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日本アクションラーニング協会情報

銀座の画廊から〜新しい時代の見える風景〜

Learning Base 2023「大人の教養シリーズ」がスタート!
第3弾はゲストに、銀座柳画廊の副社長を務める野呂洋子さんをお迎えしました。

ゲスト
野呂洋子

慶応義塾大学理工学部を卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。システムエンジニアとして、産経新聞のカラー化プロジェクト、日本アイ・ビー・エム社内システムの構築、国際営業部などに従事。
野呂好彦氏と結婚後、日本アイ・ビー・エムを退社、銀座柳画廊を野呂好彦氏と共に創業する。現在、取締役副社長として、マーケティング活動やセミナー開催、銀座の画廊巡りなどを手がける。
美術業界を考えるコラムを銀座柳画廊のホームページにおいて執筆中(土曜日発行)。

東京中央新ロータリークラブ所属。
日本ハンドボール協会 副会長
銀座柳画廊ホームページ:http://www.yanagi.com
ブログ:http://blog.yanagi.com/

美術館の来場者を目指そう

画廊とは、絵画を売るスペースです。銀座の画廊のご紹介をするにあたり、私たちはよく「美術館の来場者を目指そう」と言っています。
画廊には入ったことがないという方は多いですが、実は画廊は入場無料です。絵はやはり安いものではないですし、スタッフたちもそのあたりはよく分かっています。画廊に来ていきなりバンバン買うなんて思ってません。なので絵を買う前に、まず「来ていただく」ということを目指して仕事をしています。
画廊で働いてるスタッフの皆さんは、やはり美術にとても詳しいので、色んなお話を聞けます。お店の方と仲良くなったら、お茶やお菓子が出てきたりもします。

銀座の画廊を回る「夜会」というイベントも、定期的に開催しています。

現在銀座には200件以上の画廊があり、街自体が美術館であるとも言えるでしょう。また各県の物産館や、海外からの出展もたくさんあるなど、日本の文化の集積地でもあります。そんな銀座から文化を発信し、皆様に楽しんでいただくことで、日本を文化大国にできると思っております。


(銀座柳画廊の様子)

私が銀座柳画廊で働くまで

私は大学卒業後、日本アイ・ビー・エムでエンジニアとして8年間働いていました。そのときご縁があり、大阪の梅田画廊という老舗の三代目である、野呂好彦さんと結婚することになりました。
当時はコンピューターの走りの時代です。日本アイ・ビー・エムでは生き馬の目を抜くようなスピードでビジネスが動いていて、私はそんな中でも働きながら子供も欲しいと思っていたので、そうすると家業のある男の人と結婚し、子育て中は夫の家業でもお手伝いしてたらいいのかなみたいな、そんな軽い気持ちでいました。

ところが結婚後、夫が親元の画廊を辞めて独立すると言い出したんですね。しかも驚いたことに、夫は絵のことは詳しいんですが、人を雇ったり事務仕事をしたりというような会社を運営するための仕事が、まあ何もできないんです(笑)。
結婚前のエンジニア時代、将来的に会社を作るキャリアも考えていたので、これを機に私も退職し、退職金を出資する形で、夫を社長、私を副社長として「銀座柳画廊」を立ち上げました。巻き込まれるように画廊のビジネスに入ることになったわけです。

美術に関してはど素人だった当時の私は、最初は店番や掃除くらいしかできなかったのですが、やがて経理や在庫管理が全て手書きだったのに気付き、会計ソフトを導入したり、在庫もデータベース化して帳票や仕入れ表、買掛表などを出せる仕組みを作りました。日動画廊さんや泰明画廊さんなど、同じ銀座の画廊さんにもシステムを紹介して、非常に重宝されたりもしました。

とはいえ、美術業界ではIT業界から来る人ってほとんどいなくて、最初はよく「胡散くさい」って言われたものです。基本的に画廊で働く方々は、本当に絵が好きでおっとりと、ほんわかしてるんですよね。喋りもゆっくりな方が非常に多くて、私みたいに数字やコンピュータのことを立て板に水のように喋る人間は胡散くさく映り警戒され、初めは本当に苦労しました。なのでまず人となりを信用してもらうのに時間が掛かり、何がいけないんだろうかと悩んだりもしました。

ですが画廊を始めて今年で29年になり、分かってきたこともあります。

画廊を通して見る、美術業界でのビジネス観

美術業界は非常にアバウトな世界です。あまりロジカルではないですし、例えば絵描きさんが「これから絵を描くから100万円ほしい」と言ったら、平気で払ってあげたりします。
数字で詰めて生産性を上げて、合理的にお金を稼ぎ、浮いたお金が利益だと思っていた私にとって、絵の値段や絵の利益とは何だろうということについて、腑に落ちるのに20年くらい掛かりました。

