【1on1でピープルマネジメント変革】立野夏樹氏 Learning Base 2021 vol.3
上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業
• カルピス(株)に入社にて量販店・卸店むけの営業を経験後、タイ現地法人にて事業企画、現地スタッフ200名の販売会社の営業マネジメント等に従事
• (株)セルムにて、一部上場企業を中心に組織開発・人材開発コンサルティングに従事。人材戦略アドバイザリー、組織開発プロジェクト推進、経営リーダー・次世代リーダー育成プログラム設計、管理職向けマネジメント強化プログラム企画を多数経験。システムコーチング、コーチングを活用したビジョン策定オフサイト、組織開発WS等にも登壇
• 2020年2月(株)KAKEAI入社。営業責任者として事業計画・営業戦略の策定を中心に、マーケティング・カスタマーサクセスも含めた事業立ち上げを現在進行中
目次
1on1で負担を減らし、対話の質を高める
ピープルマネジメントにフォーカス
株式会社KAKEAIは2018年4月に設立され、私は2020年2月にジョインしました。KAKEAIというサービスは業務マネジメントではなく、ピープルマネジメントにフォーカスしています。業種、職種や制度によらず、どの組織にも存在する1対1の対話や部下の育成に関すること、そこで陥っている状況への適宜適切な対応を起点にしています。昨年ごろから国内外の様々なHRカンファレンスにお声がけいただく機会が増え、個の最適な関わり方を支える「次のHR tech」「Work tech」として評価いただけるようになりました。
現在KAKEAIのベーシックな機能は「負担を減らし、対話の質を高める1on1サポート」「ピープルマネジメントのナレッジ蓄積・展開」の2つです。9割のお客様がこのシンプルな機能のみを利用しています。
部下の心づもりを事前に知ることで、対話がスムーズ
KAKEAIのシステムには上司向けと部下向け、2種類の画面があり、それぞれやることはシンプルです。まず部下が1on1の前に、話したい「トピック」と、相手にどんな風に関わってほしいかという「期待する対応」の2つを選びます。
トピックには業務の進捗や進め方、人間関係、心身の状態、今後のキャリアといったものがあり、それぞれに対して、「具体的なアドバイスがほしい」、「一緒に考えてほしい」、「話を聞いてほしい」、「意見を聞きたい」、「報告したい」という期待する対応を選べば、準備完了です。いざ1on1をやると言われても、それまで業務のホウレンソウしかしていなかった方が、いきなり自由に話すのは難しかったりしますので、気軽に自身の思いを選択しつつ、意思を持って1on1に取り組めるようにしています。
上司には部下の設定が通知されますので、これを事前に確認するだけです。よく傾聴が大事、といった研修をすると思いますが、いざ1on1の場になると上司がたくさん喋ってしまうケースは結構ありますよね。部下の心づもりを事前に知ることで、上司も1on1の30分、1時間のイメージが掴みやすくなって、対話がスムーズになります。
1on1でピープルマネジメントのナレッジ蓄積・展開
1on1のヒントをお伝えする機能
そして上司には、世の中の管理職の皆さんが1on1の時に意識していることのヒントをお伝えする機能があります。例えば「答えを決めつけないで聞く」「『その年次なら普通は…』といった発言をしないように注意する」といったナレッジをシステムに蓄積し、部下が選んだテーマに応じて展開する機能です。
シンプルなTipsですが、1on1の時に1つ意識してみると質が上がるようなものを届けています。あとは実際に1on1に取り組んでいただきます。KAKEAI上のオンライン会議システムも利用できますし、対面のコミュニケーションでも同様に利用できます。1on1が終わった後、会話の内容をメモできたり、宿題を記入してカレンダーに残すこともでき、次回の1on1をスムーズに展開できるような工夫もあります。
1on1のフィードバックは、シンプルに
部下の評価の集計結果がわかり、上司の得意、苦手がわかる
終了後、部下には1on1の「すっきり度合い」を入力してもらいます。率直に答えていただくことを優先するため、上司には誰がどんな風に答えたか、個人が特定される形では伝わらないようにしています。ただし部下全員の結果を集計して、振り返り材料としてフィードバックする機能があります。過去1on1をやった部下はどんな風に捉えているのか全体像を掴める項目や、トピック×対応のマトリクスで部下の評価の集計結果がわかり、上司の得意、苦手がわかるようになっています。
1つでもポイントを意識して生産的な時間を提供
