ」と言います。
非常に健やかな回答ですよね。

また時間の概念も、昨日今日明日はあるけれど、一昨日や明後日というものはありません。
生活がとてもシンプルなんです。
こうしたこともうつ病の有無に大きく影響しています。

でも最も決定的なのは、彼らの社会が完全平等社会だということです。
食べ物が少なかったとしても、必ず平等に分け合う習慣があります。
生活に損得の要素がないのです。

日本や欧米のような、いわゆる資本主義社会では、格差や損得があることがベースになっています。
このような社会になった最初の要因は、農業が起こったことからです。
農耕によって集団に上下関係が生まれ、できるだけ早く、多く、効率よく収穫しようというマインドに変わったのです。
これは現代でもよく聞く言葉ですね。
文明の発祥によって便利になる一方、ストレス社会にもなってしまったわけです。

 

ストレスへの対処法とヨガの有効性

私たちはストレスにどう対処すればいいのでしょうか。
アメリカの心理学会では、ストレスの解消法として勧めない 9 項目を挙げています。
ギャンブル、ショッピング、喫煙、暴飲暴食、テレビゲーム、ネットサーフィン、⾧時間のテレビ視聴や映画鑑賞と、挙げられているものは全て依存症につながるものです。

一方効果的なストレス解消法には、運動やお祈り・信仰、読書、音楽鑑賞、友人と過ごす、マッサージ、散歩・ウォーキング、瞑想・ヨガ、趣味の時間が挙げられています。

運動について最も効果的だと言われているのは、ジョギングやウォーキングといった有酸素運動です。
実は有酸素運動をすると海馬が大きくなるということが分かっています。
つまり記憶力がよくなるということですね。
実際に記憶力選手権世界チャンピオンでもあるグンター・カールステン博士は、記憶トレーニングの半分は運動に当てているそうです。
だから皆さんが、大学を目指したり資格をとったりするために、1 日 10 時間も座り続けているのは実は非効率です。

ヨガは、ハードなものは有酸素運動の要素も含んでいますし、信仰にもつながり、ヨガ仲間とやれば友人と過ごしていることにもなるなど、ストレスマネジメントに非常に効果的なのが分かります。
「認知症にならないための決定的予防法(ヴィンセント・フォーテネイス著、河出書房新社、2010)」では、学習に最も有効な運動として、リズム運動(有酸素運動)以外に、アソメトリック運動、ストレッチ運動が挙げられていますが、ここでもヨガは全ての要素を含んでいますから、ストレスを味方につけるための効果的な技法と言えるわけです。

 

スポーツにはないヨガの心身アプローチ

では、スポーツとヨガでは何が違うのでしょうか。
ヨガは、世間では柔らかい身体で不思議なポーズをとる体操、というイメージが浸透していますが、ヨーガ・スートラという根本経典があり、そこでは「ヨガとは心素の働きを止滅することである」と定義されています。
心素とは意識、心そのもののことです。
つまり、ヨガとは意識の働きを止めて滅することです。
これは顕在意識のレベルであれば、喜怒哀楽の波が穏やかな状態ということになりますし、潜在意識レベルまで深めると、身体の機能そのものが仮死状態に近づいていくことになります。
現代で様々に指摘されている効果は、こうしたことを探究しているうちにおまけとしてくっついてきたものです。
ヨガは、身体からアプローチをし、心や潜在意識を自由自在にコントロールするための技法と言えます。

ヨガというのは瞑想の技術として発達したものなので、段階が異なるだけで実はヨガの体操や呼吸法を正しく行えば、瞑想そのものの効果があります。
瞑想とは、簡単に言えば「判断や分析をせずに眺めること」です。
ヨガの世界で言えば、魂としての自分が常に心静かに外の世界をただ眺めている状態、客観視の状態になります。
ヨガを正しく行えば、心が静かになり、ストレスから解放されて、ストレスマネジメント効果が高くなるわけです。

ラージャ・ヨガにはアシュターンガという、8 つのステップがあります。
1・2 段階目には生活の心得が記されていて、ここで心の準備をします。
3 段階目のアーサナが、みなさんがヨガだと思っている体操で、4 段階目の呼吸法とともに身体の準備をします。
いわゆる瞑想といわれるのは 7 段階目のディヤーナです。
これはスポーツに例えるとフロー状態、力みはないけれども意識はとても試合に集中している状態のことです。
ヨガで最終的に目指すのは、8 段階目のサマーディーという解脱・悟りの境地です。
これはゾーンと言われる状態と同じです。
ステップごとに出ている脳波を見てみると、6 段階目のダーラナまでは β 波と呼ばれる、日常的な脳波に近いものが出ていますが、7 段階目では α 波がメインになります。
さらに深い瞑想状態になると、自分が瞑想しているという感覚もなくなり、θ 波が出るようになります。
ヨガを深めていくと、脳波にまで影響があるのです。

