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日本アクションラーニング協会情報

【リベレイティングストラクチャー×アクションラーニング前編】伊藤保氏 #2020 Learning Base

2020.9.8 Learning Base vol.11
リベレイティングストラクチャー×アクションラーニング
~アウトラインの紹介とQA~
Guest: 伊藤保氏(OpExオフィス代表)
伊藤 保
現場に寄りそった課題解決を得意とするコンサルティング事業・OpExオフィス代表。
GE(ゼネラル・エレクトリック)のリーダーシップ・プログラムに選抜され、シックス・シグマのブラックベルト(課題発見・課題解決のリーダー)となって数々の経営戦略プロジェクトに従事。
その後、日本オラクルやジェネックスパートナーズでコンサルタントとしての経験を重ねる。
また、プロボノとして、ファシリテーションツール「リベレイティングストラクチャー」のユーザーグループでも活動している。
共著に「図解 組織を変えるファシリテーターの道具箱 働きがいと成果を両立させるパワーツール50」
単著に「フリップ 課題解決のための自由な視点や考え方を手に入れよう」

 

今、アメリカ西海岸で使われ始めているファシリテーションツール「リベレイティングストラクチャー」をご存知だろうか。
1980年代に様々な国際開発の現場でファシリテーターたちが開発したものをもとにした、オープンソース式のツール群だ。
現在33個のツールがリリースされている。
伊藤氏はこの手法を自身のコンサルティング事業で活用し、またプロボノとして日本で広める活動をしている。
今回はこのリベレイティングストラクチャーについて、2回シリーズで紹介していく。
第1回は、いくつかのツールをワークショップで体験しながら、その概要を紹介する。

 

アイスブレイクに効果的な「は茶め茶会」

みなさんが組織開発や社会課題解決の現場で話し合いをリードするときに、次のような困りごとはないでしょうか。

参加者の発言が少なく、当事者意識を高めてもらえない。
意見を求めるといつも同じ人が話してしまい、新しい展開にならない。
話し合いの中で対立が起こった時、どうまとめていけば良いのかわからない。
コロナ禍で直接集まるのが難しいため、オンラインでの話し合いをどのように進めたらいいのか知りたい。

これらの課題をまとめて解決してくれるツール群が、アメリカ シアトル発のファシリテーションツール、リベレイティングストラクチャー(以下:LS)です。
アメリカでは西海岸の名だたる企業、特にIT系企業での組織開発などに使われています。

試しに、お互いの自己紹介で「は茶め茶会」というツールを使ってみましょう。
アメリカではMad Tea Partyと呼ばれる手法で、語源は不思議の国のアリスに出てくる、延々とお茶会をしている人たちです。
対面では20人ほどが10人ずつの輪を二重に作り、内外のペア同士で質問を1つ共有したら1人ずつずれてまた質問を共有する、ということを繰り返す手法であることから、名付けられました。

オンラインで行う時は、チャット機能を使います。
まず、Zoomでチャットの準備をしてください。
次に、私がいくつかの質問をします。
みなさんはその答えをチャット上に打ち込んで、送信はせずに待っていてください。
「せーの」の合図で、一斉に回答を送信します。
すると皆さんが入力した内容が一覧化されるので、どんな方が参加しているのか、お互いに知ることができます。では始めましょう。

質問1は「今皆さんがいる場所を教えてください。」
せーの、どん。
東京、神奈川の他、大阪、静岡、岐阜、宮城ですね。
今日は比較的日本の真ん中にみなさん集まっています。

質問2は「コロナ禍が収束したら行きたい海外」です。
せーの、どん。
ニュージーランドが結構いますね。
アジア、ハワイ、ヨーロッパも人気ですね。
ありがとうございます。

3つ目の質問は、「今日のこの場に対する期待を1つの単語、または短い一文にしてください。」
せーの、どん。
LSとは一体何かを感じて帰りたい、新しいことを知りたい方が多いんですね。

