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日本アクションラーニング協会情報

【成人発達理論×アクションラーニング】立石慎也氏 #2020Learing Base

2020.5.19 Learning Base vol.5

成人発達理論×アクションラーニング

成人の発達を促す「問いかけ」とは?
~成人発達理論からみたアクションラーニング~

Guest: 立石慎也氏(成人発達論実践家、コーチ養成トレーナー)

【立石 慎也 プロフィール】

識育コーチング研究所 代表
パフォーマンスデザイン有限会社 代表
ICC(International Coaching Community)国際コーチング連盟認定 トレーナー(コーチング、チームコーチング)
「ICC国際コーチング連盟認定資格×成人発達理論」

成人発達理論等を援用し独自に開発した意識を育むフレームワーク「識育コーチング®︎」を用いて、エグゼクティブ(経営者やプロのアーティスト(映画監督、画家、作家、漫画家、音楽家、ダンサー)など)とその組織向けに創発的対話を提供。人材開発・組織開発系コンサルタントをはじめプロコーチや人事関係者向けに、共創や創発性を高める研修やコーチング・トレーニングを提供している。

 

人生100年時代、いまや人間の知性や意識は生涯をかけて成長・発達していくことが前提となっている。
そのプロセスとメカニズムを体系化しているのが、成人発達理論です。
立石氏は、アクションラーニングシニアコーチでもあり、パーソナルコーチングと掛け合わせたセッションをエクゼクティブやアーティストに対し実践し、組織開発にも応用している。
成人発達理論とは何か、大人の学び方や学生と社会人の意識の枠組みの違い、成人発達理論とアクションラーニングの関係性について語ってもらった。

 

大人の学習と成人発達理論

私たちが学生の時期に行っている主な学びは、ラーニング、つまり知識やスキルを詰め込むことです。
これは意識の枠組み自体は変化させずに、何かを教わることで知識やスキルを獲得することを指します。
一方、社会人になると必要になるのは実践です。
目の前にある状況に対応するために、自身の枠組みの継続的なバージョンアップが求められます。
その時に、それまで持っていた自分の知識や価値観を批判的な視点で捉え、ときに手放すプロセス、アンラーニングが重要になるのです。
既存の枠組みが揺らぎ、脱構築され、新しい枠組みが生成されるのは、未経験の人にとっては気持ち悪い感覚ですが、大人になってからの学習には欠かせないプロセスです。
人生の中で成長し続けようとしたときに、いかにラーニングとアンラーニングをバランスよく進めるかが重要です。

 

成人発達理論とは

ロバート・キガーン※1は1982年に、人の意識の構造は段階的に生涯発達していくという理論を提唱しています。
段階は1から5まであり、段階を追うごとに主体と客体、すなわち自分と他者交互に軸足を置きながら成長するとしています。抽象的な概念を扱えない段階1を経て、段階2は道具主義的段階と呼ばれ、自己中心的な世界観を持って生きている人を指します。
段階3の他者依存段階に上がると、軸が自己から他者へ移り、他者に依存して意思決定を行う人、簡単に言うと集団の”空気を読む人”が相当します。
段階4は自己主導的段階と呼ばれ、軸が再度自分に戻り、自分なりの価値観に基づいて意思決定ができるようになります。
段階5は自己変容・相互発達段階と呼ばれ、多様な価値観や意見を汲み取りながら意思決定ができるようになります。
この段階に入ると、何かの理論や誰かの言うことではなく、森羅万象や周りの出来事に軸が移り、実際起こっている事象をよく観察するようになります。
発達段階は年齢とは直接的に関係はありませんが、年齢ごとに変化する環境には影響を受けます。
例えば学生でいる年齢、社会人になる年齢、その中でリーダーになっていく年齢はおおよそ共通するため、段階2は15歳ごろ、段階3は25歳ごろ、段階4は40歳ごろという目安があります。特徴的なのは、次の段階に進むまでには10年から15年ほどはかかるということ、かつ必ずしも成人が皆こうした成長を遂げているとは限らないということです。
段階5に相当する人は成人の1%未満と、かなり少ないと言われています。

 

アンラーン(学習棄却す)することで、世界をとらえなおす

学習について、ピーター・M・センゲは著書「学習する組織」※2で
「真の学習は、『人間であるとはどういうことか』という意味の核心に踏み込むものだ。
学習を通じて、私たちは自分自身を再形成する。」
と述べています。
これはラーニング(学習)・アンラーニング(学習棄却)の話とつながります。
学習を通じて、私たちは世界の認識を新たにし、世界と自分との関係をとらえ直す。
学習を通じて、私たちは、自分の中にある創造する能力や、人生の生成プロセスの一部になる能力を伸ばす
。」
という文では、成人発達理論の段階5の捉え方が表されています。
また「学習する組織になるためには、「適応学習」は私たちの未来を創造する力を高める学習である「生成的学習」と結びつかなければならない」としています。
適応学習はラーニング、生成的学習はアンラーニングに相当し、自分自身の考えではなく、そこで何が起きているのかということに軸を置けるようになることが大事だと、ピーター・M・センゲも語っているのです。

 

