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日本アクションラーニング協会情報

【越境学習×アクションラーニング】石山恒貴氏 #2020Learing Base

2020.4.28 Learning Base vol.3

学びを促進する要素は?
~ヒトの学びを科学する 越境する学習~

Guest: 石山恒貴氏(法政大学大学院政策創造研究科 教授)

【石山 恒貴 プロフィール】法政大学大学院政策創造研究科 教授。

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)
一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。 越境的学習、キャリア開発、人的資源管理等が研究領域

 

人生100年時代と言われる今、私たちは年齢や所属に捉われず、人生に学びを取り入れ続けるフェーズに入っている。
人は、一体何のために、どのような時に学ぶのだろうか。
石山氏は、目の前の利益のためではなく、自己実現のために学んでいくこと、そして子どもの頃のように、好奇心を持って学び続けることが大事だと語る。
そのために、職場など自分がホームだと感じる場所から一歩外に出る、「越境的学習」を推奨している。
効果的学びを生み出すという越境学習のもつ要素は、アクションラーニングのフォーマットとつながっているように思える。
今回は、ご自身もアクションラーニングのご理解が深い石山恒貴先生に、学びが必要とされる背景や、学びの実態を紐解きながら、越境的学習について語っていただいた。

 

人生100年時代で変化する生き方

以前「LIFE SHIFT(リンダ・グラットン他著、東洋経済新報社、2016)」という本がベストセラーなりました。
誰もが100年生きうる時代になっていることを説いた著書で、2007年生まれの日本の子どもの半分以上は107歳まで生きると言われています。
このような時代には、学びに対する考え方も変化していきます。
日本ではこれまで、

・学生の間はひたすら教育を受け、
・65歳前後まで雇用延長の仕組みの中で働き、
・その後は引退できる

という3ステージモデルでした。
しかし、100歳以上まで生きうる今、80歳まで働く時代になるとも言われています。
そこで、各々の意思で学びを深めながら、ミニ起業にチャレンジしたり、パレルキャリアを歩んだりと、複数のものに取り組む人生が描かれるようになってきたのです。

また人生で大事にされるものも、今までは貯金や住宅、年金といった”見える資産”に目が行きがちでしたが、これからはスキルや知識、仲間、自分についての知識や多様なネットワーク、新しい経験への開かれた姿勢など、”見えない資産”が大事になってきているわけです。

第四次産業革命による働き方の変化

さらに最近では、第四次産業革命によって、働き方がどう変化するかも話題になっています。
IoT、ビッグデータ、AI、ロボットによる技術革新が進み、労働が機械に代替されることを危惧する議論も生じています(ただし、こうした予測はしばしば、そのとおりにはならないこともあるようです)。
またシェアリングエコノミー、フィンテックという構造変化が次々と起こり、ICTの活用によるテレワークの普及や、シェアリング・サービスによる個人の役割提供の機会も増加しています。
厚生労働省の「働き方の未来2035」によれば、2035年には企業という枠は溶け、働き方はミッションや目的が明確なプロジェクト単位になるとされています。
これまでは大企業で同じような仲間と長い時間一緒にいないと大きなことができない仕組みでしたが、第四次産業革命によって3,4人くらいの知らない人同士がぱっと集まり、半年ほどで大きなことができる時代になったのです。
今までは”どんな会社の誰か”という肩書が大事だったのが、これからは”何が出来る人か”が大事になると思います。
こんな時代には、何をどのように学ぶのかが、その人の資産に繋がるともいえます。

42.5歳の分岐点

では、日本人の学びに対する意欲はどのくらいあるのでしょうか。
日本は現時点で、労働力人口のうち45歳以上の比率が53.8%もおり、この比率は今後も高まっていきます。
もしこれら45歳以上の人が学びを止め、成長しなくなったら、国力が低下して大変なことになりますね。
ところがパーソル総研の1万人調査によると、会社で出世したいと思う人より思わない人の比率が42.5歳で多くなると言われています。
つまり自分のキャリアの終わりを意識し始め、もう新しいことを学ばなくてもいいと思う人の方が多くなっている可能性があるのです。
原因としては、日本企業には役職定年など年齢に左右される仕組みがあったり、45歳程度で自分のキャリアの先が見えたりという、日本型雇用に特異の問題があるからです。

