リーダーシップとバーチャルチーム 現代のチームコーチングが切り開く未来
2023年6月29日(木)、渡邊壽美子と清宮普美代による、トークセッションがおこなわれました。その内容を御報告します。前半は主に渡邊が、後半は清宮が中心に鳴り展開されました。
現代のビジネス環境は複雑化し、境界が曖昧になり、遠心力が強くなっています。このような中で、チームを一体感を持たせることは、リーダーやマネージャーにとって大変な課題です。そこで、現代のチームコーチングが注目されています。さらに、地理的な制約を超えてバーチャルチームがより一般的になっています。これにより、リーダーシップとチームコーチングのアプローチも変化し、新たなチャレンジに対応するための戦略が必要になっています。
目次
リーダーシップに求められるスキルと戦略
バーチャルチームは、時間と場所の制約がなく、メンバーが異なる地域や時差を超えて協力することができます。しかし、物理的に同じ場所にいないために直接の対話やコミュニケーションが制約されることがあります。この課題に対応するためには、リーダーシップにおける新たなスキルと戦略が求められます。
バーチャルチームでは、タスクの相互依存性やチームの規模など、効果性に影響を与える要素が重要です。バーチャルチームのリーダーシップには、二つの観点があります。一つは、目標を明確にし、それを達成するための報酬や認識を与える交換的リーダーシップです。もう一つは、新たなビジョンを提示し、変革を促すリーダーシップです。バーチャルチームでは、これらの両方のリーダーシップスタイルを持つ人材が効果的であるとされています。
バーチャルチームのリーダーシップを成功させるためには、コミュニケーション能力やテクノロジーに関する知識、多様性を認識して対応する能力、モチベーションを高める力、信頼関係を築く能力などが重要です。また、共有型リーダーシップの考え方も重要であり、複数のリーダーがリーダーシップを発揮し、相互に影響を与え合うことが求められます。
バーチャルチームのマネジメントは多岐にわたるため、1人のリーダーがすべてを担当することは困難です。共有型リーダーシップの考え方が重要であり、リーダーシップを分散させることが求められます。これにより、チームメンバーがそれぞれの得意分野でリーダーシップを発揮し、チーム全体の成果を高めることができます。
オンラインゲームとリーダーシップ
現在の研究では、バーチャルチームのリーダーシップに関するさまざまな観点が探究されています。今注目しているのは、オンラインゲームの中でのチーム形成に焦点を当てた研究です。バーチャルチームは、単なるオンラインの活動ではなく、バーチャルリアリティの中での共同作業として捉えることができます。リーダーシップを発揮するためには、現実世界と同様にチームメンバーとのコミュニケーションや役割分担が重要です。
これらの研究により、コミュニケーション能力や共有型リーダーシップの重要性が浮き彫りになってくるかもしれません。
個人の力だけでなく、複数の人が協力するチームの力も重要となります。働き方も変わってくるかもしれません。テクノロジーの別の側面は、スキルレベルやなどが、明示される世界かもしれません。学習履歴やプロジェクトでのチーム活動の履歴もデジタル世界に蓄積されていく世界が遠くないところで来るのではないでしょうか。
チームコーチが必要な理由(チームをコーチングすることがもとめられている理由)
現代のビジネス環境では、チームがより複雑な課題に取り組む必要があり、個人へのコーチングによる能力開発は非常に重要です。しかし、一対一のコーチングだけでは限界があります。そのため、チームコーチングが注目を浴びています。例えば、私のクライアントの中には80人の部下を持つ人がいます。その人はすべての部下と一人ずつ会話しなければならないと言っていますが、30分刻みでやっても1週間かかってしまうと言っています。それでは現実的ではなく、一人の人間がすべてを担当することは不可能です。チーム全体で協力し合うことが非常に重要だと思います。組織や効果性を求める際には必ずチームの存在があり、個人能力の開発ではおわらないのです。このように現代の社会状況の変化により、チームコーチがより求められるようになった理由は、マネージャーが直面する現実的な困りごとと密接に関連しています。