4つ目の質問はちょっとシリアスです。
「今所属している組織や地域で一番解決したいことはなんですか」。
せーの、どん。
なるほど、ものすごくいろんな課題がありますね。

では一番最後の質問「今一番解決したい課題に対し、必要なサポートはどんなことでしょうか。」
せーの、どん。
情報共有の場、そもそも課題をきちんと定義するためのサポートがほしいなど。
なるほど。
ありがとうございました。

この手法のいいところは、とにかく全員がその場ですぐ参加できることです。
ミーティングやワークショップ、対面かオンラインかに関わらずアイスブレイクで用いると効果的な手法です。

 

1-(2)-4-All (ひとり、(ふたり、)4人、みんなで)

次に、Zoomのブレイクアウトルームを使って小グループになり、「1-(2)-4-All」という手法で話し合いをしてみましょう。
テーマは「普段の自己紹介と、先ほどのは茶め茶会による自己紹介にはどのような類似点・相違点があったか」です。
まずはひとりで、類似点と相違点について考えをまとめ、書き留めてください。
次に、お互いの考えを共有し、グループとしてのアイディアにまとめ、書き留めます。
この時、アイディアは足し合わせるのではなく、一言や短い一文にまとめてください。
その後ブレイクアウトルームから戻っていただき、代表者がまとめた内容をチャットに書き込んで、皆に共有してみてください。
それではお願いします。

…では、各グループで出た意見をチャットに上げていただきましょう。

「民主的で均等な感じがする」
「この場にいるのがどんな人の集団なのかを掴むのに向いている」
「短時間でいろんな参加者の話が引き出せる」、、、

ありがとうございます。

「1-(2)-4-All」は、他人に影響されずにいろんな人の意見を出せるツールです。
例えばセミナーやイベントの一番最後に、「何か質問はありますか?」と聞いても質問が上がってこない場面がよくあると思います。
僕はこんな時「1-(2)-4-All」を使って、まず質問について1人で考えてもらい、次にそれを隣り合った人とシェアして1つの質問にし、さらにペア同士でシェアして…ということを繰り返していきます。
すると、その場の質問のパターンが見えてきますし、1人1人が質問を考えやすくなるのです。

 

リベレイティングストラクチャーとは

リベレイティングストラクチャー(Liberating Structure)とは、意訳すると「何にも囚われない関係性構築の道具箱」となります。
参加者が肩書きや立場に囚われずに参加・貢献することができたり、一人一人の経験や意見を共有し尊重できる良さがあります。
自分たちのことを自分たちで決めることができますし、自己発見をすることもできます。
そしては茶め茶会に象徴されるように、やり方としては変わったものも多く、真剣な中でも遊び心を持てるツールになっています。
良くも悪くも参加者全員が巻き込まれていくので、貢献意欲や参加意識を高めることができ、話し合いを進めやすくできるツール群です。
今正式にリリースされているのは33個の道具で、OSのLinuxと同じオープンソース式ですので、世界中の人たちが集まって順次開発を行っています。

LSは名前に”構造”という意味が入っていますが、作り手はどのツールも次の5つの要素から説明ができるように整理をしています。

1 問いかけ「どういう問いを立てるのか、どんな質問をするのか」

2 場作りや機材「話し合いを進める上でどんな場作りや機材が必要か」

3 参加者の関与・貢献「参加者がどんな風に関与して貢献するのか」

4 グループ構成「ひとりでやるのか、みんなで一斉にやるのか」

5 ステップ「どんな順で、どんなアジェンダで話し合ってもらうか」

普通の自己紹介と、は茶め茶会を比較してみると、1の問いかけは普通の自己紹介では「私の話を聴いて!」というものですが、は茶め茶会は「みんなのことを教えて!」という問いになります。
2の場作りとしては、1対大勢でスライドを上映するイメージではなく、ない混ぜになっています。
3の参加者の関与・貢献という点は、発表者のみではなく皆に等しく関与する機会があります。
4のグループ構成はひとりではなく、皆で一斉に行います。
そして5のステップでは、一人の発表者が淡々と喋り、ほとんどの時間が発表になるのではなく、ファシリテーターが問いかけて、皆がチャットに入力します。
つまりLSには参加者がフラットな関係で話し合うための仕掛けがあるということです。
この33個のツールを、ケースごとに適切に選ぶために「LS Selection Matchmaker」というツールもあります。
どんな目的、どんなチーム状況の時にどのツールを使うと効果を発揮するかが一覧表で分かるようになっているのです。