「学ばない人」が過半数

自己啓発と呼ばれる学習は、どの程度の人が行っているのでしょうか。
厚生労働省の平成30年度能力開発基本調査によると「会社に言われること以外で主体的に学んだことがあるか」という問いについて、実際に行ったことがある人は35.1%しかいないという実態があります。
正社員に対象を絞った場合でも、44.6%です。
つまり日本の正社員のうち、1分たりとも自分で学んでいない人が過半数以上なのです。
リクルートワークスの全国就業実態パネル調査2018では、さらに「なぜ学ばないのか」という理由まで掘り下げていますが、一番多い理由は「当てはまるものはない」。
つまり、人が学ばない理由に特に理由はないということですね。
2番目に多い項目が「今後転職や独立を予定しないから」というものですが、企業にいる人は転職や独立をしない限り、自ら学ばないのは当然だと思われているということです。
さらに興味深いのは、労働時間の経年変化を見ていくと、前年度より時間に余裕が生まれた人でも、必ずしも学ぶ時間の比率が増えているわけではなく、むしろ忙しくなった人の方が学びの時間を増やしているという点です。

越境的学習とはなにか

では、越境的学習とはどのようなものでしょうか。
越境的学習の定義は「企業の中にいる人が外に行って学習すること」とされています。
私は、もう少し広い意味で捉え「自分にとってのホームとアウエーを行ったり来たりして学ぶこと」としています。
ホームとは、そこに行くといつも知っている人がいて、用語も通じ、刺激はないものの居心地のよい場所のことです。
その境界は必ずしも企業間にあるのではなく、自分の心の中にあり、社内の階層や役職、地理や産業、職業、あるいは観光も、日常から非日常に行くという意味で越境的学習に含まれると考えています。
例えば人事異動も越境的学習ではないかと言われますが、異動先には慣れればやがてホームになってしまいます。
ですので私は、あくまで短期間での往還を含むものを越境的学習と呼びたいと思っています。

越境的学習は、例えばアメリカに留学して実生活の中で英語を身につけていくような、状況的学習に分類できます。(※アクションラーニングは状況学習モデルです)
日常における特定の文脈と切り離さない学びで、個人だけではなく、集団全体に相互作用的に学びがあるのです。
英語の教科書をひたすら音読して覚えるなど、一方的に何かを教わり、必要な場面で知識を引き出しながら活用していくような学習転移モデルとは区別されます。
状況学習的な学びは、ホームではこんなアイデンティティーを持っていたけれど、アウエーに行くと位置付けや役割が変わって、別のアイデンティティーが生まれる、といったことが起こります。
そのアイデンティティーの差分が学びになるわけです。

異質な者との対話

日本企業の人材育成は、OJTに強みがあると言われてきました。
OJTも状況的学習の1つで、例えばトヨタに入って改善が出来るようになるということを指します。
ではなぜ、状況学習の中でも越境的学習が大事なのでしょうか。
OJTは社内の人間が集う同質型の実践共同体と言えますが、今の時代はそれよりも、様々な専門性や職能を持った異質型の実践共同体でこそ学びが得られると思うからです。
私たちは生活文脈をともにすればするほどお互いが分かり合えたようなつもりになってしまいます。
でも、人間は本質的に孤独な存在で、分かり合えないものなのではないでしょうか。
異質なことが分かっている他者と、分かり合うために対話すること。
それが越境的学習のポイントだと思います。