例えば、バーチャルチームの増加により、マネージャーはメンバー間のコミュニケーション不足や協力の困難さに直面しています。リモートワーク環境では、対面でのコミュニケーションや情報共有が減少し、チームメンバー同士の連携が困難になります。チームの一体感やコミュニケーションの向上を図るために、適切なコーチングアプローチを必要としています。
また、複雑な環境の変化や境界の曖昧さにより、マネージャーは組織内での協働やタスクの適切な配分に苦労しています。異なる部署やチーム間の情報共有や連携が不十分なため、業務の重複やミスコミュニケーションが生じることもあります。チームコーチの力を借りて、組織全体のシームレスな協力と効率的なタスク管理を実現したいと考えています。
さらに、多様性とインクルージョンの重要性が高まっており、異なるバックグラウンドや文化を持つメンバー間のコミュニケーションや協力の課題が浮き彫りになっています。
競争が激化するビジネス環境では、高いパフォーマンスの要求が増えています。チームメンバーのモチベーションやエンゲージメントを高め、効果的なタスク配分やロール分担を実現するために、チームコーチングの手法やアプローチを活用できます。
これらの現実的な困りごとは、マネージャーにとって日常的な課題となっています。チームをコーチングするスキルを活用することで、これらの課題に対応することができます。
チームコーチングとは?
チームコーチングとは、チームよる学習を促進し、持続的なパフォーマンス改善を実現するアプローチです。さまざまな言葉があり、混同されがちですが、チームコーチングは、単にグループコーチングやチームブルディングとは異なります。多くの研究者、実践者がチームコーチングを表現するエッセンスには、「チームのパフォーマンスを向上させる」、その場かぎりでない「チームによる学習」をうながすことをあげています。基本的には個人の能力開発ではなく、チームのパフォーマンスの向上がポイントであり、成長や学習への介入といったキーワードが出てきます。
チームコーチングでは、チームメンバー間の対話と振り返りが重要な役割を果たします。これにより、チーム学習が促進され、持続的なパフォーマンス改善が可能になります。チーム学習は、チームとそのメンバーが成長し、発展するための学習プロセスです。現実の業務に直接応用できる知識やスキルを獲得することができます。
チームコーチングの習得方法
チームに対するコーチングの習得方法については、過去20年にわたってアクションラーニングの概念や手法を活用して、実践の技術として現実の課題解決とチーム学習を同時に行っています。
アクションラーニングコーチ養成講座では、実際のチーム学習に参加することで、対話型のコミュニケーションが促進されることを体験し、具体的にチーム学習を誘発する関わり方を学びます。関係性を改善するだけでなく、メンバーが目標をしっかりと把握できるかどうかも重要です。チーム学習を誘発できることが現代のリーダーシップといっていいかもしれません。
単に問題解決するだけでなく、チーム学習を促進するような関わり方をすることが重要です。この手法はアクションラーニングと呼ばれ、アクションラーニングコーチというチームコーチが実際にチームを作り上げ、学習と問題解決を同時に行うものです。バーチャルチームにおいても、課題解決の中でさまざまなメンテナンスのプロセスを適切に整え、チームを形成することが重要です。
新たなコーチに求められる能力を考える際には、全体を見る視点やプロセスを見る視点が重要です。また、曖昧さを受け入れる柔軟性も必要です。
アクションラーニングコーチ養成で開発しているチームコーチとしてのスキル
チームコーチを育成する際の開発ポイントとしては、視点を強化すること、質問力の開発、メタ認知の提供があります。視点を強化するためには、コンテンツとプロセスを明確に分けることや、システム的な視点を持つことが重要です。また、チームメンバーの成長を促進するためには、振り返りの機会やフィードバックの提供をおこなう働きかけのスキルを養成します。具体的には、チームにいつ、どんな問いを投げるか、のようなことです。さらに、メタ認知の提供を通じて、チーム全体が俯瞰する力を養うことや、学習を喜ぶ文化を醸成することが大切なポイントです。。
アクションラーニングコーチのはたらきかけにより、仲間同士でコーチングを行うことで、一体感が高まり、お互いに助け合いの関係が生まれます。チームコーチングでは、メンバー間で目的や目標を共有します。時にリーダーが目的や目標を共有していると思い込んでいることもあります。