2つの無意識的意味構造構築:現実を認知することと、意味付けを与えること

成人発達理論が着目するのは、スキルでもなければ個性でもなく、その人が直面した現実を解釈するときにどんな意識を使って物事を捉えようとするのか、そうした深いところにある意識構造の部分です。
例えば段階4の自己主導的段階にいる人は、自分自身の素晴らしい持論を持っていますが、これは例えば、本から学び獲得できるようなスキルとは異なります。
成人発達理論が扱う領域を私の言葉で表現すると「直面した現象を意識化する、言語化するときに基盤となる意識構造」といえます。
人が物事を認知して行動に移すまでのプロセスを考えてみましょう。
まず感覚器官を通して表象レベルで何が起きているかを理解します。
これを認知するまでには、反射的に情動が起こり、そこで出来事が起きていると分かる前の、無意識的な意味を生成する段階があります。
これが成人発達理論の領域です。意識的に「これはAだからBだ」というようにシステム思考的に考えることとは異なります。
無意識な意味には2つの種類があり、1つは自分の脳の中に現実という映画を投影するような認知構造、つまり目の前で起こっているものを、心の中で「これがこう起きている」とそのまま投影するということです。
もう1つは、その映画に意味を付与する意味生成構造で、映画をみて何となく辛い、楽しいといった意味を生成する構造です。
成人発達理論の段階をアセスメントする際には、その人が能動的、意識的に語っていることより、無意識的にどんな風に物事を捉えているかを見ます。

 

発達に必要なもの:振り返りと他者との交流

意識構造を発達させるためには、どうしたらいいでしょうか。
分かりやすくいうと、自分の世界とは違う世界に興味を持ち、実際に踏み出し、何か実践行動をして振り返ることを繰り返すと、より発達しやすいといえます。
周囲の環境も大事ですが、その人が枠組みを強化しようとしたり、批判的に捉える視点を持つ習慣があるかどうかが大事です。
振り返りは自分の頭の中だけで行うことは難しいため、先輩や同業他社の方、同僚など、様々な人に聞き、相談しながら実践できる人は発達が早いと言えます。

意識構造の発達に介入する場合は、個人、2者間、チーム、組織の4つの支援の場を、いかに使い分け、かつ日常的なものにしていくかが肝です。
よく企業の人事の方に、年1回の研修で効果をあげて欲しいと言われますが、それは無理です。
セルフコーチングをやりながら、週に何度か1on1を行い、アクションラーニングの取り組みも月単位で行いながら組織としても発達を促す、という重層的な形で支援ができることが理想です。
介入していく上で必要なポイントは、1つはその人が発達しやすい状態を整えることです。
車に例えると、その人の心が安定するようなサスペンション、意識を開こうという気持ちを高めるエンジン、直面している機会を糧にする燃料を重視していきます。
もう1つのポイントは、その人の段階に着目し介入するということです。
次の段階を目指すアクセルを踏み、停滞や退行を招くようなブレーキを外し、発達のロードマップを理解しながら現在の段階に気づくハンドルを握れるよう介入していくのです。

 

アクションラーニングと成人発達理論

アクションラーニングのセッションには、枠組み自体の学習が進むメリットがあると考えています。
1対1のコーチングのセッションでは、クライアントとコーチの枠組みの間で安定したストロークが起きますが、アクションラーニングは5人から10人で行われるため、枠組みも人数分存在することになります。
その分枠組みにゆらぎが起きやすくなるのです。
リーダーシップはこうあるべきだとか、ある状況に直面した場合こう対処すべきだ、という枠組みは皆さんそれぞれにあって当然ですが、同じ課題に対して違う枠組みが1時間という中で議論されるため、自分の枠組みを見直すきっかけとなり、アンラーニングが進みます。
これはコーチや講師が1人でやろうとすると相当な認知構造の発達が必要で非常に大変ですが、アクションラーニングのセッションではこうした学習が実現しやすいのです。

 

清宮普美代代表 コメント

アクションラーニングを実践していると、人が物事のとらえ方が変容する姿を目にすることが多い。
これは、まさに、アンラーニング(学習棄却)することでき、いままでの自分のとらえ方を脱却することができるという意味をもつ。
「ひとの器」が大きくなっていくようなイメージだ。
立石さんも指摘しているように、アクションラーニングのセットは、同じ課題を、個人が成長しやすい環境をととのえて(ALコーチが促進します)、相互フィードバックが機能する形で展開するので、アンラーンがうまれやすく、成人の発達が促進される実践的しくみになっている。
なにより、発達促進のパーソナルコーチングは、コーチの力量がとても必要(成人発達論的には発達段階の下位者は上位者の状況がわからないので、コーチはかならず、クライアントより発達段階が高くなければ機能しない)だが、アクションラーニングは集団として機能するので、コーチの発達段階に対してもだいぶまろやかになる(もちろん、認知構造が高いほうが、介入もしやすいことは事実)

※ (せいみや・ふみよ)
日本アクションラーニング協会代表。
株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役。
米国 ジョージワシントン大学 教育人材開発大学院(GSEHD) 修士。
マーコード教授のもと、アクションラーニングを学び、帰国。
外資系金融人事責任者を経て、現職。