越境的学習の気付き

では、越境的学習にはどんな効果があるのでしょうか。
NPOと社会人をつなぐ活動をしている、NPO法人「二枚目の名刺」では、活動を推進したいNPOの説明会に共感した人たちとの5人程度のチームで3ヶ月間のプロジェクトを行います。
集まった5人はバックグラウンドが全く違うわけで、必然的にアウエーな環境になります。
参加者にインタビューをしてみると、上司部下の上下関係がなく、社内用語が通じず、プロジェクトミッションを自分たちで考えることが求められ、それが学びにつながっていることが分かりました。
一人一人がリーダーシップを発揮し、多様性や曖昧性に自然と慣れていくことになり、さらには会社内と比べて前向きな失敗もしやすく、そこから学ぶ感覚も分かってきます。
何よりも参加者が学びに感じていたのは、企業内で培われた自分の中の常識、暗黙の前提に気づけるという点です。
プロジェクト開始後しばらくは、お互い分かったような気で会話を進めていけるものですが、1ヶ月ほどすると実は根本的に理解できていないことが分かってきます。
気づきが生まれて初めて、新たなものが創造されることは大いにあるのです。

越境的学習は、言葉を変えるとパラレルキャリアとも表現できます。
イギリスのチャールズ・ハンディは、人生には4つのワークがあると言っています。

・仕事に相当する有給ワーク
・家事・育児・介護の家庭ワーク
・社会に貢献するギフト・地域ワーク
・社会人大学院・趣味のサークルのような学習・趣味ワーク

この中の2つ以上のワークに真剣に取り組んでいると、越境的な効果が得られます。
家や仕事以外の、第3の居心地の良い場所をサードプレイスと呼んだりもします。
サードプレイスは様々な人が集って言いたいことが言える、地位や年齢が関係なく知識が創造される場になり得ます。
NPOや読書会、ボランティア活動など、サードプレイス的な場を持つことも越境的な学びになります。
こうした越境的学習は、東京の意識高い系の人がやると思われがちですが、例えば全国各地で行われている100人カイギやパラレルキャリアナイトなど、探してみるとちょっとしたきっかけは転がっているものです。

自己実現のための越境的学習

私たちが境界を超えて何かを学ぼうとする時には、いくつかの課題もあります。
例えば、学んだことをホームで活かそうと思っても「うちではそういうのいらないから」と迫害に遭ったり、時がたつと意欲が風化していったりということです。
でも、学びとはそもそも目の前の利益のために行うのではなくて、純粋に楽しいから、面白いから学ぶのではないでしょうか。
学習という文脈で捉えられると、意識高い系と敬遠されがちですが、興味から始まる一種のオタク的な行動な気がします。
画家のパブロ・ピカソは、こう言っています。

Every child is an artist. The problem is how to remain an artist once he grows up.

全ての子供たちはもともとアーティストである。問題は大人になってからどうやってアーティストのままでいるかということだ

アーティストの部分を学習者と置き換えても、同じことが言えると思いませんか。
私たちがいつまでも好奇心を持って学び続けることは難しいですが、越境的学習には自分で自分を幸せにしたり、自己実現していくヒントになるのではないでしょうか。

 

清宮普美代代表 コメント

石山先生とは本当に長いお付き合いです。
大学教授になられる前、ファーストキャリアの時代から、一貫して<学び>を探求している姿を拝見しているのでとても尊敬しています。
越境学習が、
①状況的学習であること
②異質性(多様性)との相互交流
を生み出していることは、まさにアクションラーニングのフォーマットが生み出すものと同じです。
アクションラーニングは、<実務課題を解決する>ことを<多様性>を担保した実践共同体で相互に対話しながら、互いの学びを深め合っているので、ある意味「越境学習」のひな型になりうるものです。
私自身は、アクションラーニングを活用した、サードプレイスで越境学習を生み出す場をつくりたいと思っています。

※ (せいみや・ふみよ) 日本アクションラーニング協会代表。株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役。
米国 ジョージワシントン大学 教育人材開発大学院(GSEHD) 修士。
マーコード教授のもと、アクションラーニングを学び、帰国。外資系金融人事責任者を経て、現職。