問題解決とチーム学習の組織開発手法であるアクションラーニングを活用した、経営幹部養成や管理職研修プログラムを提供しています。

03-4400-9867
受付時間:平日9:30-17:30
NEWS

日本アクションラーニング協会情報

【組織変革ファシリテーション×アクションラーニング】森時彦氏 #2020 Learning Base

2020.10.27 Learning Base vol.12
組織変革ファシリテーション×アクションラーニング
Guest: 森時彦氏(株式会社CMC(チェンジマネジメントコンサルティング)代表)
森 時彦

ビジネス・ブレークスルー大学客員教授、日本工業大学大学院客員教授、NPO法人日本ファシリテーション協会フェロー。
大阪生まれ。
大阪大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)卒。
工学博士、MBA。 神戸製鋼所を経てGEに入社し、日本GE役員などの要職を務める。
その後、半導体検査装置大手のテラダイン日本法人代表取締役、投資アドバイザー会社のリバーサイド・パートナーズ代表パートナーなどを歴任。
現在はチェンジ・マネジメント・コンサルティング代表取締役として組織活性化やリーダー育成を支援するかたわら、執筆や講演・ワークショップを通じてファシリテーションの普及活動を行っている。
著書に『ザ・ファシリテーター』『ザ・ファシリテーター2』『ファシリテーターの道具箱』『ファシリテーター養成講座』(以上、ダイヤモンド社)、『“結果”の出ない組織はこう変えろ!』(朝日新聞出版)、『プロフェッショナル・リーダーシップ』(東洋経済新報社)など、訳書に『プロフェッショナル・ファシリテーター』(ダイヤモンド社)がある。
新著「図解 組織を変えるファシリテーターの道具箱 働きがいと成果を両立させるパワーツール50 」  

今回のゲストは「組織を変えるファシリテーターの道具箱(ダイヤモンド社、2020)」を監修する森氏。
組織開発に外部から関わる上で知っておきたいアプローチ方法や心構え、ファシリテーションやアクションラーニングの位置付けについてお話いただいた。

組織開発の2つのアプローチ Mパス(マインドから行動)とPパス(行動からマインド)

組織開発の歴史について、私はホーソン実験があった1920、30年頃から始まっていると捉えています。
それまでの労働管理方法は、フレデリック・テイラーの科学的管理のような、客観的な指標に基づくものが中心でしたが、働く人間にフォーカスした方がよりよい経営ができるのではという視点が生まれたのです。
約90年を組織開発の歴史とした時に、組織に対するアプローチには大きく2つの流れがあります。
業績・パフォーマンス(Pモチベーション(M)の2のうち、モチベーションを先にあげることで業績を上げる「Mパス」と、パフォーマンスを上げる活動の中でモチベーションをあげるPパス」です。

Mパスは心理学系の研究者が提案しているものが多く、マインドが変わることから行動が変わり、成果が出て、行動が強化され、組織文化になるというサイクルです。
これに対しPパスはGEやGoogleのような企業が推進しており、まずは組織のトップや管理職など、リーダーから意思を持って行動を変えることから始まります。
そして変えた行動によって成果が出て、行動が強化され、マインドが変わり組織文化になるという、Mパスとは要素が同じでありながら順番が違うサイクルです。

私は事業経営に長く携わってきましたので「とりあえずやってみて、5年後には成果が出るでしょう」というMパスよりも、3ヶ月で業績を上げることで、徐々に行動も変わっていくというPパスのアプローチの方が受け入れやすいと感じています。

とはいえ、ここでお伝えしたいのはどちらが優れているということではなく、組織の状況によって使い分けが必要だということです。
簡単に言うと、Pパスはエネルギーレベルが高い組織向きです。
スポーツの世界でいえば、上位大会の常連選手のような成果を出すことにこだわる人や組織はこちらが向いています。

一方、楽しみながらやれればいいという組織は、まず大会に出ていくためのマインドを作る必要があるため、Mパスからスタートする必要があります。
組織を外からサポートする立場に立つと、適切なパスを選ぶこと、その時に一体「誰のためにやるのか」「何のためにやるのか」を常に問いかけることが重要です。

そして、欲求五段階説を唱えたマズローの言葉に「ハンマーしか持たない人は全て釘に見える」というものがありますが、このハンマーにならないこと、つまり何でも叩けばいいと思う人にならないようにする心構えも必要です。
そのために我々は選択肢を持ち、いい観察眼でクライアントの悩みや状況を見て、適切なアプローチができるよう研鑽を重ねなければいけません。  

 

行動の変え方:ファシリテータとリーダーのかかわり方

行動を変える方法について、ファシリテーターとリーダーの視点から考えてみましょう。
ファシリテーターが行動変革を促す時には、グランドルールを用います
具体的には「否定しない」「『難しい』を禁句にする」、質問会議のように「質問のみにする」というのが効果的です。
すぐに答えに飛びつきたがる組織は結論を言うことを禁じ、質問しかできないというルールにすると、行動が変わっていきます。

一方でリーダーから行動を変えるには、一言でいうと「Values」つまり価値観、行動規範が重要です。
指示命令も効果はありますが、個別具体的で波及効果はあまり見込めないのです。
Valuesのいい事例に「三つのA」があります。
ある商社の幹部の方が、若い時から自分のチームに口癖として何十回も言っているという「熱く、明るく、諦めない」のことです。
繰り返し伝えることで、やがてチームメンバーもそのようになり、大きな成果を挙げられるものです。
サントリーの「やってみなはれ」や日本電産の「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」も有名です。

