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日本アクションラーニング協会情報

Learning Base 2024「AL×未来スタイル」第2弾「世界最前線レポート〜AI技術の進歩が人材開発に与えるもの」

2024年3月に開催された「ATD Techknowledge 2024」と5月に開催される「ATD ICE 2024」、この2つの世界最大級の人材開発・組織開発の祭典に現地参加された浦山昌志氏をゲストにお迎えし、浦山氏が現地で体感した、人材開発の最前線を語っていただきました。

浦山 昌志(うらやま まさし)

株式会社IPイノベーションズ 代表取締役/ATDインターナショナルネットワークジャパン 理事
ユームテクノロジージャパン株式会社 取締役
ASTD Japan創設者でATD JAPAN日本代表 事務局長、日本代表を歴任
エンジニアの人材育成に30 年近く携わり、Cisco認定教育の日本展開やLMS導入の先駆者であり、人材育成のコンサルティングを幅広く手掛け、多くの海外の事例を元に、日本企業向けにアレンジした研修や人材育成計画への支援などを行っている。

新しい学びの夜明け

私たちは今、生成AI以前と以後という時代の転換点に立っています。生成AIが登場したとき「100年に1回の変化」とよく言われましたが、それどころではなく人類の歴史上でも最も大きな働き方や学び方の転換点だと、私は思っています。例えばコンピュータはチェスの名人に勝利しましたが、実は「チェスのアマチュア+コンピュータ」は、コンピュータ単体よりもチェスの名人よりも、さらにはチェスの名人+脆弱なコンピュータよりも強いことが分かっています。これは「人間+生成AI」の組み合わせによって、素人が絶大な力を持つ可能性を示唆しています。同時に人間だからこそ発揮できるパフォーマンスを考えるべきタイミングになってきたと言えるのではないでしょうか。
“Recharge Your Soul.”(精神性を再充電せよ)がテーマであった今回のATDでは、「AI活用力+人としての能力開発」の重要性が語られていましたが、それに加えて「チームとしての能力開発」も大切になります。

そもそもATDとは?

「ATD」(The Associaton for Talent Development)とは、約100カ国以上の国々に約40,000人の会員(20,000を越える企業や組織の代表を含む)をもつ、訓練・人材開発・パフォーマンスに関する世界最大の会員制組織です。カンファレンスは4日間の中で300以上のセッションが行われています。
多くの方が参加されますが、人それぞれの捉え方が異なります。色んな人たちの情報をもとに対話しながら全体像を捉えるプロセスでもあるため、正しいかどうかよりも私が見て横のつながりの中で対話して感じたことをお話しできればと思います。

今回のカンファレンスのLearning Tracksとして「キャリア開発」「インストラクショナルデザイン」「ラーニングテクノロジー」などが挙げられていましたが、AIというタイトルは付かないものの非常に多くの分野でAIの活用がキーワードとして散りばめられていました。

基調講演にみる「AI時代に必要な人間性」

その中でも3つの基調講演があったので、AIと人間がどうコラボレーションするか、人間としてどうあるべきかについて私なりに分析してみます。

基調講演1. マシュー・マコノヒー氏(俳優)「楽観主義と信念の力」

1人目の登壇者は『インターステラー』など数多くの出演作を持つ俳優のマシュー・マコノヒー氏。ご自分の俳優生活を振り返って、何が成功の理由かを語っていました。お話を分析すると、自分自身や他者、そして未来に対する信頼を持ち、目標達成や困難に立ち向かうための計画を立て練習が大切だと伺え、また精神的な指針や目標が大切であるとも語っています。その上で困難な状況でも前向きな態度を持ち続ける楽観主義が大切だと、お話の中で感じられました。
撮影の際は多くのセリフやアクションを覚え、練習するなど準備が必要です。その上で台本通りなのかアドリブなのか、そのバランスを取るために準備がとても大切なのだそうです。

基調講演2. ダニエル・ピンク氏(作家)「次のステップへの5つの提言」

2人目は『モチベーション3.0』などの著作で有名なダニエル・ピンク氏です。彼は執筆にあたり実際にかなりのデータから1つずつ論証します。今回のカンファレンスでは何か物事の次のステップに進むための5つの提言をテーマに話していました(これは様々なメディアでも紹介されています)。

  • やらないことリスト作成
  • 進歩の儀式:毎日3つ進歩したことを挙げる
  • HowからWhyへ会話転換
  • 休憩をスケジュールする:リーダーは模範を示す
  • より大胆な決断を今!

基調講演3. ヴィーナス・ウィリアムズ氏(テニスプレイヤー)「ポジティブ思考と意志力」

3人目は世界的な女子テニスプレイヤーのヴィーナス・ウィリアムズ氏です。実は彼女はテニスよりもビジネスでお金を稼ぐほどの才能を持っているのですが、その講演を分析するとやはり根底には「信念と意志力(Belief & Will)」があると伺えます。その上で困難な状況でも人生を楽しむことができる、ポジティブ思考と楽観主義を持っています。
そして彼女は家族のサポートの影響を語っています。妹のセレーナ・ウィリアムズ氏とのコンビも有名ですが、特に兄弟姉妹や両親との影響が個人の成長に寄与すると挙げていました。