これは私の今の解釈なのですが、一般の皆さんは一生懸命に合理的に稼いだお金で「無駄なこと」をしているんです。旅行に行ったり、ブランド物を買ったりなど「無駄なこと」をやることでストレスを発散しています。そしてアートも「無駄なこと」の1つだったりします。画商の仕事は、そうやって一般の方々がアートに注いだお金を、画家たちに分配することなのだと思っています。

アーティストという人種は、何かを表現しなければ生きていけない人たちです。お金持ちになろうという動機で絵を描く画家は嘘ですし、絵が描けなくなったら本当に死んでしまう画家もいます。そういう方の絵には、やはり迫力があるんです。
私が尊敬している画家たちも、絵がどんな評価を受けたかや高く売れたかどうかには、あまり興味がない方が多いです。それよりも自分の表現を追及し、絵を描くこと自体が生きることと本気で思っているのが、画家という存在なのだと思います。

類は友を呼ぶとは言いますが、買う側も仕事のように本気で絵と向き合い、絵を買う方もいます。最初は節税のために絵を買っていたが、どんどん真剣に集めるようになった方とも出会ってきました。その方が求める美術品を探し、紹介することもあります。
このように画家と買い手をマッチングさせ、画家が食べれるようにお金を回し分配するのが、画商の仕事です。

画家を応援するということ

私たち銀座柳画廊が扱っている画家で、岡野博先生という方がいます。
※銀座柳画廊のアーティストはこちらでご覧いただけます。

岡野先生は創業当時から柳画廊で応援していて、現在はグロービスの堀社長や、iPS細胞の山中伸弥教授などにも支持される画家です(特に堀社長は岡野先生の作品について、ブログやSNS等でも積極的に発信されています)。

色んな方々から応援される背景には、もちろん岡野先生の絵の素晴らしさがありますが、私たち画商が必死に彼を応援しているのが伝わったからだとも思います。絵を描くための取材費が欲しいと言われれば工面しますし、ショッキングなことが起きて1年半くらい絵が描けなくなったときも、生活を支えました。社長の夫に言わせれば「人間なんだから当たり前」とのことなのですが、そうやって画家さんの人生の色んな場面を一緒に歩むという経験をさせていただいています。

基本的にプロの画家には、必ずプロの画商がついています。画商は画家を最後まで応援し続けるという覚悟も必要です。そしてやはり画家と画商も、信頼関係が全てだったりするので、お金だけでない価値観の共有も必要な職業だと思います。

 

岡野先生の他にも、扱っている画家さんはたくさんいます。例えば写実的な画風の島村信之先生は、元々は会社員で週末に絵を描き、日展などで発表されている方でした。私たちもそこに観に行ってとてもいい絵だったので声をかけ、柳画廊で開いた個展で絵は完売したのですが、写実は描くのに時間がかかるので年に1枚くらいしか描けなかったんです。
そこで社長である夫が、柳画廊が全て買い取ると打診して、専業の画家となりました。そうなると絵を描ける量も増えてきて、写実ブームも相まって次第に絵も売れ、現在は千葉県のホキ美術館というところにたくさん彼の絵が入っています。

また有田巧先生は、フレスコ画という壁画を描く画家です。絹谷幸二先生というイタリア留学しフレスコ画を学び、文化勲章まで取られた方が有名ですが、フレスコ画は本当に手間暇がかかる手法です。漆喰の壁に顔料を染み込ませて、壁を薄く剥がしてキャンバスに貼り付けるというものなのですが、大抵の方はその手間の多さゆえに辞めてしまいます。
その中でも有田先生は若い頃からフレスコ画を続けていて、定期的にイタリアにも行かれている、非常に稀有な方なんです。独特な絵肌があるので、やはり人気な画家さんです。

*フレスコ画の書き方は銀座柳画廊の公式YouTubeからご覧いただけます。

絵画の価値とは?

先ほど、岡野博先生が絵が描けなくなったエピソードを話しました。例えばそのような場面で、画家を画商が見捨ててしまうと、ビジネスとしてどんなことが起こるでしょうか。

画商が画家から離れていくと、画家の評価や値段が下がり、相場がなくなってしまいます。
例えばかつては何百万で売れた絵が、何年か後に数十万でオークションに出されることもありますよね。これには色んな要因がありますが、画商が画家から離れたことも大きな理由の一つです。

そして絵の値付けは、とても重要な問題です。若い画家の絵は比較的安いですが、色んな方がその画家の絵を買うことで価値は上がっていきます。なぜなら一度つけた値段を下げることは、オーナーの支持を失うことを意味するからです。
絵のオーナーとしては、その画家の絵の値段が高くなってほしいので、売れないからと言って安くしてしまうと、今まで買ってくれた方は応援してくれなくなってしまいます。逆に皆さんも若い画家の絵を買うということは、クオリティの割には安いケースも多いのでオススメです。とはいえ、若い画家の絵を買うリスクとしては、やはり厳しい世界なので絵描きを辞めてしまうことが挙げられます。新しい作品を発表しなくなると、どんどん絵の価値は下がっていきますね。