Mパス、Pパスの代表的な手法を並べてみると、Mパスの代表格はAIAppreciative Inquiryで、他にも「もやもや会」や「はらわり会」などがあります。
Pパスには、GEで1990年頃に開発されたCAPChange Acceleration Programがあります。
私自身このプログラムによって、変革を起こす時のファシリテーションの大事さに気づかされました。
他にもGoogleによって有名になったOKRObjectives, Key Results組織トレーニング(OT)もあります。

組織トレーニング(OT)は、組織の悪い行動習慣を見直す手法です。
行動は何かマインドがあることから起こる、と思われがちですが、実際は人間の行動の90%以上は習慣的な行動だと言われています。
つまり考えがあってのことではなく、昔からやっている癖によるものが多いということです。

私が面白い経験をしたのが「難しい」という口癖です。
米国の企業で20年以上働いていましたから、米国のメンバーと日本企業を相手に商談することがよくありましたが、日本人は「ちょっと難しいですね」という口癖をよく使うのです。
メンバーからは「あれは一体何なんだ」とよく聞かれていました。
この「難しい」という口癖は、やがて環境不適応を引き起こす組織の習慣病です。
見直すべき口癖は他にも「リスクがある」「予算がないので」「人手が足りない」「そんな短期間にはとても」「うちの社員は安定志向なので」「勉強になりました」などがあります。
皆さんは掃除ロボットのパイオニアというと、アメリカのiRobot社のルンバを想起すると思いますが、実はその前に東芝で同じようなものが作られていたそうです。
しかし「リスクがある」という経営幹部からの意見で実現しなかったということです。

他にも、日本企業はいろんなもののアイディアは持ちながらも、こうした悪い習慣によって実現できていないケースが多いのです。
また組織の悪習慣は口癖以外にもあります。
日本の官僚組織のような間違えを認めない組織や、前例踏襲型の組織、結論にすぐ飛びついてしまう組織などです。
当たり前になりすぎていて気づきにくいものですが、こうした癖や悪習慣を変えることで組織が大きく変わることは多いものです。

アクションラーニングやファシリテーションの位置付け

研修には、3つの階層があります。
1段階目のAwareness Trainingとは、例えばアクションラーニングとはこういうものだと伝えるために、ファシリテーションの研修を3時間で行う、といったことです。
このレベルは、そういうものがあると知る上で即効性はあるものの、忘れてしまいやすいという欠点があります。

この上にあるのがSkill Trainingで、ファシリテーションスキルや、組織開発、アクションラーニングのトレーニングを行うというものです。
このスキルは当然仕事には活かせますが、組織全体のものに中々なっていかないという課題があります。

この上にあるのが、私はAction Learningだと考えています。
組織の中に根付いたAction Learningは、組織の体質を変える大きな力になるからです。
ただし、継続して行うために、組織のリーダーがリードしていくことはもちろん、時には外部の力を借りるという視点が必要です。
仕事が面白くない、活力につながらない一番の要因は、仕事を作業にしてしまうことです。
今やっていることをより楽しく、効率的に生産性を上げるためにどうしたらいいかと時々振り返る習慣を作れば、仕事にやりがいを持てるようになるはずです。
習慣化するためには個人ではなく、チームで定期的に振り返るようにするのが一番効果的です。
その時にファシリテーターがオペレーショナルな振り返りだけではなく、ストラテジックな、俯瞰的な視点からの振り返りを促せると、振り返り力は高まります。

アメリカの19世紀の思想家、ジョン・デューイ「私たちは経験から学ぶのではない。経験を内省するときに学ぶのだ」と語っていますが、ファシリテーターが全体像を見るような問いかけをしてくれると、振り返り欲が高まり、学習能力が高い組織に変わっていけるだろうと思います。
ファシリテーションは、物事を内省する上で触媒の役割を果たすものなのです。

 

清宮普美代代表 コメント

経営者としての知見蓄積のなかから、紐解かれる組織開発の意味合い、そして、リーダー、外部ファシリテータとしての役割り分析は、<さすが森さん>という、とても示唆に富んだお話でした。
当日のお話を前振りにして、参加者であるALコーチの皆さんとの対話はとてもリッチで、当初の森さんの目論見どおり(?)、対話の時間が全体の三分の二という時間配分になりました。
以下は、そんな対話の場からうまれた、気づきも含めてのコメントです。

組織開発の実践は、組織内の<癖>や<習慣>に気づき、変えていくことだと思います。
私自身も、組織に<質問する>癖をつけることを、実践としておこなっています。
実際、企業からは、「マネージャーにファシリテーション力をつけて欲しい」というオーダーをうけることが多いのですが、森さんの紐解きでは、知的で専門性が複雑にからむ仕事にファシリテーション力は必須。なぜなら、マネージャーが必要なすべての専門能力を持ち合わせていることはないので、他者の能力を引出すことが、マストの業務遂行になる。(逆に、シンプルな能力(特に身体的能力など)を必要とされている場合は、指示命令でいい)

ただ、私達が直面している問題は、複雑に絡み合っているし、多様な専門をもつなかでの<問題解決>には、どんな「問い」がたてられるかで、どんな課題が解決できるか、が規定されることにもなります。
森さんが、アクションラーニングの本質を理解してくださり、「組織の体質が変わるプロセス=アクションラーニング」としてくださったのが、聞いていた皆ストンと腹落ちしたと思います。
本当に「答えをすぐ出す」ことではなく、課題を設定するためにも、「質問する」ことを習慣化することが大事だと思いました。
清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。

メルマガ登録