「協働学習」は今の社会にこそ要請されている学び【書籍『対話流』切り抜き】

清宮 普美代 (著), 北川 達夫 (著)
“正解”のない変革の時代。対話的思考で学び合う力こそ、ビジネスと教育の現場を貫く「生きる力」。
対話的発想を根幹に据えて、ビジネスと教育の現場を結ぶ「学習・コミュニケーション環境」を創出する。
目次
協働学習の時代
前回のコラムでは、意見や報告を封印し、質問のみで問題解決を図る「質問会議」という手法を詳しく学んできました。
質問会議のように、個人単位ではなくグループで相談しながら問題を解決していく学習スタイルをを「協働学習」と呼びます。
近年、文部科学省も「協同的な学び」「主体的・対話的で深い学び」といった言葉を用いているので、どこかで一度は耳にしたことがある人がほとんどだと思います。
では、そのような学習スタイルは学校を卒業した私たちには無関係なのでしょうか。
実は、「協働学習」は今の社会で働く私たちにこそ要請されている学びであると言えるのです。
働く現場は “大人の学び舎”
学校が子どもの学び舎であるならば、会社というのは、現実の仕事を通して学ぶ中で日々成長していく、そのような「大人の学び舎」だと言えるでしょう。
そこでは、学校における〈先生ー生徒〉のような固定された規律や権威というよりは、自分たちの学習をいかに促進していくかという、大人の集まりとしてのリーダーのファシリテーション機能が重視されます。
特にここ十数年で、世界は大きく変化しています。
変化のスピードが速くなればなるほど、過去の成功体験が通用しなくなってくることは、前回の記事でも触れた通りです。
だからこそ、上司やリーダーが正解を教えるのではなく、上司やリーダーも含めたメンバー全員で「答えのない問題」に取り組んでいく働き方が求められているのです。
論理思考だけでは足りない!?
また、終身雇用や年功序列といったシステムが崩れていくなかで、組織自体をつくっていく時の方法も大きく変化しています。
例えば、実際に質問会議に参加したコンサルタントの方たちの声を聞くと、論理思考的な解決策を企業に持って行っても、その時はいいといっても、結局、組織のなかで活用されないことが多いというのです。
論理思考や専門能力のトップとも言える現役のコンサルタントから、このような声が上がることに驚いた方もいるでしょう。
ここで言えることは、絵に描いたきれいな計画だけでは人は動かないということです。
変化の激しい時代に対応しつつ、人を動かすためには、ファシリテーター力やアート思考といった、論理プラスアルファの思考やスキルが必要になるのです。
さらに近年は、日常業務においても、上司やリーダーはファシリテーターとして、部下やチームのメンバーの成長を促進することが求められています。
リーダーだから、マネージャーだから、部長だから偉いというような権威性が機能しなくなってきている今。固有の専門知識やノウハウも必要ですが、ファシリテーション能力、ひいてはコミュニケーション能力が、企業で働く全ての人にとって重要になってきていることは間違いなさそうです。
権威性が失われる?
「リーダーやマネージャーといった権威性が機能しなくなってきている」ということについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
実は、社会全般に言えることですが、民主主義が進めば進むほど、あらゆる権威が失われていくという現象が起きるのです。
分かりやすい例として、教室の中の話し合いを思い浮かべてみてください。教室で子どもたちに自由に意見を言わせていくと、多様な意見や自由な質問がたくさん出てきます。そんなとき、よほどうまくやる先生でないと、だいたいは統制が取れなくなってしまうことは、想像に難くないでしょう。
会社もそれと同じです。全員が対等にものを言えるとなると、上司・リーダー・部長といった権威的な地位に無条件ではいられなくなります。
そこで求められる能力の一つが、コミュニケーションをハンドルし、相手から何かを引き出していくファシリテーションの技術です。
専門知識や論理思考といったスキルに加え、ファシリテーションの技術を習得すれば、チームの学習を促進する際も、上司やリーダーといった権威に頼らずに済むはずです。
多様化のマネジメント
ここまで、働く私たちにとって「協働学習」という学習スタイルがいかに重要であるかを見てきました。
このように「メンバー全員で問題を解決する」というスタイルに基づく働き方は、現代の課題である「価値観の多様化」にもヒントを与えてくれます。
私たちは、国境を越え、バックグラウンドを越え、多様な価値観を持つ人と一緒に働くことが当たり前の時代に生きています。
多様な個によって構成される世界において大切なことは、何か一つの価値観を正しいと考えて閉じこもるのではなく、むしろ個の違いを際立たせて多様性を活かすことです。
そのためにも、どこのだれとでも協力して創造的に問題解決できるような能力が、より一層重要になるのです。
では、そのような「問題解決」を行うために必要となる力はなんでしょう?
次回は、「問題解決」のために必要となる思考の枠組みそのものについて、もう一段深く掘り下げます。

株式会社ラーニングデザインセンター 代表
東京女子大学文理学部心理学科卒。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MA in HRD)取得。大学卒業後、株式会社毎日コミュニケーションズ(現 株式会社マイナビ)にて事業企画や人事調査など数々の新規プロジェクト従事後、渡米。日本組織へのアクションラーニング(AL)導入について調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者、社長室長を経て、株式会社ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。日本人として初めて、マスターアクションラーニングコーチに就任。育成したコーチは1000名を超える。現在は企業への人材育成・組織開発に携わるとともに教育のフィールドでのアクションラーニング普及にも精力的に活動している。