以上の3つの基調講演からは、AI時代においても私たち自身の人間性が大切になるというATDのメッセージを伺えます。

AIがもたらす人類の発展

TK(TechKnowldge)の基調講演も2つ紹介したいと思います。

TK基調講演1. シネイド・ボーヴェル氏(モデル・コメンテーター)「A future with Artificial Intelligence」

シネイド・ボーヴェル氏はアメリカで、主にテック系のトピックに関するコメンテーターとして活躍されています。彼女はボストンコンサルティンググループのレポートを紹介しながら、AIを用いることで40%高い品質成果をあげられること、より多くより早くタスクを完了できること、低パフォーマーの働きを大きく改善できることを指摘しています。また自身のチャットボット(Digital Twin)を生成することで自分の代わりをするAIとなり、会議に参加しなくても質問するなど代役を果たせます。トロント大学はタンパク質構造データベースのAIを利用して、肝臓がんの治療薬を30日で設計しました。動物同士の言葉を解析するAIは、翻訳機能も果たすため動物との会話を可能にします。
※ボストンコンサルティンググループの資料はこちらからぜひご覧ください。

TK基調講演2. ミック・エベリング氏(発明家)「不可能という誤った考え」

ミック・エベリング氏は数多くの発明をしてきましたが、その全ては「困った人を助ける」というものでした。例えば目の動きで全身麻痺の人との意思疎通ツールを安く実現したり、スーダンの戦争で手を失った人に格安のコストで手を作ったり、パーキンソン病患者の手の震えを止める装置を作ることに成功しました。
彼の話から私は、困った人にコミットすることが、その人たちを理解することが、そしてそのためのテクノロジーを活用することで、人の助けになることを感じました。

※ミック・エベリング氏の登壇はTED Talkでご覧いただけます。

AIを活用した人材開発の事例

私も参加したセッションでは、各国の代表が集まり私たちの学びや人材開発に生成AIがどのように活用できるかをディスカッションしました。その中でUMUとATDで作った調査レポートの内容をご紹介したいと思います。
※22年と24年に1本ずつ作成しており、UMUに問い合わせると日本語訳したものを無料で入手できるので、ぜひ手に入れていただきたいです。

その調査の中で実に73%の人が、AIはPersonalized Learning Experience(個別最適化された学習経験)に有効と回答しています。私のパネルディスカッションではこの話を取り扱いました。

例えば従来の大学授業は、教員+TAで運営していました。日本経済大学では実証実験的に教員+AIをアシスタントとし、AIが作った確認テストを用いたり、AIが学生からの質問を受け付けることで、学生の状況をリアルタイムで教員が把握できるようにしています。授業外準備などの時間をAIを活用することで、授業内に完結させることができ、大学教職員の労働時間を年間1000時間削減を目指しています。

また「リフレクト」というサービスでは、学習者が振り返りを入力すると、AIが多方面からのフィードバックを即時で出力してくれます。フィードバックをしてくれるAIは「共感する」「褒める」など学習を促す行動が学習されています。また文部科学省の社会人基礎力12の能力の評価項目に従って、その人の社会人基礎力を測定するという機能もあります。人間によるフィードバックに「リフレクト」を組み合わせると、従来の上司と部下だけによるフィードバックでは手が届かなかった部分にアプローチができ、育成にかかる負担の軽減にも繋がります。

また他のセッションでも、AIを用いた人材開発についてのディスカッションがなされていました。AIリテラシーやチームのマネージャー・リーダーの役割、また中にはAIによるセールスロールプレイツールや、AIによる動画生成を用いた従業員面談のロールプレイなども紹介されました。

※ディーシェ大戸取締役によるATDレポートもこちらからご覧いただけます。

私たちは今、時代の転換点にいます。AIに生死はありませんが人間はいつか人生が終わります。だからこその人間らしさの中で、信念や楽観主義を持って人の力になれるよう毎日を生きていけたらと思います。

清宮代表コメント

私たちは、AIが組織の新しいチームメンバーとなる時代の到来を目の当たりにしています。これは5、6年前から予見されていたことですが、今や現実となりつつあります。浦山昌志さんのセミナーを通じて、私たちは歴史の転換点に立ち会っていると強く感じました。

AIの登場により、私たちの学び方は大きく変わろうとしています。組織も変わり、人材の育成方法や育成すべき人物像も変わるかもしれません。従来の枠にとらわれない新しい視点が求められる時代です。私自身、海外のカンファレンスに参加するたびに、日本と世界の動向の微妙なずれを感じます。正直これで、いいのかな~という焦りという感覚に近いものです。

浦山さんが示された「人間+AI」のコンビネーションは、私たちにとって大きな示唆を与えてくれます。AIが単にツールとしてではなく、共に学び、共に成長するパートナーとしての役割を果たす時代になろうとしています。例えば、AIが質問に答え、学習を支援することで、時間が有効に活用され、個々の成長が促進されます。

AI時代においても、人間らしさが求められることに変わりはありません。信念や楽観主義を持って、人々の力になれるような取り組みが求められます。私たちは、この時代の変化を恐れることなく、積極的に取り入れていくことで、より豊かな未来を築くことができると信じています。引き続き、AIと人間の協力による新しい時代を見据えながら、学びの場を創造し続けていきたいと思いました。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表理事

大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中
株式会社ラーニングデザインセンター
東京女子大学文理学部心理学科卒
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ(MALC)

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