そして回数を重ねると、テーマごとに上司の得意苦手を事前に顔文字でお届けできるようになります。これは評価ではないので、上司の方の事前のマインドセットが必要ですが、得意なテーマはいつも通り自然にやりましょう、苦手なものは何か1つ変えてみましょう、そんな捉え方をしていただくものです。上司部下でコミュニケーションをとる時、上司の方からすると何も手応えがないのが一番やりづらいのではないかと思うのです。良いフィードバックであれば、時間を使ってよかったと思えるでしょうし、すっきりしていなかった場合、そのまま1on1を続けることはお互いにとって非生産的な状況が続くことにもなります。1つでもポイントを意識して生産的な時間になるきっかけになったらいいなと思っています。
人事機能のサポートでなく、現場リーダーを支援する1on1ツールへ
KAKEAIは、人事の方向けというより、現場で日々働いているマネジャーやメンバーの方向けという点が大きな特徴です。特に今年からは事業部門や部長といったファーストラインの方から直接お問い合わせをいただくことが増えており、現在80社強のお客様の半数以上が人事以外の窓口です。
元々、人事の役割とされることが多かった1on1ですが、リモートワーク中心になって人事は現場が見えなくなっているため、現場のパワーが強くなっているのを感じます。環境や評価、報酬、配置など、当然人事が行う役割も残っていますが、現場で働く皆様にとって一番インパクトがあるマネジャー、管理職の皆さん向けに、現場での日々の関わり、マネジメントの支援をすることにこだわっています。
テクノロジーで、1on1のコミュニケーションの「量」だけでなく「質」も担保
ピープルマネジメントという文脈
2020年1月ごろから、大手の企業様を含めお問い合わせが相当増えています。要因として考えているのは、労働力人口減少や多様化によって集団のマネジメントから個のマネジメントへ移行しているという点や、VUCAの時代にあって目標管理や業務マネジメントだけでは限界があり、より個の力を引き出すピープルマネジメントという文脈が出てきていること、上司部下のコミュニケーションの問題、現場の最前線のマネジャーの重要性や難易度が高まる中で、コミュニケーションの「質」の問題が出てきている、といったことです。リモートワークが中心になり、zoomやTeams、slackなどでコミュニケーションの量は担保できるようになっていますが、「質」へのアプローチは足りない部分もあるのではないでしょうか。KAKEAIはこの「質」の部分にチャレンジしています。
1on1の成果 離職率の減少、業績への寄与成果が表れる
我々の取り組みが効果を発揮しているかを調べるため、実際の営業組織で実験をしてみました。KAKEAIを導入した組織では、そうでない組織よりも「上司に適切に関わられていると感じる」という回答が先行指標的に上がっていき、相対的に離職の指数が有意に下がり、業績の指数が有意に上がりました。この営業組織では有意差が利用後4、5ヶ月目から発生しました。時間軸や有意差の幅は企業差があるとは思いますが、少なくとも上司の関わり方というのはそれだけ大きなファクターだということは確信を持てるようになりました。また、上司部下のコミュニケーションの質に関しても「対話がスムーズになった」「対話の質の向上を感じる」「心理的・物理的な負担が減った」といった項目で効果が現れています。
1on1の関わりをデータ化することで、マネジメントの見える化が図られる
メンバー状況のブラックボックスの可視化
これまで、現場の上司部下の関わりは個人知化され、曖昧なままでした。どんなマネジャーが、どんなメンバーに、どのような状況でどう関わり、メンバーがどう変化したか、といったことは、ブラックボックス化しがちです。
ピープルマネジメントの組織知化を目指す
KAKEAIでこうしたプロセスにアプローチし、近い将来、上司が自分の得意・苦手やメンバーのイメージする将来が分かるようになり、こうした働き方を伸長させたい・したい、こんな方針で関わり、日常的にはこんなことをし、結果パフォーマンスが向上した、成長が実感できたといったピープルマネジメントの組織知化ができることを目指しています。また企業・地域、世代を超えたケーススタディーの真似し合いや、現場マネジャーの助け合いができるようにする、という構想もあります。
KAKEAIはテクノロジーを活用し価値を提供
このようにKAKEAIは1on1の対話の時間そのものよりも、事前事後にテクノロジーの力を活用することで、サイクルをうまく回していくツールです。
実際、KAKEAIだけを導入している会社は存在しませんので、日々のコーチングや関わり方のスキルは研修やeラーニングのコンテンツで取り入れながら、掛け合わせで取り組んでいくものだと思います。私自身は元々人だからこそできることにずっと取り組んできましたので、人とテクノロジー両方がうまくつながることで、より世の中に価値を提供できるのではないかと思っています。