そのため、アクションラーニングでは個別のセッションでメンバーのニーズを聞いていきます。一方、チームコーチングでは組織全体の問題に取り組み、各メンバーの悩みがどのように関連しているかを共有します。これにより、チーム全体で共通の課題を把握し、解決策を見つけることができます。
チームコーチとアクションラーニング講座
2021年に国際コーチング連盟(ICF)がチームコーチのコンピテンシーについての取り組みを始めました。彼らは1対1のコーチスキルをベースとして、さらにチームコーチの能力開発を行う必要があると言っています。私自身は、チームコーチングには1対1のコーチングスキルとは別の基礎があるとおもっています。とはいえ、日本アクションラーニング協会が提携するWIAL(World Institute for Action Learning)は、ICFのグローバルパートナーでもあり、我々が20年にわたって実施している「アクションラーニングコーチ養成」は、コーチングの視点からみると、このチームコーチスキルを体系的に学べる講座であるといえます。
WIALのアクションラーンニングコーチ養成は、日本にいて20年の歴史があり、このプログラムを受講しているプロフェッショナルは多数です。また、グローバルスタンダードとして定評のあるもので、ICFの継続学習のグローバル認定講座になっています。また、「アクションラーニング研究と実践」という学術誌の特集号(2024年3月発行予定)は、WIAL(World Institute for Action Learning)のフォーマットに基づいたチームコーチ育成をテーマにしたものになる予定です。
ICFによれば、チームコーチにはパーソナルコーチとしてのスキルセットに加えて、チームに対するスキルセットが必要です。私は個人のコーチングの能力の上に、チームコーチングの能力も重要だと考えています。ICFとしては、コーチングのスキルを基盤として、アーティストのようにチームコーチを育成することを目指しているのかもしれません。
アクションラーニングは現実の課題に取り組み、チームで考え、解決することを指します。
今日的課題は動的にうごく
課題解決と、個人の学習とチームの学習の関係を図示した三角形は非常に重要です。この図は、パフォーマンスとは、問題解決の能力や成果を指すものではなく、個人の成長と意識変容が行われ、問題そのものが解決されるためのプロセスを示しています。パフォーマンスは動的なものであり、課題が常に変化し続ける中で解決していく能力が求められます。このような時には、チームコーチとしてのリーダーが必要とされるのです。彼らは問題解決能力だけでなく、問題が変化していく中での対応や、問題が動的であることを理解する能力が求められます。
私たちは、リーダーシップとバーチャルチームにおいて、チームコーチングの重要性を強く感じています。未来を切り開くために、アクションラーニングの実践からチームコーチングを組み合わせたアプローチを検討してみてください。
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プロフィール
日本アクションラーニング協会 代表理事
大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中
株式会社ラーニングデザインセンター
東京女子大学文理学部心理学科卒
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ(MALC)
大学卒業後、研修会社で、研修企画・人事コンサルティングの業務に携わる。大手自動車メーカー、製薬、食品、IT企業などのマネジメント、リーダーシッププログラム、ブランドマネジメントのプログラムの企画開発に携わり、100コース以上の研修コースの開発を担当し。大手企業の管理職養成に関与。2018年に、ブレンディンデッドラーニング・ファシリテーター養成コースを立ち上げ、450名の卒業生を輩出。共著『パフォーマンスを生みだすグローバルリーダーの条件』(2005年:白桃書房)
共著『コンピテンシーとチーム・マネジメントの心理学』(2009年:朝倉書店)
東京経済大学特命講師
一般社団法人日本フューチャーラーナーズ協会理事
特定非営利活動法人OD Network Japan 理事講座委員長