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日本アクションラーニング協会情報

「歩み寄るコミュニケーション」による合意形成【書籍『対話流』切り抜き】

この記事は、書籍:対話流をもとに記事を再構築した切り抜き記事です。

清宮 普美代 (著), 北川 達夫 (著)

“正解”のない変革の時代。対話的思考で学び合う力こそ、ビジネスと教育の現場を貫く「生きる力」。
対話的発想を根幹に据えて、ビジネスと教育の現場を結ぶ「学習・コミュニケーション環境」を創出する。

価値観はときに対立する

先月から連載しているこのコラムも、今回で6本目となります。
前回まで、質問型コミュニケーション・ファシリテーション力・リフレクションといった様々なテーマを扱ってきました。それらの5本に共通して常に強調してきたことは、価値観の多様化という背景です。
価値観の多様化は、私たちに新たな発見や変革の機会をもたらしてくれる一方で、ときに対立を呼び起こします。
このコラムを読んでいる皆さんにも、自分と全く異なる考え方を持っている人に「話にならない!」と憤ったり、感情的に批判したくなった(もしくは批判してしまった)経験が、一度はあるのではないでしょうか。
そのようなときに、衝突を避け、お互いに合意した状態で結論を出すにはどうすればいいでしょうか?

「闘うコミュニケーション」では解決しない

例えば、「交通の利便性を高めるために、この土地に高速道路を建設しよう」と言う人たちと、「この土地の自然環境を守るために、高速道路建設に反対しよう」と言う人たちがいるとします。このときに、双方の間でどのようなコミュニケーションが可能でしょう?
主張は真っ向から対立していますし、完全に相互排除的な内容です。
このような状態で感情的に「闘う」コミュニケーションを取ってしまうと、どれほど言葉を巧みに使いこなしても、互いに相手を非難し合うだけで、解決には繋がりません。

そこで、「闘うコミュニケーション」に替わり「歩み寄るコミュニケーション」という発想が出てきます。
すなわち、相手を否定して自分の意見を主張するのではなく、互いに歩み寄って解決を図ろうという発想です。

歩み寄る対話の4ステップ

では、そのような「歩み寄るコミュニケーション」はどうやって行えばいいのでしょう?
主張が真っ向から対立している状態では、お互いが「相手が間違っていて、自分こそ正しい」と信じているわけですから、そもそも歩み寄ることができません。
そこで、それぞれの主張の背景にあるもの、それぞれの価値観の前提となっているものにまで遡ることで、初めて歩み寄りの契機が生まれます。
最初に挙げた高速道路建設の例になぞらえて、詳しく見ていきましょう。

1.「価値の優先順位」を考える

まずは、双方がどのような価値を重視しているのか遡ってみましょう。
推進派は道路の「利便性」を第一に考えています。一方、反対派は「環境」を第一に考えています。一見、この時点で価値観が衝突しているように思えます。
ただ、推進派にしても「環境」の価値を知らないわけではないですし、反対派も「利便性」という価値を完全に否定しているわけではありません。ならば、少なくとも価値の優先順位に関しては「自分はそうは思わないが、相手がそう思うことも理解できる」と、相手の正当性を認めることができるのではないでしょうか。

2.「発想」を考える

次に、それぞれの価値の優先順位がどのような考えに由来しているのか考えてみましょう。
推進派は「高速道路建設は利便性に資する」と考えていますし、反対派は「高速道路建設は環境を破壊する」と考えています。先ほど整理した価値の優先順位を考えれば、当然の発想といえますね。ならば先ほどと同様、相手を「話にならない」と突き放すのではなく、「自分はそうは思わないが、相手がそう発想することも理解できる」と正当性を認めることができるはずです。

3.「主張」を考える

それぞれの価値の優先順位と、それに基づく発想から、「だから高速道路を建設する」「だから高速道路を建設するべきではない」という主張が生まれます。
たしかに双方の主張は対立しています。しかし、1〜2のプロセスにおいて価値のレベルにまで遡って相手の正当性を認めてきていますから、もはや相手を絶対悪としてみなすことはできないはずです。

4.歩み寄りによる「合意形成」

このようなプロセスを経て、お互いの正当性を段階的に認め合い、双方が歩み寄る気持ちになることで、初めて合意形成をすることができます
例えば、当初の建設計画を環境に配慮して大幅に変更し、推進派が「利便性が多少は損なわれるが仕方がない」と考え、反対派が「環境が多少は損なわれるが仕方がない」と考えれば、合意形成が成り立ちます。
ここでは、推進派が勝って反対派が負けた、というような勝ち負けで考えるべきではありません。あくまでお互いの正当性を認め合った上での合意形成ですから、むしろ歩み寄りの結果であると考えるべきでしょう。

妥協は決して悪くない

「歩み寄るコミュニケーション」による合意形成は、おおむねこのようにして行います。
しかし、なかには「それは妥協ではないか」と思われた方もいるでしょう。しかし、そもそも妥協は悪いことなのでしょうか?
先ほど紹介した対話のプロセスにおいて、相手の意見や価値観の成り立ちを知り、そこに正当性が認められるかどうかを考え、歩み寄りのポイントを探すことには大きな意味があります。それは、潜在的な問題の所在が全て明らかになり、相手の意見を深く理解することができるからです。

自分の意見に自信を持っていれば誰でも、相手を完全に説得して納得させることが理想的であると考えてしまいます。
しかし、歩み寄りの対話で自分とは異なる考えに触れると、ときに自分の意見や価値観が変わることもあります。
対話とは、相手だけではなく自分自身が変化できる可能性も与えてくれる、言うなればポジティブな妥協を創造するプロセスであると言えるでしょう。

清宮 普美代(せいみや ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表理事

大学卒業後、毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。米国の首都ワシントンDCに位置するジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。2006年にNPO法人日本アクションラーニング協会を設立し、国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。600名強(2019年1月現在)のALコーチを国内に輩出している。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。アクションラーニングの理解促進、普及活動を展開中
株式会社ラーニングデザインセンター
東京女子大学文理学部心理学科卒
ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士(MAinHRD)取得。
マスターアクションラーニングコーチ(MALC)

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