テクノロジーの力で、現場マネージャ―の1on1をサポートする
私自身、以前組織開発・人材開発のコンサルティングをしていたときに、集合研修の場は盛り上がるけれど、現場の日常に活かされないといった場面にも出会ってきました。またファシリテーションやコーチングを実践してみて、こうした分野に全員が関心を持つとは限らないなと感じることもありました。例え興味がない皆さんでも日常がちょっと変わるような、シンプルな型があったらいいのではと思った時に、テクノロジーの力が活きるのではないかと、敢えてこの領域にはいってみました。
1on1がうまくいかずに困っているというケースが多い
KAKEAIがテクノロジーでサポートしていることにおいては、組織に導入してメンバーの関係性を深めるのか、すでに馴れ合いになっている組織でイノベーティブに舵を切りたいときに導入するのか、どちらのニーズにも応えられます。実は、前者は現場の方からの問い合わせが多いです。そのような場合、1on1をやりたいという言葉ではなく、マネジャー自身が相手のことを理解して、話しやすい環境を作ることでパフォーマンスを上げたい、という文脈でお声がけいただくケースが多いです。後者は人事の方からが多く、いわゆる1on1をやってみたけれどうまくいかずに困っている、というケースが多いといえます。
KAKEAIが本音を出す場をつくります。
はたして、人の介在しないテクノローのシンプルな仕掛けだけで、部下の本音をどこまで引き出せるのかが疑問、という声はよくあります。ただ、我々もテクノロジーの仕掛けだけで全てを解決できるとは思っていません。ですが例えすぐに本音が出てこなくても、続けていくうちに、ちょっとしゃべってみようかなと思うようになるケースはあります。そうした場をつくるためにも、KAKEAIというサービスは必要ではないかと考えています。
対面でできることと、テクノロジーができることで1on1が最適化をする
対面のメリット
私個人としても、対面でないとできないことはたくさんあると思っています。言葉にできないけれど空気や相手の動きから感じるものといったことは、実際とても大きいと思います。やはりその場ですぐに話ができる意味合いはとても大きいですし、集まるためのコストを上回ることもあります。
テクノロジーのメリット
一方で、テクノロジーだからこそより多くの人に一斉に場を作ったり、端的に物事が進んだりするということもあると思います。ですので、どちらにも意味があって、どちらがよりメリットがあるかの判断を重ねながら最適化していくことになります。
蓄積しているナレッジの展開とピープルマネジメントに関わるサービスを展開
今後にむけての展開は大きく2つです。まずは蓄積しているナレッジの展開の仕方です。もっと状況に応じてパーソナライズさせた情報を、タイムリーに提供していきたいという思いはあります。
もう一つは、1on1以外のピープルマネジメントに関わるサービスを展開していくということです。
一対一の関わりにおけるあらゆる接点でコミュニケーションを補助できるような機能を拡充していきたいですね。でも、まだまだ描けていない新しい選択肢があるような気がしていますし、まずは1on1の部分を深ぼっていきたいという思いです。
清宮普美代代表 コメント
1on1の対話のプラットフォームサービスの実態を伺うなかで、テクノロジーが実装する際の<シンプルさ>の重要性を考えさせられました。テクノロジーは可能性を広げるが、あくまでツールであって、<魔法>ではない。制約のなかで、絞りきる、シンプルにすることがその効果をあげることにもつながることがわかりました。
そして、今、学びへのニーズは、組織野どこかに集約されているのではなく、それぞれの現場(マネージャー)にあることが、話を聞いていてすごく理解できました。正直人事部で設計した<学び>はもうあまり機能しないのではないでしょうか。現場で自分たちに必要なものを取っていく。本当に役立つことしか残らない、そんな時代だと思います。
立野さんは、私の知る限り、場の空気を読み、プロセスに働きかける素晴らしいファシリテータ(ALコーチ)です。そんな彼が、HRテック ODテックの最前線で活躍してくれていることが、ちょっと嬉しいです。テクノロジーとの融合のなかに、これからの<学び>の世界はあると思うから。
日本アクションラーニング協会 代表理事
ODネットワークジャパン 理事
株式会社ラーニングデザインセンター 代表取締役
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、(株)毎日コミュニケーションズにて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中。