また、絵の値段の決まり方は様々です。例えばシャガールはニューヨークに住んでいたユダヤ人画家ですが、第二次世界大戦後にイスラエルの「エルサレム・ウィンドウズ」を描くよう依頼を受けて描きました。ユダヤ人はその後、各国の金融の世界で力を強めていきますが、ユダヤ人の心の拠り所となる絵を描いた画家として、初期のシャガールは名声を高めていきました。
そうかと思えばフェルメールのような、死後200年経ってから評価を得た作家もいます。たまたま運と縁があったために、値段が上がった画家もたくさんいます。絵の勉強には終わりがありません。

美術品は歴史的な仮想通貨

また絵の評価は、絵そのものの価値だけでは決まりません。リテラチャー(どの文献や資料に載ったかの歴)とブロブナンス(誰が所有したかの歴)が、作品の付加価値になったりします。最近では前澤友作さんがバスキアの絵を買ったときのように、影響力のある著名人が所有したら値段が上がることもありましたね。またどこで展覧会をしたかも、付加価値になります。
したがって、作品だけが価値を決めるものではありません。

文献への登場や所有者の履歴などによって値段が変わるという特性は、美術品はトークン(仮想通貨)であることを意味します。通貨の価値は国が保証し、仮想通貨の価値はブロックチェーン技術が保証しています。美術品の価値は、その絵の持つ文脈が保証しているというわけです。
国際情勢や戦争などで国の信用が落ち、通貨の価値が下がることはあります。ハッキング等の技術的な問題で仮想通貨の価値が下がることもあります。しかし美術品は、国際情勢や技術の変化とは離れたところで保証があるため、まさにトークンと言えるでしょう。そういう意味では、画商は古くからあるプライベートバンカーのような役割も果たしています。

逆に作品が取引されず、いわば「死蔵」という状態になると、価値が上がることはありません。そのため画商の重要な仕事として、買取(蔵出し)が挙げられます。TV番組の「なんでも鑑定団」のイメージですね。
相続のときに蔵出しされることが多いですが、歴史的なものを遺族が知らなかったり、また隠していたりするケースもあるので、ここも特殊な仕事と言えるでしょう。

「貸し画廊」と「企画画廊」

画廊には「貸し画廊」と「企画画廊」の2種類あります。

「貸し画廊」とは書いて字の如く、壁とスペースを貸す画廊です。作家の審査があるところもないところもあり、時に学生さんに貸すこともあります。貸し画廊では、展覧会の案内も告知も作家が行います。銀座には画廊もたくさんあるので、面白い展示をしていれば噂にもなったりします。

一方「企画画廊」は、目利きである画廊が展覧会を企画し、案内や告知までを行うものです。画廊の人もプロの画家として伸ばしていきたい人にしか声をかけません。なので絵描きさんの世界では、貸し画廊でしかやらない人はアマチュア、企画画廊に展示してもらえる人はプロという感じだったりします。

「アートフェア」という大きなアートの見本市を聞いたことがあるかもしれませんが、実はアートフェアには企画画廊しか参加できません。アートフェアの主催者としても絵を見る目がある画廊に出てほしいですし、企画画廊をしていること自体が作家のクオリティの担保にもなるからです。

また企画画廊の中にも、現存の作家を扱わず物故作家(亡くなった作家)の作品のみを扱う画廊もあります。一般のお客さまだけでなく、いわゆるBtoBのように業者さんやデパートのみに売る画廊もあります。
このように一口に画廊と言っても様々な形があるのですが、外から見ても分かりにくいので、この辺りも皆様が画廊に入りにくい一因なのかもしれません。

とはいえ冒頭にも申し上げたように、「美術館の来場者を目指そう」という言葉を掲げて、画廊にまずは足を運んでいただくよう努力しております。皆さまのご来場をお待ちいたしております。

清宮普美代 代表 コメント

興味深かったのは、画商ビジネスにおいて即効的な利益を生み出す活動は全体の10%程度であり、残りの90%は主に才能や市場の育成に注力されていることです。これは、ある種の社会システムを構築であり、画商たちはこのシステムの守護者として、才能を発掘し、育成し、花開かせる役割を果たしているのです。
つねづね「学習」という形のないものの価値を社会に導入する仕組みづくりの一端を担っていると考えている私にとって、画商というビジネスモデルが数百年にわたって存在してきたことは驚きです。私たちが行っている活動も、社会的システムとして受け入れられ、定着するためには何が必要かを考える機会となりました。いま、信用、信頼を基盤とした社会のデザインが必要とされていますが、ヒントがいっぱいありそうです。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)

日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。

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