女子大学でのリーダシップ開発 ~愛知県・金城学院大学の事例~
大学教育でアクションラーニング(以下AL)の活用がますます盛んになっている中で、女子大学におけるリーダーシップ開発に力を入れている金城学院大学の長谷川元洋教授にお話を伺った。
長谷川教授は、金城学院大学の国際情報部国際情報学科の生徒に対し、Woman‘s Leadership Initiative(以下、WLI) という名前で、一般的に語られるチームを引っ張るような男性的なリーダーシップではなく、「女性ならではのリーダーシップ」を身に着けることを目的に課目を開講している。
授業の中では思考力・問題発見能力・問題解決力・協働性・実践力・コミュニケーション力を磨くため、「質問」に重点を置き、質問会議のセッションも交えながらプログラムが進められていく。
WLIは1年生の前期(WLI A)と後期(WLI B)が必修科目で、2年次には選択制科目として前期(WLI C)と後期(WLI D)と進んでいく構成だ。2年次の授業では、ALのアウトラインを学んだ学生が1学年下の1年生の授業に出かけていき、ALセッションを行ったり、学校外の課題を扱いPBLを取り入れながら進められていくため、学生同士で学習をサポートし、エンパワメントする設計になっている。年次が上がるにつれて、課題の幅がクラス内からクラス外へと広がっていくことで、学生たちのコミュニケーション力・問題発見力・質問力が鍛えられる。
目次
長谷川教授が質問会議を授業に入れようと思ったきっかけ
きっかけは、2012年秋に学部のFD研修会で日向野幹也教授(当時:立教大学、現在:早稲田大学)から、立教大学におけるリーダーシップ教育の取り組みについてお話をうかがったことです。ご講演を聴き、「質問会議」がリーダーシップ教育のエンジンになっていると思ったため、2012年12月のアクションラーニング基礎講座を受講し、その後、2013年春にかけてALコーチ養成講座を受講しました。
「質問会議」を授業に導入することを決めたのは、ALコーチ養成講座を受講する過程で自分自身の他者との関わり方に変化を感じられたからです。権限がないときも発揮できるリーダーシップを身につけるには、「質問会議」はとても有効であることを自分自身の身を持って実感したことが、「質問会議」の授業導入の決定打となりました。アクションラーニングコーチ養成講座の最後のセッション後の清宮様との面接で、「質問会議は長谷川さんにとって、どのような意味がありますか?」という質問を受け、それに対して「質問会議は、自分の人生を変えるものだと思っています」と答えたことを覚えています。「質問会議」を知ったことで、自分自身が変化し、他者との関わり方が変わりましたから、その言葉の通りになっていると思っています。
また、「質問会議」によって問題を解消した学生の表情が、非常に明るくなったり温和になったりしたケースも目にしました。教員免許更新講習で、幼稚園から高校までの先生方向けに質問会議を体験していただくことも行っていますが、質問会議の中で長年悩んできた問題の原因に気付いた瞬間、「そうだったのか!」と感激される姿を何度も見てきました。質問会議を体験された方たちの関係は良くなるようで、講座修了後も30分以上、教室に残って話をされています。これは他の内容の講座では見られない光景です。「質問会議」によって、省察することで自分も周囲の人も互いにより良い状況を作り出していけることを実感しています。
質問会議を実践した学生の声
- 実際に質問会議を行った感想として、積極性が出せる、1年生でALに慣れていなかったり、発言を恥ずかしく思っている子もセッションの中では質問出来たりできる効果を感じている。
- 何度かやらないとコツをつかむのが難しいが、回数を重ねることに要領をつかんでALコーチとして介入できるようになった。社会に出る前のトレーニングとして有用だと思う。一つの課題をみんなで共有し解決していくことは今後とても役に立つと思った。
- 他の人から質問されることで、自分では気づけなかったことに気づける。
- 問題を抱えているひとに質問するフェーズで問題提示者のことを考えながら質の高い質問を意識するようになった。一つ一つの行動や悩みにより向き合えるようになった。
- 自分の意見を言うことが多かったけれど、質問でコミュニケーションを取れることを知り友人関係や家族関係で役に立っている。
- 質問の仕方や、答え方について考えるようになった。
- 相手の意見に批判する、自分の意見を通すことが大事だと思っていたが、質問によって相手を考えさせられることができることを知って、自分の対応が変わった。
- 初めに全然コミュニケーションが取れなかったが、2回目は試行錯誤うまくいって、コーチの在り方で場が変わることを実感した。工夫として、雑談をしたり、話せていない人にスポットを当てたりした。
- なかなか話さない子は問題が出てこない…そこを掘り下げ、問題に気付かせるように働きかけられることを学んだ。関わる下級生の思考の幅を広げられた
- 自分だけで考えていると行き詰ってしまうが、いろいろな人の意見を聞くことでそれを打破できると感じた。
- 問題を出すことが普段しないこと。問題だと思っていても深く追求しないし、普通の会話だとあまり考えずに話しているが、質問会議だとより本質的に考えられる。
- 問題提示者として出した問題が「問題に思っていない」ことを、みんなで共有して、質問しあえる環境を作れる。質問力が高まる。
- 全体の司会をやった中で6グループつくって5-6人で実践した時にそれぞれの特色がある中で、雰囲気を尋ねることで会話が進む。
- はじめは質問会議に対するイメージがわかなかったが、2回目はうまくできて、下級生と上級生の壁を壊すことができた。
また長谷川先生とともに授業を担当される岩崎先生は、次のように仰っていた。
学生たち自身がこの「質問会議」というツールを使って、少しずつ彼女たち自身の言葉にしていくことで成長の力点を見つけていくことができるのではないかと感じている。
学生たちは、グループワークの際、共感しながら物事を決めたり、進めていくことが多い。そのため「質問会議」はとてもマッチすると思うし、このツールを通じて共感性を大切にしながら問題解決できることを体感し、自分のスキルとしてものにしていけたらいいのではないかと考えている。
2019年度からは学生ALコーチ養成プログラムをWLI Cの授業内容に組み込み、学生ALコーチの養成を行っている。そのほかにも、キャリア支援や部活動内でのサポートなど、さらなる広がりが期待されている。
プロフィール
長谷川 元洋 教授
学位:博士(教育学)
所属:金城学院大学 国際情報学部国際情報学科 メディアスタディーズコース
所属学会:日本教育工学会、日本消費者教育学会、産業技術教育学会、日本道徳教育学会、情報ネットワーク法学会、日本質的心理学会、教育情報学会、日本科学教育学会、情報処理学会
専門分野:教育学、科学教育・教育工学、生活科学
研究課題:
・教育の情報化により顕在化する問題点や情報モラルの指導法に関する研究
・社会の情報化に対応した消費者教育に関する研究・ICTを活用した授業方法に関する研究
・リーダーシップ教育に関する研究
ALC取得年月日:2013年5月21日(火)
SALC取得年月日:2019年12月7日(土)
授業見学などお問い合わせはE-Mailにてghase(アットマーク)kinjo-u.ac.jpまで