 

Conversation Cafe

次に、今日集まっている皆さんの関心事である「組織開発、職場をよくすることとアクションラーニングについて」話し合っていただこうと思います。
ここではConversation Cafeというツールを使ってみましょう。
Conversation Cafeは、アメリカの同時多発テロが起こった後、現地の皆さんが不安に駆られている中、様々な教会で心を落ち着けるために行われたものがもとになっています。

ブレイクアウトルームで小グループを作り、ホスト役の方が順番にみなさんを指名していきます。
今日は組織開発やアクションラーニングについて考えていること、感じていることを1人1分程度で話していただきます。
一巡したら、今度は他の人の話を聴いて考えたこと、感じたことを1人ずつ短いセンテンスで話します。
その後、それまでの話を手がかりに10分ほどでフリーディスカッションをしてみましょう。
最後に再び、1人ずつこの対話で得たことを短いセンテンスで話します。
9/29の第2回では、ここで出たお話をもとにLSを使って対話を深めていきますので、最後はホストの方が話したいポイントをチャットに書き込んでください。
ホスト役に期待される役割は、グループ内でファシリテーションをすること、話をしてくれた人に感謝を示すことです。
また結論を急いだり、誰かの話しに否定的な発言が出た場合や、話が止まらない人を優しく制止する役割もあります。
では話し合ってみてください。

<カンバセーションカフェの対話後>

…ご意見を見てみると、場作りの難しさについて感じている方が多いですね。
他にも、思っていたよりたくさんのことを挙げていただきましたので、これをもとに次のテーマを決めさせていただきます。

LSについては、英語版の書籍「The Surprising Power of Liberating Structures」にもまとまっていますし、ウェブサイトでもパブリックドメインとして公開されています。
日本語版は私を始め何人かでFacebookページにまとめている他、ツールの使い方の細かい解説やワークショップの案内をしているサイトもあります。
LSは、ツールによりますが参加人数にも特に上限はなく、僕自身が一番大人数でやったものは400名参加した回がありました。
引用元を表示さえすればどんな方でも使うことは可能ですので、ぜひ活用してみてください。
(例)このページの最後にあるLSのクレジット表示を参考にしてください

スマートフォン・アプリ(無料)
2021年3月23日・日本語版リリース!
[AppStore] 「Liberating Structures」で検索
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清宮普美代代表 コメント

リモート環境だからこそ、会議の活性化が緊喫の課題になっている組織も多い。
職場の社会的交流が制限されているので、職場のコミュニケーションに課題を抱えているのは、マネージャーはほぼ全員じゃないだろうか。
伊藤さんが冒頭紹介した活性化しない会議、「参加者が発言しない(特定の人しか発言しない)」「当事者意識が希薄」「オンラインの話し合いが活性化できない」というような問題を解決したくて、質問会議を導入する組織は多いだろう。
今回、伊藤さんが紹介してくれた<リベラルティングストラクチャー>は、複数人のコミュニケーションの場をつくる人間にとって、知っておくべき技術。
ただ、とても興味深いのは。ファシリテーションテクニックのオープンリソースで活用していて、コミュニティ化しているということ。
そして、構造そのものをリソースにしていることが単なるテクニックにどとまらない。
作り手の5つの要素は、まさに組織開発者としての自分の働きかけを考えるポイントになっている。
アクションラーニングコーチとしての、場へのかかわり方や、チームの学習を促進していくスタンスを構築するのにとても役立つ視点だと思う。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ

 

東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。

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