対話に必要なスキル「読解力」を鍛える【書籍『対話流』切り抜き】
清宮 普美代 (著), 北川 達夫 (著)
“正解”のない変革の時代。対話的思考で学び合う力こそ、ビジネスと教育の現場を貫く「生きる力」。
対話的発想を根幹に据えて、ビジネスと教育の現場を結ぶ「学習・コミュニケーション環境」を創出する。
今回は、対話に必要なスキルのひとつである「読解力」に注目します。
「読解力」って、国語の授業でよく言われるあれのこと?対話とどんな関係が?と思われた方もいらっしゃるでしょう。
そのような方のためにも(もちろん、そうでない方にも知ってほしい!)、このコラムではまず「読解力」とは何かというところから始めましょう。
目次
そもそも「読解力」とは
「読解力」とは、文章を読んでその内容を理解する能力を指します。
これは日本だけに存在する概念ではなく、OECD(経済協力開発機構)が実施している国際テスト「PISA」の科目としても設定されている、グローバル・スタンダードの能力です。
少し話は逸れますが、PISAの読解力のテストは、日本の国語のテストとは大きく異なります。
異なると言っても、物語を読んで回答する、という大きな流れは日本のテストと同じです。
最も大きく異なる点は、その物語を「相手」に見立てているところです。
すなわち、物語という「相手」の言い分をよく聞き、その価値観を知り、価値観の正当性を評価し、それを自分の価値観と比較しながら、物語という「相手」の言い分に応えるかたちで自分の意見を述べることが求められます。
つまり、いかに物語などのテキストと対話することができるか、というコミュニケーション型の読解力が問われるのです。
もちろん、このような読解力は、対テキストのみならず対人間のコミュニケーションにも非常に有効です。
なぜ今回のコラムで「読解力」をテーマにしているか、お分かりいただけたでしょうか?
PISA型読解力
PISAの読解力は「情報の取り出し」「解釈」「熟考評価」という三つの活動で成り立っています。
「情報の取り出し」
PISAの定義する「情報の取り出し」を一言で表すと、解釈の手がかりになる情報を集めることです。
例えば、次の問題に答えてみてください。
①桃太郎が腰につけていたものはなんでしょう?
②桃太郎が鬼に勝利するために重要な役割を果たしたモノはなんでしょう?
①の答えは、紛れもなく「きびだんご」ですね。
これは、物語を読めばすぐに発見できます。
では、②の答えはなんでしょう?
これも「きびだんご」かもしれませんが、人によっては「仲間の絆」「コミュニケーション能力」「桃太郎のリーダーシップ」・・・・・・など、違う答えが返ってくるかもしれません。
ただ、ここで大切なのは答えではなく、どこを読んでそう考えたか、ということです。
あなたは②の問いに答えるために、物語全体から、ヒントとなる情報を選び出したはずです。
複数の場面を思い返しながら選び出したヒントを統合して答えを導き出す、①の問題とは全く異なる思考のプロセスをたどったのではないでしょうか。
このように、PISAの定義する「情報の取り出し」とは、テキストに埋まっている答えを発見するのではなく、答えを考えるために必要な情報を自ら選び取る作業であると言えます。
また、前者のような事実の断片としての情報をインフォメーション、後者のように解釈を成り立たせていくための情報をインテリジェンスと言います。「情報の取り出し」とは、まさにインテリジェンスを取り出す作業とも言えるでしょう。
「解釈」
PISAの「解釈」は、一言で表すと「推論」を意味します。
先ほどの「情報の取り出し」との関係でいうと、インテリジェンスとしての情報を「点」とすると、「点」と「点」の関係性、すなわち「線」を見いだしていく活動と言えます。
さらには、目に見える「点」と「点」を「線」で結びつけ、それらの「線」と「線」の織りなす構造から、新しい「点」を見いだしていく活動も「解釈」です。
ここでのポイントは、一見すると見えない関係性をいかにして見いだしていくかということです。
そのためには、単独の情報から物事を測るのではなく、複数のインテリジェンスを取り出し、二重・三重と解釈を重ねる思考のプロセスが重要となります。
「熟考評価」
今まで見てきたような「情報の取り出し」と「解釈」を重ねると、問題の所在や性質が明確になり、そこに主張が生まれます。その主張を文章で表現することが「熟考評価」です。
ただし、PISAの言う「熟考評価」は、ただ「テキストを読んで、それに関する意見を書く」ことだけではありません。
ここでなによりも大切なのは、意見の基盤となる構造が完成されているかということです。
この基盤を作る作業が、まさに今まで見てきた「情報の取り出し」と「解釈」に当たります。
関係性から情報を見いだす「情報の取り出し」と、情報と情報の関係性を見いだす「解釈」は、対をなす活動です。これらを積み重ねていくことで、主張の基盤が作られ、はじめて論理的に構成された主張を成り立たせることができるのです。
まとめ
今回は、PISAをヒントにしながら「読解力」について学んできました。
繰り返しになりますが、これはただテキストを相手に問題を解く場面だけでなく、人と人とがコミュニケーションを取る場面においても必ず役立ちます。
私たちが対話をするとき、そこには必ず「◯◯だと思う」「自分は△△だと感じた」といった主張が現れます。その主張は、どのような思考をたどって生まれているのでしょう?
ぜひ、次に誰かと対話をするとき、今回のコラムを思い出してみてください。
日本アクションラーニング協会 代表理事
大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中
株式会社ラーニングデザインセンター
東京女子大学文理学部心理学科卒
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ(MALC)