 

認知行動療法としてのヨガ

ストレスの性質は、実は受け止め方によって変化します。
スタンフォード大学のケリー・マクゴニガル博士も著書「スタンフォードのストレスを力に変える教科書(大和書房,2015)」で、ストレス反応を課題に取り組むための身体の活性化、つまり前向きでプラスのものだと捉えると、エネルギーに変えることができるとしています。
ですからストレスにとっては心の使い方がとても大事です。
この点で考えても、ヨガは非常に有効なものです。

バガヴァットギーターという聖典では「ヨガとは『上手な行為の仕方』である」と定義されています。
上手な行為とは、何かを行うときに、リラックスしながら必ずその行為を意識しておくことです。
例えば入試の日が近づいてきて、日々何となく落ち着かない状態の人は、リラックスしていないし意識もできていません。
上手な行為ができている時に、脳では物事を客観的に静かに眺めているときに働く、背内側前頭前野(DMPFC)が活性化し、前頭葉のネットワークが強化されます。
そして実際に前頭葉が大きくなることがわかっています。
DMPFC 付近には扁桃体のコントロール部位もあるため、ここが活性化することでストレスを自由自在にコントロールできるということになります。

物事をどう捉えるかというのは、認知という言葉で表現されます。
医学的な言葉では、認知行動療法として知られていますが、ヨガは認知の変化によって、行動も変化することから認知行動療法の側面もあるのです。

 

集中瞑想と観察瞑想と学習への効果

ヨガを深めた先にある瞑想には、集中瞑想観察瞑想という種類があり、やり方によって脳の使う部位が変わります。
これは学習する上でも大きな影響を与えると思います。
集中瞑想とは、物事にずっと意識を集中させ、α 波が続いた状態で瞑想に入るものです。
前頭前皮質が活性化し、集中力や記憶力、意思決定力がアップします。

一方観察瞑想は、五感が捉えるあらゆる刺激をただ受け止め、特定のところに意識を縛り付けない方法で、前頭葉の活動がやや低下する代わりに、24 時間 365 日脳内ネットワークの水面下で働き続けているデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)が活性化します。
脳は寝ている時も起きている時もエネルギーの 80%ほどを使っていますが、その使い道の正体がこの DMN なのです。
DMN が適度に働くと、想像力や発想力、ひらめきにつながると言われています。

ですので、集中瞑想と観察瞑想をうまく使い分けることによって、集中力や記憶力と想像力・発想力を自分でコントロールできるというわけです。
このように、ヨガはストレスを味方につけて、学習能力、記憶力、発想力を劇的にアップさせ、幸福的学習を促進する究極の脳トレと言えると私は考えています。

清宮普美代代表 コメント

医学博士の知識と、会社経営をしていたパワービジネスマンの見識をもちつつ、ヨガマスター(ヨギー)としての身体知をもっている皇村先生。
そのお話は、科学のエビデンスをもちながら、統合的なアプローチで、とても深く魅了されます。
長年「学習する人」と「学習しない人」の違いはどこにあるのだろう、と考え続けていますが、そのある種の認知の拡大がどうやっておこるのか、ということの答えが、身体にあるかも、と皇村先生のお話を伺って思っています。
(というか、精神と身体は相互に影響を与え合うものですが、身体をつかうことの意味に思い至ったというか。。。)
「ヨガは、瞑想のための技術であり、身体を使った心身相関医学である」そして、その瞑想の意味するところは、「判断や分析をせずに眺めること(客観視、観照)」キーワードがぼんぼん出る皇村先生のお話でした。
ようは、身体を使って、ストレスをマネジメントする。
瞑想状態になりやすい状況をつくる、ひいてはより高い精神構造を手にいれる、そんなアプローチだと思います。
どちらにせよ、身体をうまく統合し、身体知をつかえることが、学習力のうえでもカギだといえますね。

※ (せいみや・ふみよ) 日本アクションラーニング協会代表。株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役。
米国 ジョージワシントン大学 教育人材開発大学院(GSEHD) 修士。
マーコード教授のもと、アクションラーニングを学び、帰国。外資系金融人事責任者を経て、現職。